第58話 幼ナーガ親衛隊
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「彼らはセレンちゃんの親衛隊さ!」
エルシィ達は市庁舎を出て勇者達と合流したところだった。
「親衛隊? いつの間にそんなものを作っていたんですか!?」
エルシィは瞳を見開いて勇者に問いかけた。
「別に俺が作った訳じゃないよ。表立っては知られていないが、前の公演でセレンちゃんの味方についた人が結構いてね、その内の何人かが自発的に同士を集めて親衛隊を作ったんだ」
勇者の言葉を聞いてエルシィは不審げに眉を寄せながら尋ねる。
「そんなものがあると知っていたのなら、どうして私に教えてくれなかったんですか?」
「……セレンちゃんの親衛隊は女人禁制だからね!」
「なんですか今の間は!? いかがわしい匂いがぷんぷんします。というか、本人すら知らないっておかしいじゃないですか!?」
エルシィの形相が恐ろしく歪んでゆくけれども勇者は一向に気にすることなく歌うような声で続ける。
「彼らはセレンちゃんが人見知りなのも心得ているからね。決して己から言葉をかけることなく影から見守るのが信条なんだ。たまに俺の仲間に交じってもの影から覗いているよ」
「それ、最早変質者じゃないですか。さらりとぞっとするようなこと言わないでください!」
エルシィの青ざめた顔に勇者も彼女が本気で嫌悪しているのを感じ取ったらしい。
「顔色を悪くしないでくれよエルシィさん。ちょうどよく彼らが市長のところに駆けつけて来られたのも、そのお陰でセレンちゃんの公演に危機が迫っているという情報を一早く掴むことができたからじゃないか。公演を守ったのは彼らだろう?」
「……ま、まあ確かに。セレンちゃんのことを受け入れてくれる人達がこの町にあんなに沢山できたことを思えば、心強いと、そう言えなくもないのかもしれません」
そもそも、少女の裸踊りに魅せられて集った男達がまともであるはずがないのではないかという今更の疑念に気付きつつも、エルシィは頬を引き攣らせながら肯定の言葉を絞り出した。
「それよりも、エルシィさんの話だとセレンちゃんのことを疎ましく考える市民がまだ多くいるようじゃないか。先の投票で確実に生き残る為には彼らを何とかする方法を考えないといけないんじゃないかい?」
エルシィは唐突に緊張感のある空気を醸し出す勇者の態度にわざとらしさを覚えざるを得なかったが、放っておけない問題であることは確かだった。
彼女は片手を支えに肘を突いて思案する。
「市長の口振りだとセレンちゃんの公演に反対している人達の心を変えるのは難しそうです。今回みたいに催し物を開いても足を運んでくれない気がしますし、接触すること自体が大変かもしれません」
エルシィは険しい顔で私見を口にする。
「ふむ。この町に来て数十日経つが、そこまで我らを拒絶する輩のことは知らなかったからな。向こうが意図的に避けているのだろう」
「そうですね。このことについては後日またじっくりと――――」
「それなら俺にいい考えがある」
「え?」
彼女がきょとんとして勇者に聞き返すと、彼は竜人に何事か耳打ちし始めた。
「ふむ、ふむふむ。面白そうではないか! 許そう!」
竜人は悪戯の計画を聞かされた少年のように口の端を吊り上げた。
「なんですか!? リアムさん、あなたは一体何をガレディアさんの耳に吹き込んだんでか?」
心配になってきてエルシィが勇者に詰め寄ると、彼はお茶目に片目を瞑って人差し指を唇の前に立てた。
「それは秘密だよエルシィさん。大丈夫、きっとうまくいくから君はセレンちゃんの助力に徹してくれ!」
自信満々に言ってのける彼の言葉にエルシィはますます不安と不満を募らせる。
「もう! また私だけ仲間外れですか!? なんだかよく分からないですけど、今度セレンちゃんを破廉恥な目にあわせたりしたらただじゃおかないですからね!」
エルシィは咆えるのだった。




