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幼ナーガは今日も生きてます!!  作者: なかみゅ
第三章 歌って踊る幼ナーガ
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第68話 少年をどぎまぎさせる幼ナーガ



 ***



「ガレディア、また行っちゃうの?」


 公演を終えてしばらく経ったある日の朝、少女らは璧門の前に集まっていた。

門は既に上がり切っており、灰色の衣を纏う竜人の傍らには数名の衛兵が付き添っている。


「うむ。まだ魔術師から手に入れた保湿液の代替が手に入っておらぬのだ。もうじき切らしてしまう以上は追加を調達しに行く他あるまい」


 本来であれば消耗する前に人の地(フラノス)で代りになりそうなものを探すはずだったのだが、想定以上に早く減ってしまった。

少女が毎日川へ潜って流れてしまうたびに塗り直していたからだろう。


「……わかった。いってらっしゃい、ガレディア」


少女は少しだけ考えてから綺麗な唇を平坦にして言った。


「はっはっは! もう三度目にもなる。流石に慣れたか。ただな、あまり何度もあちらとこちらを行き来すれば王軍に見つかる危険も増える。其方を待たせるのはこれで最後にしようと思っているのだ」

「うん」


 少女は口の端を持ち上げて頷く。


 王軍の捜索が活発になっている。竜人は魔術具の件で夜の地(ノクティス)に赴いた時、そのことに気付いている。本来であれば今回の出向は控えたいところであったが、保湿液が切れれば竜人は少女をろくに街中へやれなくなる。


 ここで王軍の目を逃れたとしてもそれでは役人との約定を果たせなくなる。

 竜人は身を翻して三日間の別れを告げる。


「ではな、セレン」

「……待ってガレディア」


 竜人が門を潜る直前、少女は追いかけて彼の片手を取った。


「できるだけ、早く戻ってきて」


 竜人を見上げる少女の瞳は切なそうである。

 強がっても寂しいものは寂しいらしい。


 彼は少女の頭に手を置いていつものようにはっきりと告げた。


「無論である」

「うん」


 少女は春の花のように微笑んだ。

 竜人は門を抜けて再び夜の地(ノクティス)へ向かった。


 少女はエルシィや少年達と一緒にお馴染みの道を辿って川へ向かい、人とすれ違えば挨拶を交わしてゆく。


 この光景も町では随分と見慣れたものになった。


「セレンちゃん、おはよう」

「今日も朝から魚を捕まえに行くのかい? 小さいのに偉いな」

「陽射しが強いから無理しないでね」


 市民の多くは近所の子どもを見かけた時のように快く返してくれる。


 少女がシルトにやってきて八四日が過ぎ、彼女はすっかり町に溶け込んでいた。

 人を見かければびくびく怖がって竜人の背に隠れていた頃とは見違えるようだ。


「おう、嬢ちゃん。今日もその子と一緒かい?」


 声をかけてきたのは石材を抱えた石運び現場の若い仕事人だ。これから現場へ向かう所らしい。


「うん。カイ、いつもわたしにくっついてくるの」


 少女が答えると、彼は感心したような顔をする。


「そうかい。君らは仲がいいなあ」

「うん」


 少女が何の気なく首を縦に振ると、仕事人は意外そうに目を丸くしてから笑った。


「ははっ、嬢ちゃんは素直な子だ。また後でな」


 背を向ける直前、彼は少女の隣で俯く少年に視線を向け、にやりと口端を持ち上げながら小さな声で呼びかけた。


「少年、頑張れよ!」


 仕事人は行ってしまった。少年は何も答えなかった。


 最近では毎日少女の隣にいる少年の心中に町の人々も勘付き始めたらしく、噂好きの間では話題の一つになっている。時折ちょっとしたからかいの言葉をかけてくる輩まで現れる始末だ。


「カイ」

「なに、セレンちゃん」


 少女がふと気付いたように少年の顔をまじまじと見つめる。


「なんか、最近顔赤い。平気?」

「な、なんのこと? 気のせいじゃないかな」


 誤魔化そうとする少年の額に少女のひんやりとした手が伸びてくる。柔らかい金の前髪を分けて少女の小さな手がぺったり触れると、今度は自分の額に手をやって少女は言う。


「カイのおでこ、あっつい」

「え!?」


 少女は前に倒れた時エルシィがやったのを朧げに覚えていて真似ているらしい。

 少年はびっくりして慌てたけれど、すぐに落ち着きを取り戻して弁解した。


「僕のおでこが熱いんじゃないよ。セレンちゃんのおでこが冷たいから」

「そうなの?」

「うん!」


 少女は大きく首を振った少年にもう一度白い手を伸ばすと、掌を軽く握るようにして、指の甲側で彼のふっくらとした頬を優しく撫でた。そうして口元を緩めて彼に言った。


「よかった」


 少年はどきっとして、言葉が出てこなかった。 

 少女が何事もなかったように前を向くから少年も歩き始める。


 近頃の彼の身の周りのもう一つの変化は、なんだか少女がさりげに彼の手を握ったり頬を触ったりしてくるようになったことである。少年は嬉しい反面人々の視線も気になってどきどきするばかりである。


少年は悶々と少女の胸の内を考えながら可愛らしい横顔を見やるのであった。



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