夢か?現か?
「…ん…い?」
遠くで声が聞こえる。
「せ…せ…?」
誰かが私を呼んでいる…。
「先生。大丈夫??」
我に返り声の主を探すとー
御子神が可愛らしい眼で私を見つめていた。
「顔色悪いよ。」
心配そうに私の様子を伺っている。
「大丈夫よ。昔の事を思い出していただけ…。」
ー昔?本当にそうなのだろうか?
眼前の少女の言葉に充てられてー
私は白日夢を見ていたのではないだろうか?
私達、親子は無傷で生還した。
それは間違えようの無い真実だ。
抜け落ちていた記憶がー
唐突に甦る事等、有り得るのだろうか…。
私は無意識に服の裾を上げる。
「えっ?」
私の右腕にはうっすらと歯形の様なモノが見える。
「こんなのあったっけ?」
記憶なんてモノは曖昧だ。
意識していないモノ。
意識してはいけないモノは記憶として処理はされない。
「虫に刺されたの?」
御子神は言葉を発する。
「うん。」
私はぎこちなく答える。
そしてー
もう1度右腕を見た。
ただの傷痕の様にも見える。
キーンコーンカーンコーン…。
キーンコーンカーンコーン…。
「お昼休み終わったから教室に戻るね。お話ありがとう。楽しかったよ。またね~。」
御子神は無邪気な笑顔で保健室を去っていった。
私はー
モヤモヤとした気持ちで満たされていた。