第48話 少年の心に気付かない幼ナーガ
街の広場を通りかかると人だかりができている。
それを見た少年が少女に明るい声で誘いかける。
「セレンちゃん、時々そこで、踊り子とか旅芸人が面白いことをやってるんだ。見に行こうよ」
お腹が空いている少女は早く帰りたかったのだけれど、少年が彼女の手を引いていくのでとりあえず後ろを歩く。
竜人と勇者も続く。
広場の中心では銀髪の美女が舞っていた。
純白の煌びやかな衣装を身に纏い、鈴のぶらさがった装飾をしゃらんしゃらんと揺らしている。蝶のように軽やかで優雅な身振りと、肩や臍の露出した煽情的な風貌がどこか神秘的で、風の妖精が人の姿を借りて現れたようである。
透き通るような歌声で紡がれる詩的な言葉の数々が観衆の耳を潤してゆく。
その様子を食い入るように見つめる少女に竜人が問いかける。
「セレンよ、あれが気に入ったのか? 人間の催しに気を惹かれるとは珍しい」
すると、少女は美女の腕や足首にぶらさがった鈴を指差して呟いた。
「あの、音がなるの、面白そう」
「ふむ。あれに興味があるのか」
「鈴が欲しいんなら、持ってきてあげようか?」
二人の会話を聞いていた少年が提案する。
「カイ、持ってるの?」
「うちで誰も遊ばなくなった玩具にくっついてたのがあるんだ。明日、持ってくる」
「うん」
少女らはいましばらく踊り子の華麗な舞を眺めてから広場を離れた。
別れ際、少年は少女に向き直ると、ポケットに手を入れてもじもじしながら切り出した。
「セレンちゃん、渡したいものがあるんだけど」
少女は首を傾げる。
「……? さっきの、音がなるやつのこと?」
「そうじゃなくて、これ」
少年が差し出したのは銀色の首飾りだった。
先っぽに小さな雫みたいな緑色の石が付いている。黒竜と戦う時に少女が身に付けていた装飾品である。
「実は、街の偉い人が竜を退治したご褒美になんでも欲しい物をくれるっていうから、僕、それが欲しいって言ったんだ。セレンちゃんにあげる」
「……いいの?」
「うん」
少女が不思議そうに尋ねると、少年は少し気恥ずかしそうに目を逸らしながら頷いた。
少女は首飾りを受け取った。肩にかけたベージュ色の鞄の蓋を開けると、その中に無造作に突っ込んだ。次の刹那には何事もなかったかのように別れの挨拶を済ませてしまいそうな顔である。
少年はなんだか拍子抜けの表情でもの言いたげにしている。
彼は贈り物をいつ渡したものかと朝から悩んでおり、夜の帳が降りる頃になってようやっと勇気を奮い起こしたのに、少女の反応がそっけないものであるからどうにも浮かばれない心地である。
竜人は深緑の瞳でそんな少年を見下ろすと腕を組み豪放な笑みを浮かべる。
「ほう。今のは見たところ中々良質な鉱石であった。だが弁えよ小僧! この世で最も美しい宝物は幼き蛇尾族の童そのものである! その身にしてみればあらゆる装飾は己の輝きを曇らせる余分に過ぎぬ。いくらセレンの愛らしさに心を奪われたからといって敢えてその美貌を飾り立てようと企てるなど不敬だと知るがよい!」
「え!? 僕、その、そんなつもりじゃ――――」
少年は顔を真っ赤に染めながら思いも寄らない叱責に吃驚仰天している。
一方の少女は彼らの会話そっちのけで腹をさすさすしている。
「だが心意気は認めよう! 今から其方はセレンの親衛隊二号である!」
「ちなみに一号は俺さ!」
竜人が傲岸不遜に言い切れば傍らの勇者が白い歯をきらりと輝かせて名乗り出た。
「せいぜいセレンの寵愛を求めて張り合うがよいぞ!」
竜人はご機嫌そうである。少女に親しむ人間が増えて気分がいいらしい。
少年は呆気に取られながらも勇者に負けぬよう剣の素振りを始めようと心に誓い、少女はとにもかくにも早く帰って夕餉にありつきたいのであった。




