かくれんぼ
「かくれんぼって隠れん坊って書くらしいですよ。」
と【坊】の文字を眼前の空間に指で描いた。
「要するにですよ…。」
御子神は右手の人差し指を天に向けながら言葉を紡いでいく。
「隠れるのは子供なんです。そして探すのは鬼…。」
それから両手の人差し指で角を形作った。
御子神光は小学校6年生なのだが、容姿も話す仕草も大人びている。視線の運び方や言葉を吐息の様に唇から語る姿は大人の女性に劣らない程に艶かしい。そんな御子神は【かくれんぼ】の最中に膝を擦りむいてしまい、保健室を訪れていた。そして保健の先生である新堂秋穂と会話をしているのであった。新堂は生徒からも人気のある20代後半の女性である。
「でも地域によって、探すのは鬼ではなく親とされている事もあるみたいですよ。まぁ、何はともあれ隠れるのは子供なんですよ。子供…。」
御子神は右手の人差し指を唇にあて、何かを考えているかのように見える。そして何かに気付いたのか言葉を並べた。
「そういえば、鬼と云うのは、隠れん坊の…。この文字…。」
そういうと辺りを見渡す。そして近くに置いてあった紙と鉛筆を手に取ると【隠】と云う文字を書いた。
「隠が転じたらしいのですが、本来、姿の見えないモノ、この世ならざるモノであることを意味するみたいですね。解りやすく云うならば幽霊や亡霊、死霊って感じでしょうか?」
御子神は新堂に同意を求めるかの様に見つめた。
「え?鬼って頭に角があって、牙が生えていて、鋭い爪を持っていて…。そうそう、虎の皮の褌をつけているのでしょう?ほらほら、金棒を持って…。」
新堂の脳裏に鬼の映像が浮かんでいた。
御子神は冷静に返答する。
「それは、言葉遊びから産み出された鬼のイメージですね。風水では、「鬼門」つまり鬼が出入りする場所は北東とされているんです。昔の方角で表すのなら、北東は丑寅の方角になります。なので…。牛の角に虎の牙、そして解りやすく虎の褌ってところでしょうか…。」
「なるほどね。と言うことは…。大半の人が想像する鬼の姿はその言葉遊びから産まれたのね?」
「まぁ。童話に出てくる鬼の姿は、そう描かれているので、その姿が想像として刷り込まれているのですよ。」
そう言うとー
洗脳ですね。洗脳です…。
ーと小さく言葉を漏らした。




