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国終了宣言を受けた王子と婚約者、回避するため奔走する~国を滅ぼすヒドインは正しきヒロインになってくださいお願いします~

作者: 千子

第三王子のカナルは特に期待されることなく過ごしてきた。

第一王子は王太子となり、第二王子はそのスペア。

第三王子は臣下になりどこかのご令嬢に婿入りすることはカナルが産まれる前から決まっていたことだった。

そして、そんなカナルが婿入りすることになったのが、国内でも有数の資産家として数多の事業も成功させてきたパナル侯爵家の長女にして唯一の子カルミラである。


さて、実はカナルもカルミラもお互いの顔合わせで転生者だということが発覚し、恋は育めなくともお互いが良き友人であり理解者として過ごしていた。

実の両親や兄弟達、義理の両親となるパナル侯爵夫妻もとても優しく良き人たちだった。

この人達を守るために自分があると、そのために全力で国のために在ろうとカナルは思っていた。




婚約者として定例の茶会に事の始まりは起きた。

茶会のために登城してきたカルミラが青い顔をして今にも倒れそうにして来たのだ。

「カルミラ嬢、体調が優れなければわざわざ来ていただかなくても文の一つでも届けてくだされば良かったのに…。こちらにお座りください。すぐに温かい紅茶を用意させ医師を呼びます」

「カナル様。それには及びませんわ。それよりも人払いをお願い致します」

婚約しているとはいえ若い男女の二人。

お目付け兼護衛の騎士とメイドは二人の側に控えていた。

カナルはカルミラの尋常ではない様子に頷き周囲に居た者達を下がらせた。

とはいっても人の声が聞こえない範囲、何かあればすぐに駆け付けられる距離が保たれていた。


「それで、カルミラ嬢。一体どうしたんだい?」

「カナル様…残念ながらこの国は終わりですわ…」

突然の国の終了宣言にカナルは驚いた。

「何故?この国は平和だ。飢饉もまだなく今年も豊作だ。他国が攻め入る様子もない。一体何故この国に終わりが訪れるというんだ?」

「違うんです、カナル様。わたくし、思い出したのですわ。この世界がヒドインにより破滅に導かれる国であることを」

カルミラの話によれば、この国は前世で読んだ小説の世界なのだという。

そういったことは同じく転生者であり好んで読んでいたカナルも「そういうこともあるのだな」と納得できた。

カルミラの話は続く。

現在第一王子であり王太子が側近達と通う学園にヒロインであるリサリエが入学するが、それがあまりにもヒドインでやりたい放題の逆ハーを築き、各々の婚約者に冤罪を掛け婚約破棄を企てるも悪役令嬢もとい第一王子の婚約者が筆頭となり第二王子と手を組み冤罪を論破し、第一王子は王太子として攻略対象である側近諸共失脚し第二王子が王太子となりヒドインの悪行を止めるために共に苦難を乗り越え愛を育んでいた悪役令嬢と婚約をし二人は幸せに暮らすという。


「なんということだ!兄上達に限ってそんな愚かなことはしない!第一、兄上達の婚約者はこの国の有力貴族のご令嬢と大国の王女だぞ!なんで婚約者を放っておいてそんなことをするんだ!国内外で戦争になりかねない!」

「わたくしにも第一王子、第二王子共にそのようなことをする方ではないと分かっております。ですが、物語の強制力というものもあります。それが物語の力というものですわ。幸い、まだ第一王子は入学前。物語の修正をするチャンスはありますわ」

カナルに説明することで段々と落ち着きを戻してきたカルミラは、これからヒドインによる第一王子達の攻略阻止及びに婚約破棄阻止、更には第二王子と悪役令嬢との恋を防がなくてはならないことを説明した。

やることが多すぎる。

カナルは頭を抱えた。

しかし、頭を抱えて悩むだけでは事件は解決しない。

カナルとカルミラは頷くと、今後に向けての計画を検討し始めた。





こういったことはかしこまっては逆に怪しまれると思ったカナルは第二王子に気軽に訊ねた。

「兄上の婚約者のご令嬢は素晴らしい方ですよね。先日のパーティーでの来賓の方々への挨拶も素晴らしいものでした。あのような方が国母になっていただければこの国は安泰です」

「そうだな。彼女はとても素晴らしいご令嬢だ。兄上は幸せ者だ。だが、私の婚約者である王女もとても美しく賢い。私は彼女の婚約者でとても幸せだ。婿入りするための勉強も彼女のためならばなんの苦でもない」

兄の婚約者を誉めつつ自身の婚約者を褒める第二の兄に、このような婚約者馬鹿が本当に自身の婚約者を蔑ろにして第一の兄の婚約者を奪う要素があるのだろうか。

いいや、物語の強制力というものは前世で何度も読んだ。予断は許されない。

「兄上達にはそのままお互いの婚約者と仲睦まじくいてほしいものです」

「ははっ、何を言う。カナルとカルミラ嬢も仲がとても良いではないか。聞いたぞ。やり取りする文の数も増えたと。仲良きことはいいことだ」

それは将来あなた方がこの国を滅ぼすかもしれないので相談しているだけですとはとても言えない。

乾いた笑いで兄のからかいを受け流した。

とりあえず、現時点で二人の兄と婚約者の仲は良好なことを確認した。

果たしてヒロインの付け入る隙があるのか。カナルは不安に思いながらも二人の兄と婚約者の仲を守りきろうと改めて誓った。




カルミラは、ヒドインもといヒロインであるリサリエが貴族の学園に入学する前に入学できないように男爵家への養子入りを阻止することにした。

そもそも学園に通わなければ第一王子とも接点はなくなるはず。この国の未来のために潰せる道筋はすべて潰す心構えである。

ヒロインは男爵のお手付きのメイドが男爵から離れ黙って産み育て、長年二人で暮らしてきたが母が流行り病で死んでしまうと頼れる相手を探し唯一父の証だという家の刻印が刻まれたペンダントを持ち探し訪ね男爵に認知され養女になるのである。

カルミラは考えた。

そもそも流行り病を流行らせずにリサリエの母が死ななければ良いのでは?

下町でどのような病が流行っているかは分からないけれど、リサリエの母が亡くなる時期を合わせ医師を数名連れていき、病気の予防と治療をさせていった。

その中にはもちろんリサリエの母も居た。

結果として下町で流行りかけていた病は大した死者も出さずに終わり、リサリエの母も生きてリサリエと暮らしていた。


しかし、リサリエは父親探しを始めた。

驚いたカルミラが密偵から報告を受けると、リサリエは難航するはずの父親探しもあっさり見付け、自身を養女にするよう説得しているとのことである。

せっかく生き永らえさせた母を捨て何をしているのかと思ったが、一抹の予測がカルミラの脳裏に過った。


ヒロインであるリサリエも転生者であると。

そして、ヒロインとしてざまぁされないようにしつつ物語を楽しむ気なのかもしれないと。

と、いうことは物語上では失脚するかもしれない第一王子狙いより物語のヒーローとなっている第二王子狙いになるかもしれない。


「大変ですわ!すぐにカナル様と相談しなければ!」

定例の茶会までは時間がある。

カルミラは手紙を取り出すと早馬を出しカナルに会う約束を取り付けた。




「と、いうことですの」

カルミラから説明を受けたカナルは再び頭を抱えた。

爆弾が火を付け歩き始めた心境だ。

長兄の入学=ヒロインであるリサリエとの出会いまで時間がない。

いっそ男爵家を潰すかとも考えられたがリサリエ以外に罪はない。

そもそもまだヒドインとしての行動すらしておらず何の罪にもならない。

兄達にも攻略対象となる側近候補の連中にも婚約者達にも配慮は欠かしていない。

問題はリサリエの動き次第だ。





学園が始まる前にカルミラはリサリエを私的なお茶会へと招待した。

もちろん、カナルも来る旨を招待状には記載し同席していた。

国の一大事に婚約者のみに任せておけるほどカナルは薄情ではなかったし、これは国の一大事だ。

王族として参加しないわけにはいかなかった。

侯爵家から男爵家への招待状。

本来は有り得ないことだが、リサリエは当然の顔をして迎えの馬車に乗った。

このタイミングでの呼び出しなら侯爵令嬢も前世を覚えているのだろうとリサリエは考えた。

学園が始まってからの戦いより先に宣戦布告かと思うと腕が鳴る。

リサリエはハードルが高いほど燃え上がる性質だった。



「ごきげんよう。この度はわたくしのお茶会に来てくださりとても嬉しいですわ。こちらは第三王子のカナル殿下です。わたくしはカルミラと申します。本日のお茶会は存分に楽しんでくださいませ」

「ふーん。貴方が悪役令嬢?王子を引き連れて転生者達で私のラブラブヒロインライフを阻止したいのかしら?」

ラブラブヒロインライフとは随分とダサいネーミングですこと、とカルミラは思ったが言わずに胸に秘めておいた。

そして、カルミラはリサリエがヒドインが断罪される物語ではなく、本当に乙女ゲームだと誤解しているのだと分かった。

「リサリエ様。少しお待ちになってください。これは貴方が思う乙女ゲームの世界ではありませんわ」

カルミラは乙女ゲーに転生したヒロインがヒドインであり、悪役令嬢にざまぁされてしまう世界であると説明した。

ようやく自分が転生したと思った乙女ゲームと違うと知ったリサリエであるが、そこで止まれられたらごり押しで男爵家の養女にはならない。

「つまりは、上手くやれば問題はないんでしょう?穏便に婚約解消に持っていけば何の問題もないはずよ。前世で読んだ大体の物語はそうだったわ」

「リサリエ嬢。そのように甘くいくはずがありません。どちらの兄上も婚約が破談になれば国内外のパワーバランスが崩れて大変なことになります。それに、二人とも婚約者をとても愛している。余計な横槍は入れないでいただきたい」

カナルがリサリエを諌めるとカルミラも続いた。

「そうですわ。他の攻略対象者とされている方々にも婚約者がいらっしゃいます。誰かを悲しませるのはおやめください」

カナルとカルミラの忠告をリサリエは鼻で笑った。

「そんなの、婚約者とやらに魅力がないだけで私の責任ではないわ。第一、ヒロインがヒドインだっから上手くいかなかっただけでしょう?私ならもっと上手くやれるわ!貧しい平民の娘から男爵令嬢にだってなれたんだもの!」

リサリエは成り上がった自身に過剰なプライドと自信が生まれていた。

本当に愛し合っているなら他の女性の誘惑に打ち勝てる筈というのは正論だが、カナルとカルミラが恐れているのは物語の強制力もある。

果たして強制力に彼らが勝てるものだろうか。

少し弱気になってしまったカナルとは対照的にカルミラはリサリエに一喝する。

「婚約者のいる異性へのアプローチは充分ヒドインへの素質がありますわ」

この言葉にリサリエは詰まってしまう。

「じゃあ!私はどうやって幸せになったらいいの!?」

リサリエは叫んだ。

「ヒロインに産まれたからには幸せになる権利はあるでしょう!?」

「確かに万人に幸せになる権利はありますが、それは他人を蹴落として得るものではありません」

カルミラは一蹴した。

「貴方には身の丈に合った幸せというものがあるはずです。それでしたらわたくし達は何も口出ししませんわ。わたくし達はただ、この国を滅ぼしたくないのです」

カルミラはリサリエが王子達を誘惑することにより起こりえることをすべて話した。

最悪、国が滅びることも真摯に説明してリサリエに頼んだ。

「わたくし達の国を滅ぼさないためにも、現実を生きてくださいませ」

カルミラはリサリエに頭を下げた。

王族として安易に頭を下げるわけにはいかないカナルの代わりとしてカルミラがリサリエに頼んだのだ。

侯爵令嬢が男爵令嬢に頭を下げるのがどういうことか、分からぬリサリエではなかったから息を飲み段々と冷静になり頭を上げるよう頼んだ。

「………乙女ゲーに生まれ変わったと思って浮かれていた私が悪いんです。申し訳ありませんでした。カナル殿下、カルミラ様」

リサリエが謝罪をし、三人は和解できた。

カナルとカルミラは恐れている物語の強制力について話し、決して王子達には近寄らないように頼んだ。

リサリエは頷き、決して自分から近付かないし、万が一フラグが立っても全力で折ると二人に約束して茶会は終わった。




その後。

リサリエは学園が始まっても第一王子と攻略対象の側近には近づかず、子爵令嬢や男爵令嬢と謙虚に親しく過ごし、次第に美貌の伯爵令息の数ある恋敵を打ち倒し心を射止め恋仲になっていった。

無理かと思われた恋であったがもう一度言おう。

リサリエはハードルが高いほど燃え上がる女性であった。




第一王子は無事に婚姻し、第二王子も婚約者である王女の元へ婿入りし、仲良く暮らしている。



「これでめでたしめでたしだね」

カナルが安堵の息をつくとカルミラは笑って答えた。

「あら?この世界は物語じゃありませんもの。わたくし達のお話はまだまだつづきますわ」




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[気になる点] 第二王子が婚約者の王子に婿入りしてますが、よろしいですか?
[良い点] わざわざ説得するところが偉いです。自分だったら面倒だからヒドインが黒と決まった瞬間にさっさと始末しちゃいそうです。ついでに面倒な男爵家も適当な罪を擦り付けて、一族を消せばいいわけで… 過激…
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