第23話 幼ナーガの体から剥がれ落ちたもの
竜人がしゃがみ込む。
少女の体から落ちたものは窓から差し込む月光を受けて青白く輝いている。
竜人は手に取って眺める。
竜人が拾ったものは彼の指先くらいの大きさがあった。
金属みたいな光沢があって、滑らかな扇形で、つるつるしていて、わずかに湿っている。
それは、少女の鱗だった。
竜人は目一杯に瞳を見開く。
緋色の相貌から一切の表情が失せる。
彼は無言で少女の纏う白い衣の裾を摘まむと、臍の辺りまで捲り上げて尾っぽをよく見えるようにした。
竜人の瞳に規則正しく並ぶ少女の鱗の羅列が映る。
その中に、ぽっかりと扇形の隙間が空いている所があった。
鮮やかな薄桃色の肉が露出していた。
竜人はしばし絶句した。
やがてはっと我に返って頭を抱えながら独り言ちる。
「ぬぅ! これでは本末転倒ではないか! 一体何のために人の地まで赴いたのか!」
竜人は一つ息を吐いて静かに尋ねる。
「セレン。鱗の剥がれた所は痛むか?」
「あんまり痛くないよ。でも、少しじんじんする」
答える少女は心細そうである。
竜人は自分の纏うぼろ布を千切り水筒の水で濯ぐと、尻尾の鱗が剥がれた部分に巻いてやる。
それから少女を布の上に寝かせ、月明かりを頼りに尻尾を根本から先まで仔細に調べてみたら、他にも何枚か鱗が剥がれかけている。竜人はそちらにも布を巻く。
鱗の剥がれる症状は同じ有隣種である竜族にも知能の高い種では時折見られた。精神的な疲労の大きい時に見られる兆候である。
「やはり其方に今の務めは重い。義務を減らすよう取り計らおう」
竜人は少女に薄布を被せながら諭し聞かせる。
「でも」
「先のことを案ずる必要はない。己を信じよ。これは其方の心労を取り除く為の言に過ぎぬが、万一の間違いがあれば俺が何とかする。だから体を気遣うことだ」
「……うん」
竜人を見上げる少女の相貌が柔らかく緩む。
少女はそのまま眠りについた。
*
数日後、竜人は役人と新たな交渉を行った。
魚の漁獲量引き上げを約束することと引き換えに二つの要求を出した。
一つ目はシルトの管理区域にある沼地へ少女と竜人が移住する時期を早める事、二つ目は休日を増やす事である。
竜人はあれからエルシィと話し合い、ただ少女の義務を減らすよりも環境改善を目指すべきだという結論に達した。
交渉は成立した。
これまで問題を起こさず街に奉仕してきた態度が評価されたらしい。霧の中で少女らの動向を監視することの困難さが懸念材料であったが、勇者とその仲間達が責任を持って見張ると口添えしたことで解消された。
少女らが街にやってきて十五日目、二人はついに念願の沼地に移り住んだ。
少女は柔らかい泥に体を埋めて幸せそうであった。尾っぽをびちびちさせて興奮を露わにした。それから広大で淀んだ沼に潜って自由に泳ぎ回った後、魚をどっさり捕まえて腹がはち切れそうになるまで貪った。
少女はぽっこり膨らんだ腹を抱えて泥の上にまどろんだ。
その間に様子を見に来たエルシィが少女の腹を目撃して大騒ぎになったが、それを除けばひたすら穏やかに五日間の休暇が過ぎたのであった。




