第53話 歌を作る幼ナーガ
***
さあ、わたしに 跪いて
お腹いっぱいの お魚を貢ぎなさい
可愛いからって なめないでよね
あなたのからだ ぽっきんしちゃうぞ
わたしに出会えたことが
あなたのしあわせ♪
「こんなの駄目に決まってるでしょう!? なんてことをセレンちゃんの口から言わせようとしているんですか!」
エルシィは紙面のメモから顔を上げて竜人に食ってかかる。
少女ら五人は昨日同様、旧仮住まいに集まり公演の詳細について考えていた。
先日少女が披露した歌は竜人と勇者が共同で作詞作曲したものだ。
その時のメモが残っているということで、少女が歌を考える材料として声に出して聞かせてやっていたエルシィだったが、一枚目から手を止めることになった。
「あまり眉を顰めると綺麗な顔が台無しだよエルシィさん。彼女の歌は俺が責任を持って素敵に可愛らしく整えたからね。完成した歌詞に問題はなかったろう?」
石壁に凭れた勇者がいつものように前髪を掻き上げて白い歯を煌かせた。
「言葉面だけなら悪くなかったですけど、あの時のセレンちゃんの格好を考えたら破廉恥極まりない内容でしたよね!?」
エルシィは、
みて みて みて
わたしはなにもかくしたりしないわ♪
と全裸で熱唱する少女の姿を思い出して顔を赤くしながら声を荒げる。
「何を言っているんだい? 俺はただ、この子の魅力が一番伝わる言葉を選んだだけだよ。エルシィさんの指摘は最もだが偶然の産物さ」
勇者の言葉を聞き流しながらおざなりな手付きで紙束を繰るエルシィの瞳に飛び込んできた文言があった。
こちらにおいでよ おにいさん
あついきもちでとかしてあげる
わたしとひとつになりましょう♪
これを考えたのが竜人と勇者どちらであるのかエルシィには明白だった。
「リアムさん! 偶然じゃないでしょう!?」
小一時間かけて束を読み終えると新しい歌の参考にできそうな案は結局半分ほどだった。
「セレンちゃん、どうかしら? 歌、作れそう?」
「やってみる」
少女は文字の読み書きができないから、彼女がぶつぶつ呟く言葉を隣でエルシィが紙面に書き留めてゆく。
少女は詩や歌を感じる才能とは無縁であったが、眉根を寄せて難しい顔をしながら考えている。
そんな少女の姿を眺めながらエルシィは心配そうに懸念を述べる。
「でも、セレンちゃん、大丈夫でしょうか? また大勢の前で歌ったり踊ったりさせて、先日みたいなことにならないか不安です」
しばらくの後、竜人が意見を述べた。
「ふむ。それなら俺に考えがある。小僧を助けた時の魔術師が此度の公演に折よく使えそうな魔術具を所有していたはずだ。一度セレンを置いて夜の地に戻らねばならぬが、うまくすれば舞台を派手に盛り上げる小道具としても役立つだろう」
「え」
蛇尾族の少女が呆然と顔を上げる。
「すぐ、戻って来る?」
少女は不安そうに竜人を見つめながら問いかける。
「此度は緊急の要件でもない。馬を借りることもできぬ故三日程はかかるだろう」
「長い」
「そんな顔をするな。其方が憂いなく舞台に立つ為に必要なことだ。待てるな、セレンよ」
竜人は少女の頭に大きな掌を乗せて言う。少女はしばらく沈黙して迷っている様子だったが、今回は彼女の望んだことが元だ。嫌だと言いたいのをぐっと堪えることに決めたらしい。
「……わかった」
翌日の早朝、竜人は再び夜の地へ向かった。




