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幼ナーガは今日も生きてます!!  作者: なかみゅ
第三章 歌って踊る幼ナーガ
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第52話 歌と踊りに目覚める幼ナーガ



 ***



「わたし、もう一回人間の前で踊ってみたい」


 翌日の昼。

 旧仮住まいで食事を取っている折のこと、少女は手を止めて言った。


 少女は医者が調合した薬の効果もあり一晩ですっかり元気になっていた。

 今はゆったりした空色の服に身を包んでおり、机の上では齧りかけのパンがスープに浮いている。


「セレンちゃん、昨日あんなことになったばかりじゃない。無理に皆の前に出なくてもいいんじゃないかしら?」


 少女の傍らに立つエルシィが心配そうに尋ねる。


「でも、前よりも人間が懐いてくれた」

「それは……そうかもしれないけど」


 少女の言葉は本当だった。

 昨日の一件を経て今日の朝、道をすれ違う人々の中で少女へ露骨に警戒の視線を向ける者が減っていた。中には倒れた少女の体調を気にかけてくれる市民もいた。


 素っ裸で舞台に立つ少女の姿は市民の多くを困惑させたが、竜人の目論見もある程度は達成されていたらしい。


「僕はセレンちゃんがまた踊るのに賛成だな!」


 少女の隣に座る少年は両手を広げて元気よく主張する。


「セレンちゃん、踊ってるところ凄く可愛かったし、昨日はそれどころじゃなくなっちゃったけど、もう一回元気に踊って見せたらきっと街の人気者になると思うんだ!」

「分かる……分かるぞ少年! 君もその子の麗しい体をもう一度見たいんだね!」

「そうなの?」


 勇者が何かを悟ったような顔で少年に親しげな言葉をかけると、それを聞いていた少女が尋ねてきた。すぐ隣で少年を見つめる彼女の瞳は澄んだ空のように鮮やかだ。


 少年は顔を真っ赤にしながら慌てふためく。


「ええ!? ち、違うよ、そんなことないから!」

「リアムさん、カイを苛めないでください! でも、この子がどうしてもやりたいのなら、昨日の正気じゃない公演をもう一度仕切り直してもいいかもしれません」

「なんだ小娘。あのようなことを言っておきながらどういう風の吹きまわしだ?」


 少年の横で竜人がからかうように口を挟むとエルシィはきっとした眼差しで睨み返した。


「私がガレディアさんに怒ったのはセレンちゃんを裸で人前に出したからです! 皆の前で催しものをすること自体は、私だっていい案だと思っているんです」


 そしてエルシィはこほんと一つ咳払いをしてから堂々と宣言した。


「ただ、あなた達二人に面倒を見させたらまたどんなとんでもないことになるか分からないですからね。もし次の公演を開催するなら、今度は私が監督します!」


 エルシィは少女に問いかける。


「セレンちゃん、本当にもう一度舞台に立ちたい?」

「わたし、やりたい」


 少女は熱の籠った眼差しで迷わず決意を口にした。


 エルシィは嬉しそうに少女の小さな手を握った。


「そう! なら、一緒に頑張りましょう! 楽しみだわ!」

「小娘、やけに意気込んでいるな」

「当たり前です。セレンちゃんが躍るんです。可愛いに決まってるじゃありませんか。別に、私のいない時に楽しそうなことをしてたのが羨ましかった訳じゃないですからね」


 彼女はダークブルーの瞳をわずかに逸らしながら付け加える。


「エルシィ、わたし、歌、考えてみたいの」


 少女は興奮気味な語調で、いつもより少し早口に主張した。


「分かったわ、セレンちゃん。でも、まだ昨日の今日だし、そんなに急がなくてもいいんじゃないかしら。それよりも今日は持ってきたものがあるの」


 エルシィは明るく言うと、足元に置いていた籠を手に取り中身を取り出した。皆に視線を向けて説明する。


「昨日は渡している時間が無かったんですけど、セレンちゃんにお土産を買ってきました。うちの子達の分を買ったついでですけど、喜んでくれたらと思って」


 エルシィが広げたのは深い青色の布だった。衣類に見えるが、少女が普段着ているものとは布地が異なるようだ。

 それに少女の服はどれもゆったりとして風通しがいいが、エルシィの広げている物は少女の肌に密着するような大きさである。


「水の中でも動きやすい服です!」

「ほう。なにやら珍しい物を手に入れてきたのだな」


 竜人がエルシィの手にある布を見て言う。


「旅先が海の近くだったもので。向こうの人達は娯楽に海で泳ぐことも多いから、こういうものに需要があるんです。水分を弾く樹脂で表面を加工しているから水を吸って重くなることもないし、布地に伸び縮みする素材を使っていて、体にぴったりくっつくので水の抵抗を少なくできます」


 エルシィは自慢するような口振りで紹介した。


「これさえ身に付けておけば、毎日川に潜る時リアムさんの不埒な視線を気にする必要もないという訳です! さあ、セレンちゃん! これを―――――――」


 言いながら、エルシィが期待の籠もった眼差しを少女に向けると、彼女は微かに眉根を寄せて全身から黒い空気を醸し出していた。


「…………なんか、窮屈そう」

「え」


 その一言が少女の心中を物語っていた。


「……せっかく可愛いの選んだのに」


 エルシィは少女に背を向けてしょんぼりと独り言ちた。



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