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逃亡


感染した狂気は瞬く間に広がった。

阿鼻叫喚の世界が其処にはあった。


人を食らう鬼の群れ。


「逃げましょうね。」

母親は私の手を取ってその場から離れた。離れたと云っても私達に残されていた体力は無いに等しかった。それでも傷を負っていたモノ達からは逃げ切れるだけの距離は離れられたのだった。


鬼に見つからない場所に隠れー

母親は私を抱くー

「怖かったね。もう大丈夫だよ。」

と優しい声をかけた。


母親は震えている。抱き締められた私の身体は、その震動を受け止めていた。


それからー

どれだけの時間が経過したのだろう…。


ふとー

フラリと母親は私から離れる。


暫くして戻ると、その両の手には赤い塊があった。


「大丈夫だよ。これは食べられるから…。」

そう言って私の口にソレを無理矢理に詰め込んだ。

口腔に広がる錆びた鉄の匂い。

けれどもソレは言葉にし難い程に甘美な味をしていた。

気付くと私達はソレを貪り、食らい尽くしていたのだった。


空腹だった私達は赤い塊で満たされると…。

眠りについた。



ガサガサー。

傍らで音が産まれる。


ガサガサー。

何かを触っている。


私が起きるとー

母親は私の右腕を擦っていた。


「怖かったね。大丈夫だよ。」

聞き覚えのある言葉。

だけれども母親の眼差しは尋常ではなかった。


「大丈夫だよ。痛くないから…。」


ー痛くない?


すると母親は口を大きく開けて…。



私は走って逃げた。

母親の顔が般若に見えたからだ。

そうだ。母親は母親の姿をした鬼になってしまったのだ。



だから…。

だから私は…。

深い森の小さい洞穴に逃げ隠れた。


膝を抱えてー

止まることのない身体の震えを必死に抑えていたんだ…。


ケラケラ…。

遠くの方で何かが笑っている。

その笑い声は少しずつ少しずつ近付いてくる。


ケラケラ。ケラケラ。


「秋穂?【かくれんぼ】したいの?」

母親だったモノの声が鼓膜を刺激する。



ゲラゲラ…。

その嗤い声は耳元で聞こえて…。


「もういいかい?」


その言葉を最後にー

私は意識を失った。



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