第46話 倒れてしまった幼ナーガ
*
「ガレディアさん! セレンちゃんをあんな沢山の人の前で、素っ裸にして躍らせるだなんて何考えてるんですか!? 私、街を離れていた時も心配してたのに、その間何をやっていたんです!?」
診療所の一室にて、エルシィは少女の処置が終わるなり閉じておいた地獄の蓋を開いたが如く烈火の形相で竜人に詰め寄った。
今はベージュ色の上着を脱いで黄緑色のチュニック姿である。
「むう。セレンが倒れたのは俺の配慮が足りなかったと心得ている」
「そういうことを聞いてるんじゃないんです! カイ、あなたがついていながらこんなことになるなんて」
「だ、だって、セレンちゃん、嫌そうじゃなかったし」
突然矛先を向けられた少年はもじもじと頬を染めながら弁解する。
「どうして顔を赤くするの? さてはあなたも共犯ね!」
エルシィは頭から蒸気でも吹き出しそうな勢いで今度は少年に迫ろうとする。
「エルシィさん、あまり興奮して大きな声を出すとこの子が起きてしまう」
「あ、すみません、つい」
彼女は医者に宥められてようやく落ち着きを取り戻す。
診療所はそれほど大きな建物ではなかった。
寝室は一つあるのみ。他に診察室、待合室、医者の休憩室がある。
他に人が来たら目立つので、少女は休憩室のベッドに横たえられた。
額に氷袋を乗せられ、脇の下など要所に冷水の入った革袋を当てて、裸の上から薄布をかけてある。
赤ら顔はまだ治らないが、体調は落ち着いてきたらしい。今はすうすうと寝息を立ててぐっすり眠っている。
少女の寝顔を傍らで眺めながらエルシィが礼を言う。
「アルツさん、ありがとうございます」
「いや、善意でやったことだ。気にしなくていい」
医者は穏やかに微笑む。
「それにしても、竜殺しの魔物が芸をやるというから覗いてみれば、まさかこんな小さな子どもだったとはね。しかも女の子じゃないか」
「そうなんです。こんな小さな女の子にあんなことさせるなんてどうかしてますよね? アルツさんからもこの常識知らずに何か言ってやってくださいよ」
ぷりぷりと怒っている様子のエルシィに医者は苦笑を浮かべる。
「エルシィさんは度胸があるなあ。でも、私は遠慮しておくよ。恨みを買ったらおっかないからね。触らぬ神に祟りなしってやつさ」
医者は鱗に覆われた竜人の巨躯をちらりと見やって言う。
「ほう。では何故この子を助けたのだ?」
竜人が興味深そうに尋ねる。
「私にもその子と同じくらいの娘がいてね。その子の一生懸命なところを見ていたものだから、なんとなく他人事に思えなかったのさ。それに、知った顔が側にいたというのもあるからね」
医者は優し気な眼差しで語った。
「そう言えば、あの人はどうしたんですか?」
「ぬ?」
エルシィがふと思い出したような顔をして竜人に聞く。
「リアムさんですよ。あの変態のことです、当然今回のことにも関わっているんでしょう?」
「ああ、あやつならば――――――」
「呼んだかい、エルシィさん?」
唐突に声が聞こえたと思って皆が振り向くと、勇者が開いた木窓の枠を乗り越えて部屋に入ろうとしている所だった。
「……不法侵入ですよ? どこから入ろうとしてるんですか。あと、別に呼んでません」
「いやあ、正面はまだ人だかりが残っていてね。体の大きな竜人君みたいなのが歩いていたら皆道を空けるんだろうけど、そうでもないと人込みを掻き分けるだけで一苦労だ」
勇者は冷ややかなエルシィの視線をものともせず爽やかな笑みを浮かべて見せる。
「あなたも相当な有名人だと思うんですけど、まあ、それはいいでしょう。今まで何をしていたんです?」
「当然、その子の晴れ姿をしかとこの目に収めていたのさ。近くの宿屋の一室から遠眼鏡を使ってばっちりとね。本当は側で鑑賞したいところだったが、群衆に紛れるのは好みじゃない。何しろ俺は孤高を好む男だからね」
ふさふさした茶髪をふぁさりと掻き上げながら宣う勇者にエルシィは溜息を吐く。
「聞いた私が間抜けでした」
医者が席を立つ。
「話によればエルシィさんはしばらくぶりに帰って来たらしいじゃないか。積もる話もあるだろう。私は薬の調合があるからしばらく席を外すとしよう」
そう言うと医者は部屋を出て行った。
後に残されたのはエルシィと横たわる少女、竜人、勇者、それに金髪の少年だ。
今ではお馴染みとなった面子を見渡してエルシィが切り出す。
「さて、聞かせてもらいましょうか。一体どんな経緯でセレンちゃんがあんなあられもない姿を晒すようなことになったんですか?」




