第45話 裸で踊る幼ナーガ
わたしはなーがのセレンちゃん
かわいらしくうねる尻尾で泥のうえを這いずるよ♪
蛇尾族の少女が大衆を前に裸で踊っていた。
わたしはなーがのセレンちゃん
ちからづよくうねる尻尾で水のなかを泳ぐよ♪
蛇尾族の少女は歌も歌っていた。
大好きなものは 山盛りのおさかな♪
少女は木組みの小さな舞台の真ん中に立ってあどけない身振りで頑張っている。旋律はゆったり陽気で、尾っぽでたっぷたっぷと跳ねながらリズムを取っている。尾先に結わえられたちっこい果実みたいな鈴がしゃらしゃら鳴り響く。
みんなわたしをほしがるの こまっちゃう
でもしかたのないことだと分かっているの
わたしはせかいの宝物だから♪
少女は瑞々しく白い裸体を惜しげもなく曝け出して一生懸命である。
頬を薔薇色に染め、にこりともせずに初々しい。
石膏のように滑らかな腹を珠のような汗が伝い、胸に垂れる銀の首飾りがちゃらんちゃらんと忙しなく揺れる。
わたしのおめめ わたしのつめ わたしのうろこ
宝石みたいでしょう♪
少女は瑠璃色の瞳、左手の爪、腹の下の辺りの鱗を順繰りに指差して見せる。
わたしのふわふわおはだ わたしのふっくらおかお わたしのしろいは
かわいらしいでしょう♪
少女は二の腕と右頬を片手の人差し指で柔らかくつついてから、唇からはみ出してきらきら白い右の犬歯を叩いて見せる。
こつん、と子気味よい音が奏でられる。
みて みて みて
わたしはなにもかくしたりしないわ
わたしはせかいの宝物だから♪
雪のように白く華奢な両腕が包み込むように広げられる。
彼女がたっぷたっぷと跳ねる度に胸元で美しい水色の髪がふわりと舞い上がって、ささやかに膨らんだ乳房が観衆の目に晒される。
ある者は顔を覆い、ある者は気まずそうに目を逸らし、またある者は歓声をあげる。
わたしはなーがのセレンちゃん
おさかなだいすきセレンちゃん♪
「いぇい」
少女はたどたどしい発音で言うと、くるっと回転しながら高く跳び跳ねた。
瑠璃色の長い尾っぽが宙でぐるぐる渦を巻いてリボンのようである。綺麗に着地すると、彼女は花を咲かせるように両腕を高々と掲げて小首を傾げた。
ほんのり緩んだ少女の表情を見るに歌と踊りはこれで終わりらしい。
「な、なな、何ですかこれはーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
エルシィが我を忘れて叫ぶと同時、
少女は白い体をなんだか艶っぽく揺らめかせ、
そのままぱったり倒れてしまった。
「セレンちゃん!」
エルシィは慌てて舞台上に駆け寄ろうとするがどよめく観衆に阻まれて中々辿り着けない。舞台脇にあった木製の庇と椅子が置いてあるだけの控室から大急ぎで竜人と金髪の少年が出て来るのが見えた。
彼女がようやっと舞台の上に這いあがると、二人が気付いてこちらを振り返った。
「あ、エルシィ! どうしよう!? セレンちゃんが……セレンちゃんが」
「小娘! 帰っていたか!」
「色々と聞きたいことはありますが今はおいておきます! セレンちゃん、大丈夫なんですか?」
「鱗が渇いており脱水の兆候がある。激しい運動を続けたせいで熱にやられてしまったらしい。悪いが小娘、こやつの体温の具合を確かめてはくれぬか。俺は鱗が分厚く冷温の差に疎い。そこの童は慌てふためくばかりで使い物にならぬのだ」
エルシィは、竜人が少女の背を抱えて口に水を含ませてやっている傍らにしゃがみこむ。少女は意識が朦朧としているらしく呼びかけても返事がない。呼吸が荒く息苦しそうで、火照った頬は触れたら火傷をしそうだ。
汗に濡れた少女のおでこに手を置いて、それから自分の額に手を当ててみると、エルシィは意外そうな顔をした。
「体温は、私とそんなに変わらないみたいですけど」
「セレンは人間よりも常温が低い。人と同じ体温になるというのは相当な高熱だ」
竜人が苦々しく言うのを聞いてエルシィはどこか納得する。少女は普段からあまり汗を掻かない。離れていても分かるほど発汗するというのはそれだけでも少女にとって尋常でない熱が籠っている証なのかもしれない。
「ど、どうしたらいいんでしょうか?」
「ともかく体を冷やしてやらなければならぬ。多少目立つが近くの川に浸けてやるのが手っ取り早い」
ちびちびと水筒を傾けてやっていた少女の唇から水が溢れだした。これ以上は受け付けぬらしい。
彼は水筒に残った水を直接少女の体に振りかけてやる。濡れた肌が陽光に輝く。
竜人が少女を抱え上げようとした時、背後から声がかかった。
「病人なら私が見ようか?」
エルシィ達が振り返ると、無精ひげを生やした痩身の中年男性が立っていた。垂れ目気味の瞳は知的な光を宿し白衣を纏っている。身長はエルシィよりも頭一つ分程高い。
いつの間にか舞台に上がっていたらしい。
「貴様は何者だ?」
竜人が問うと、男は口元を緩めて名乗った。
「私は医者だ。魔物の治療をしたことはないが、いないよりはましだろう? 診療所がすぐそこにある」
「ほう」
竜人は思案顔である。
「アルツさん、いらしてたんですね」
「ああ、うちのすぐ傍だったし、人だかりが気になってね」
親し気に話しかけるエルシィの様子を見て竜人は尋ねる。
「小娘。この男は見知った顔か?」
「ええ。うちの子が風邪をひいた時に診てもらってるんです」
「ふむ。それなら問題はなかろう。世話になる。アルツとやら」
竜人達はぐったりした少女を抱えて医者の診療所へと向かった。




