第67話 公演の後の団欒
「ところで、あなたは何でここにいるんですか?」
エルシィは部屋奥の隅に立って蛇尾族の少女の食事風景を眺めている男にじっとりとした視線を向けた。
彼は公演で暴徒を指揮していた青年だった。
「先のことは謝る。だが、その子は俺がここにいることを嫌がっていないようじゃないか。なら別にいいだろう」
青年は開き直ったとも不貞腐れているとも見える顔で宣った。
「あんなことをしでかしておきながらよくのこのことついてこられますね。ガレディアさん、いいんですか?」
厳しい言葉を期待してエルシィが尋ねると、竜人は何食わぬ顔で言う。
「この男に敵意はなさそうだ。武のあるでもなし、セレンの虜になった者は快く迎えようではないか」
「私が言うのもおかしいですけど、あなたは時々人間に寛大過ぎると思います」
エルシィはげんなりと口元を歪める。
少女は部屋の隅でぽつんと立つ青年を見て、ふいに魚の串焼きを皿の上から一本取り上げると、床の上を這いずって彼の方に持っていった。
「あげる」
「いいのか?」
「うん」
少女は青年だけ食事の輪に混じれないのを不憫に思ったらしい。
青年は串焼きを受け取ると一口齧った。
「ありがとな」
青年はむぐむぐと口を動かしながら呆気に取られるエルシィに言い返した。
「この子はな、俺みたいな奴に仲良くなれそうだって言ったんた。俺はその心の広さに感服した。それだけのことさ」
エルシィは仕方なさそうに溜息を吐いた。
「セレンちゃんが認めているのなら仕方ありません。クリストフさん、でしたっけ? 二度とあんな真似しないでくださいね」
「言われなくとも分かっている。というか、暴動を唆したのはお前達じゃないか」
「うっ」
そう指摘されてしまうとエルシィも二の句を継げない。
「ともかく君達は愛らしく歌って踊るセレンちゃんの姿を拝むことができたんだ。しかも二度とは見られないかもしれない可愛らしくて煽情的な衣裳付きでね。喜ぶべきことじゃないか」
「煽情的ってなんですか! 私そんなつもりであの服を着せたんじゃありませんから! というかリアムさん、あんなにセレンちゃんの舞台を楽しみにしていたのにあまり残念そうじゃないですね」
勇者は少女が歌っている間、宿で寝込んでいたので舞台を鑑賞できていない。
エルシィが不思議そうに尋ねると、彼は大仰に悩まし気な風を装って答えた。
「そりゃあ俺だって残念さ。でも、見逃したならまた次を待てばいい。それだけの話だろう?」
「投票までには、もうあまり日が」
「なら、投票が終わってからやればいい」
「リアムさん……そうですね」
勇者の言葉にエルシィは微笑んだ。
勇者は席に戻って魚の串焼きを齧る少女の傍らに跪いて恭しく問いかける。
「セレンちゃん、俺だけじゃない。きっと街の皆もまた君の歌と踊りが見られるのを心待ちにしているはずさ! 生き残るのに皆の心を惹きつける必要がなくなっても、俺達の為に歌ってくれるかい?」
少女は串焼きを皿において勇者と目を合わせると、照れたようにはにかんだ。
「いいよ。また歌ってあげる」
「これはありがたい! なら次回は是非とも純白の貝殻の胸当てで舞台に!」
「リアムさん! またすぐそういう変態的な欲求を開けっ広げにするんですから!」
「ぼ、僕はセレンちゃんならどんな服でも可愛いと思うよ!」
「はっはっは! 最早セレンはこの街の歌姫と呼ばれてもよいのではないか? 実に喜ばしいことだ!」
勇者とエルシィは次の公演のことで口論を始め、少年少女は投票の先の未来に想いを馳せ、竜人はただ上機嫌に笑う。
騒々しくも活気に溢れた団欒の中、少女の公演は幕を閉じたのだった。




