第61話 勇者卒倒
「もしかして公演に苦情を訴えてきた人達でしょうか?」
「うむ。そうだろうな」
竜人は落ち着き払った声で返す。どうやら市長に訴えても聞き入れられないのに業を煮やして直接公演の邪魔をしにきたらしい。
「そんな……!! なんとかしないと! リアムさん、ここはあなたの出番です!! 勇者であるあなたの言葉ならきっと皆聞いてくれるはず!」
「ちょ、ちょっと待ってくれエルシィさん!」
いやに慌てた顔で首を振る勇者の背をエルシィは後ろからぐいぐいと押しながら話す。
「何を悠長なことを言っているんですか!? 早くしないとセレンちゃんの舞台が台無しになります! こんな時こそいつもの嫌味なくらいの明るさを発揮する時ですよ!」
「お、落ち着いて話をしようじゃないか! ここ、これは作戦なんだ! 俺が出るまでもないことさ!」
「つべこべ! 言わずに! さっさと! 行ってください!」
「うおおっ!?」
エルシィが勇者の背を思い切りど突くと、遂に勇者はすっぽーんと子気味よい音を立てそうな勢いで群衆の中に押し出された。
ごった返す人々を目の前にして勇者は何やらわなわなと震え出した。
「……リアムさん?」
「俺は、俺は……人がうじゃうじゃいるのとかほんとに駄目なんだよおおおおおおお!!」
広場中に轟くような絶叫を一人迸らせ、彼はそのままぱったり倒れてしまった。
「ええ!? リアムさん!?」
「主よ!」
エルシィがびっくりして声を上げた直後にどこからともなく黒衣の人が飛び降りて来て倒れ伏した勇者を抱え上げた。
流石の竜人もこの事態には驚いたのか目を丸くしている。
「あ、あの、リアムさんどうしたんでしょうか?」
「言いづらいのですが……我らの主は呪われているのです」
「え?」
困惑顔のエルシィに勇者の仲間は弁解するような調子で加える。
「話せば長くなるのですが、主はかつて倒した夜の地の魔術師に、人に囲われると気絶する呪いをかけられたのです。だから人が沢山集まる所は徹底して避けていたのです」
「そ、そうなのですか。何というか、その、すみませんでした。……大丈夫なんですか? リアムさん」
エルシィが申し訳なさそうに詫びると、勇者の仲間はふっと微笑んだ。
「エルシィ殿が謝ることではありません。こうなると主はしばらくうなされますが、そのうち目を覚ますでしょう。私は主の介抱をせねばなりませんが、セレン殿の健闘を祈っております」
勇者の仲間はエルシィに一礼すると勇者を抱えて軽やかに跳び去っていった。
エルシィはそれを見届けてハッとする。
「そうだ! あの人達をどうにかしないと!」
彼女が目を向ければ、少女の舞台を邪魔せんとする暴徒達は魔族の罵倒を続けていた。
「魔物を舞台に上がらせるな!」
一団の指導者らしき青年が声を張り上げると、彼らは人込みを強引に掻き分けて舞台に向かってゆく。
その時だった。
「なんだお前ら、邪魔をする気か!?」
暴徒達の動揺の声が響いた。
「ああ、その通りだ! 舞台に上がりたくば俺達の屍を超えてゆくんだな!」
そんな風に宣う声が聞こえてエルシィがはっとそちらを見ると、舞台を守護するように両手を広げて一列に並ぶ集団があった。
見覚えのある顔ぶれだった。
先日市庁舎に乗り込んできた少女の親衛隊である。




