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幼ナーガは今日も生きてます!!  作者: なかみゅ
第三章 歌って踊る幼ナーガ
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第51話 怒るエルシィ



 *** 



「そんなことだろうとは思ってましたけど、やっぱりあなた達の悪ノリだったんですね!」


 診療所の中、エルシィは竜人と勇者の顔をきつく睨む。


「うむ。我らの思い付きには相違ない。しかし此度はセレンも張り切っていてな。今日も朝から河原で広場に赴く直前まで練習に励んでいたのだ。夢中になるあまり水分の補給が疎かになっていた故に倒れてしまったのだろう」


 竜人は眠る少女のあどけない顔を眺めながら言う。


 少女が特に頑張っていたのは舞台の上で最後に見せたくるりと回りながらの跳躍だった。


 これが彼女には中々難しい動きだった。回転する遠心力で尻尾全体を綺麗に浮かせるのがうまくいかず、何度跳ねても尾先が持ち上がらなかったり、途中で墜落してしまったりする。

 今日、初めて見栄えよくできた時は嬉しそうに顔を綻ばせた。


「セレンちゃんに打ち込める趣味が増えたのは喜ばしいことかもしれないですけど、それとこれとは話が別です。この子をあんな姿で人前に晒して、万が一にもリアムさんみたいな変態が汚い欲を満たす為に襲ってきたらどうするつもりですか? ガレディアさんには親代わりとしてこの子を人目から遠ざけておきたい気持ちはないんですか?」


 エルシィは海底を閉じ込めたような色合いの眼で真剣に問いかける。


「小娘よ。其方は勘違いをしているようだが、俺はセレンの親代わりなどではない。親子は無二である。その役割を取って代わろうというつもりはないし、それを名乗ろうものなら分を超えた高慢というものである」


 竜人はエルシィの顔を見返して静かに語る。彼女は少し表情を険しくする。


「それなら、あなたは何なんですか?」

「俺は『竜』だ。竜とは即ち宝物ほうもつの番である。蛇尾族ナーガの最後の生き残りたるこの娘こそは俺の認める世の至宝である。俺は宝物の美を守らねばならぬ。これを狙う不敬の輩は無論、俺の手で成敗してくれよう」


 エルシィは竜人の答えが不服らしい。

 次なる問を投げかける。


「だったら、どうしてこの子をいたずらに目立たせようとするんですか?」

「我ら知恵ある地竜は世界の広さを知っている。この広大な世で数知れぬ宝物が愛でられていることもな。我らはそれを許すことができぬ。己の認める宝物のみが至高でなければ我慢ならぬ。よって我らは己が信ずる至宝の美を遍く知らしめねばならぬ。竜族が知を得たその瞬間から我らの魂を駆り立てる衝動である」


 竜人は仮令たとえ人間に理解されずとも構わぬとばかりに坦々と述べる。


 室内はいつの間にか静まりかえってぴんと糸を張り巡らせたような緊張を孕んでいる。

 エルシィの隣で金髪の少年は固唾を飲んで二人の問答を見守っている。


「セレンちゃんは、それを望んでいるんですか?」


 彼女の問いに竜人は傲然と宣言する。


「これは竜たる俺の我欲である」


 二人はしばしの間互いの瞳を睨み合った。


 やがてエルシィが口元を緩めて謝った。


「ごめんなさい。こんな空気にするつもりじゃなかったんです。前に言ったでしょう? 私、負けず嫌いなんです。ガレディアさんが私のことを邪魔者みたいにするから腹が立って、少し意地悪を言ってみたくなっただけです。それにあなたは――――」


「ん」


 エルシィが言いかけた時、寝台の方から小さな呻き声が聞こえた。


 エルシィが立ち上がって少女の顔を覗き込むと、透き通るような水色の睫に縁どられた瞼がうっすら開いて美しい瞳を覗かせていた。瑞々しくしっとりした頬はまだほんのり赤い。


 少女はエルシィの姿を認めて不思議そうに唇を動かす。


「エルシィ? ガレディアは? ここどこ?」

「ここは広場の側にある診療所よ。ガレディアさんなら一緒にいるわ」


 自分で尋ねておきながら、エルシィの言葉はあまり少女の耳に入っていないらしい。少女は頭を枕に付けたまま落ち着かない目線で竜人を探している。


「あ」


 エルシィの後ろに竜人の姿を見つけると彼女は表情からふっと力が抜けて安心しているようである。

 エルシィは問いかける。


「あなたは熱にやられて倒れちゃったの。覚えてる?」

「あんまり、おぼえてない。でも、少し楽しかった」


 少女が囁くようにそう言うから、エルシィは微笑んでみせる。


「よかったわね。気分はどう?」

「なんだかふわふわする」

「それなら、もう少しお休みしておきましょう」

「うん」


 エルシィがあやすような声で諭すと、少女はゆっくり瞼を閉じた。


 少女がもう一度健やかな寝息を立て始めた後、エルシィは竜人に振り返って抑えた声量で伝えた。


「この子はこんなにあなたのことを大切に慕っているんです。私が軽々しくあなた達のことに口を挟めないことくらい、分かっていますよ」


 彼女の相貌はどこか悲しげである。


「それでも、私がいる限りもうセレンちゃんに裸踊りなんてさせませんから!」


 その言葉に感傷の色はない。

 彼女は言うべきことはきっちり言う女なのであった。



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