第33話 子ども達だけの黒竜討伐作戦
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少女は再び山を登っていた。
もうじき頂上につく。
道のりは険しかったが、時折くぴくぴ水分を補給しながらなんとか最低限の疲労でここまでやってこられた。乾いた黄土色の大地に植物は窺えず景観は荒涼としている。
辺りに転がる大岩は下の方からも視認できたが、近くを通れば尚大きく感じる。
少年は側にいない。
彼には少女と離れてやってもらうことがある。
頂上付近に辿り着いた。
少女は側の岩陰に隠れて様子を窺う。
向こうの方で沢山の大岩が円形に並べられているのが見えた。
黒竜の巣らしい。
少女は緊張の面持ちで這い寄ってゆく。並べられた大岩を目の前にすると岩の隙間から侵入するのは無理そうだと分かった。隙間なく並べることで外壁の役割を果たしているようだ。まるで要塞みたいである。
少女は中の気配に注意深く意識を向けながら、外壁をぐるりと一周してゆく。入口らしきものは見当たらない。
出入りができるのは空を飛べる生き物だけだということらしい。
一か所だけ中を覗けそうな狭い岩の隙間があった。そこに片目を近づけてみると、先刻の黒竜が体を倒して寝そべっているのが見えた。
少女の心臓がどきりと跳ねる。
黒竜は瞳を閉じており彼女に気付いていない。
少女は深呼吸をして心を落ち着けると、巣の中をじっくり観察する。所々に動物の骨が落ちており、竜の餌になったのだと思われる。加えて麓の森から持ってきたのか、葉のついた小枝が敷き詰められている。
黒竜がシルト近隣の街から強奪したという金品を探してみるが見つからない。
もしや別な隠し場所があるのかと心配になるが、よく見ると俯せに寝そべる大きな黒い体の下で何かきらきらしている。
あれが強奪品らしい。
ふいに赤い瞳がぎょろりと見開いた。少女は咄嗟に岩の隙間から片目を離し、心臓をばくばくさせながら岩壁に背を凭れる。
黒竜の巣に入り口はない。
侵入するには大岩をよじ登るしかなさそうである。
空を見ればもうじき太陽の位置が少年と打ち合わせた刻限を示そうとしていた。
少女は巣の東側に回り、巣内でなるべく葉のふかふかした辺りの大岩の近くに張り付いた。西の空にじっと意識を向ける。
しばらく待っていると、ぽーんと小さな粒が青空に打ち上げられるのが見えた。
少女の位置からは点にしか見えないが、実際には人間の頭くらいある石だと彼女は知っている。石は何事もなく地に落ちていく。少し経って、また同じような点が空に打ちあがる。五、六回続いた。
少女は段々ひやひやしてくる。
予定の回数を上回っている。
少年は手こずっているらしかった。
少女は半信半疑で少年の提案を聞いていたけれど、やっぱり無理なのではないか。七個めの粒が青空に見えて、一度少年の所まで戻った方がいいだろうかと考え始めた時、
どずん!
辺りを揺るがすような轟音が響いた。
巣の中で黒竜が目を覚まし、黒く大きな翼を広げて飛翔する。
少女は身を小さくして縮こまると、西の方角を睨む黒竜の後ろ姿をおっかなびっくり窺う。
黒竜はそのまま轟音のした方へ飛び去った。
少年はうまくやったらしい。ここからは少女の頑張り所である。
黒竜の姿が全く見えなくなってしまうと、少女は大岩を見上げた。
尾っぽを限界までぐぐぐっと縮めて身を低くしたら、「んっ!」と目一杯お腹に力を込めて尾っぽを伸ばした。
少女の体が勢いよく跳ねる。
大岩の上にぎりぎり手が届いた。
爪をひっかけるようにしてなんとかよじ登り、大岩の天辺を越えると、そのまま転がるようにして巣の内側に落っこちる。目論見通りふかふかした枝葉の上に落下したからそれほど痛くない。
少女は黒竜の盗んだ金品の元へと急ぐ。
金属の食器類や、腕輪、首飾り、イヤリングなどの装飾品、それから数は少ないが宝石類などが煌びやかに積みあがっていた。巨体に隠れていて分からなかったが大分溜め込んでいたらしい。
少女はきらきら目立つ装飾品を手あたり次第に掻き集め、雑な手つきで身に付けてゆく。腕輪や首飾りで体がずっしり重たくなると、今度は宝石類や食器類を腕一杯に抱える。
少女は逡巡する。
どうやって沢山の金品を巣の外まで持ちだそう?
腕一杯に物を抱えたまま大岩を超えるのは不可能である。
少女はすぐに閃いて、さっき巣の中を覗いた岩の隙間まで金品を持っていくと、そこに次から次へと宝石や食器を放り込んでゆく。せっかく身に付けた装飾類も急いで外しては同じようにする。
こんなことならもっと早くに気が付いていればと焦る。
半分程外に出し終えた時、耳を劈くような獣の怒号が轟き、少女はばっと西の空を振り返った。
黒竜が戻って来る。時間をかけ過ぎたらしい。
宝を持ちだそうとする少女を燃え上がるような赤い瞳でねめつけている。
少女は作業を中断してともかく外へ出ようと尾っぽを縮めて跳ぶ。
岩にへばりついて夢中でよじ登ったらごろっと向こう側に転がり落ちた。
「うっ!」
少女は硬い地面に強か肩を打って痛そうである。
しかし気を揉んでいる暇はない。外に移動させた装飾品の幾つかを急いで身に付け、運べるだけの金品を両腕に抱くと、尻尾の先に火でも点いたように疾走する。
黒竜は宝を取り戻そうと怒りの雄叫びを上げながら迫って来た。




