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時霞 ~信長の軍師~ 【長編完結】(会社員が戦国時代で頑張る話)  作者: 水野忠


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第七章 忙殺の軍師⑩

 有岡城下の火災が鎮火されたころ、だしがほかの家族、家臣達と共に信長の前に連れてこられた。有岡城内には、討ち死にした村重の兵と、逃げ遅れて巻き込まれた領民達の遺体が転がり、燦々たる有様であった。


「上様。荒木村重の妻、だし殿とその一族、家臣の者達です。」


 忠繁がそう言うと、信長はだしの前に歩み出て声をかけた。


「おのれの命と引き換えに、家臣達の助命を願ったそうだな。」

「はい。夫の不始末は妻の不始末です。この命、村重に代わり差し上げまする。」

「であるか。」


 信長はその言葉を聞いて、


「立派なものじゃな。」


 そう言うと床几に腰かけた。おそらく、先日討たれた瀬名と比べているのであろうか、だしのその堂々とした振る舞いはまさしく戦国武将の妻のそれであったと言える。


「忠繁。今後、村重のように裏切る者が連続しては叶わぬ。この者達を見せしめとして処刑いたす。準備ができるまで妙顕寺に閉じ込めておけ。」

「え?」

「え、ではない。全員処刑じゃ。一益、妙顕寺へ護送せよ。」


 そう言い残すと、信長は席を立ち、幕舎を出ていった。忠繁は慌ててそのあとを追いかけた。だし達は一益に連れられ、京にある妙顕寺に護送されていった。


「信長様。」


 忠繁は、宿所である塚口城の信長を訪ねた。塚口城は有岡城の出城として建てられた砦だった。


「おう、来たか。」


 やっぱり来たかという確信に満ちた表情だった。その顔を見た瞬間、ああ何か企んでいるんだなと感じた。案の定、


「荒木一族を処刑したように見せかける方法を考えよ。」


 と言ってきた。信長としても、いかにだしが立派な立ち振る舞いをしたからと言って、謀反人の配下とその家族をおいそれとは許せないのだ。処罰が甘いとみれば、連座する者が出ないとも限らない。


「多分、そんなことをおっしゃるのではないかと思っていました。」

「何か、妙案はあるか?」

「そうですね・・・。」


 忠繁は、有岡城内に放置されている多くの遺体のことを考えた。あまり感心する方法ではないが、とりあえず信長の面目を保つことはできる。忠繁は考えたことを信長に伝えた。


「よし、信忠に命じておこう。すまぬが、おぬしは官兵衛を連れて播磨で養生させた後、秀吉の陣まで送ってやってくれ。」

「かしこまりました。」


 忠繁はうなずくと塚口城を出ると、官兵衛と一緒に播磨へ向かった。



 しばらくして、尼崎城の近くに人質が輸送され、磔にされた。処刑場の周辺は厳しい規制が敷かれ、野次馬は遠巻きにしか見ることができなかった。信長らしく鉄砲を使って処刑をするので、巻き込まれないように安全策を取ったのだ。また、残りの兵士達は、用意されたいくつもの小屋に押し込められ、その周囲には油をしみ込ませた藁束が積み上げられた。


「やれい!」


 信忠の号令で五〇〇の鉄砲が火を噴き、磔にした者達に撃ち込まれた。信忠は弾込めさせ、二度目の発砲を命じると、次に小屋へ火を付けさせた。猛烈な炎に包まれた小屋は、押し込められた数百の兵達を焼き殺した。その徹底した処刑方法に、集まった者達は震えあがったという。


 その日の深夜、有岡城南西の海岸。月明かりの下、数百人の人達が次々と船に乗り込んでいた。


「この船は淡路に向かう。そなた達は処刑場で本日全員が死んだ。名を変え、身分を変え、好きなように生きていくがよい。」


 信忠がそう言うと、一人の女性が頭を下げた。荒木村重の妻、だしである。


「中将様のお計らい、皆を代表してお礼申し上げます。」

「なに、わしは父に命じられたまま動いただけじゃ。父が軍師殿に相談し、そなた達を助けた。しかし、これからが大変であろう。達者で過ごされよ。」

「ご心配無用でございます。助けられた命です。懸命に生きていきます。」


 だしはそう言って、もう一度頭を下げると、船に乗って出港していった。だしの毅然とした振る舞いに感じ入った信長は、忠繁の案を用いて、信忠に助けるように命じたのだ。処刑方法を射殺にしたのは野次馬達が近付かないようにするためだった。磔にされたのも、小屋で焼き殺されたのも、すべて有岡城で討ち死にした兵士や巻き込まれて命を落とした領民であった。遠くから見るだけならば、それが死体かどうかはわからなかったはずだ。


 この時代、戦後の遺体処理はまとめて行われていたことが多い。死者に鞭打つような形になったが、それでも数百の命を守るためにこの方法を採用したのだ。だし達助けられた五〇〇名の一族や兵達は、口外しないことを固く約束し、淡路島に逃げ延びていき、多くが後に淡路国を治める大名・仙石秀久(せんごくひでひさ)に仕えた。だしは有岡城で処刑されたことになっているが、子供達と共に、長く淡路島で穏やかに暮らしたという。



 一方、尼崎城に逃げた村重は、その後、花岡城に移って抵抗を続けたが、最後はまたも城を捨てて逃亡し、毛利家に逃げ込んだという。有岡城が落城し、妻子一族が処刑されたことを知ると、家臣を見捨て、家族を見捨て、一人生き延びた自分を恥じて、やがて村重は、自らを道端の犬の糞のようないらぬ存在であると言う意味で『道糞(どうふん)』と名乗るようになる。史実では、その後、茶人として生きるようになり、千宗易などと交流を持つが、天正一四年(一五八六年)に堺で五二年の生涯に幕を閉じる。



 官兵衛と共に播磨にやってきた忠繁は、一緒に播磨の湯治場で温泉に入りながら、官兵衛の面倒を見ていた。官兵衛は一年に渡る軟禁生活で、頭に大きな傷を負い、左足に障害を負ってしまい、杖が必要になってしまっていた。


「忠繁様。上様の軍師にわしの面倒など見させてしまい申し訳ない。」

「何をおっしゃいます。本当によく生き残っていてくれました。藤吉郎様も喜ばれるでしょう。」


 忠繁は、このところ各地を回っていた自分への慰労を込めて、官兵衛を任せたのではないかと考えていた。忠繁の風呂好きを知っているため、湯治場に行かせたのだ。


「官兵衛殿は半兵衛殿の分も、これから藤吉郎様を支えていかなければいけません。」

「はは、力になれるように頑張りましょう。」


 竹中半兵衛と黒田官兵衛、二人は『秀吉の両兵衛』として知られている。しかし、半兵衛は病気がちで、長生きすることができなかった。官兵衛は半兵衛に師事し、そのあとを受け継いで秀吉のために尽力する。その才能は子である長政にも受け継がれ、長政は関ケ原の合戦後、筑前国に五二万石と言う領地を与えられる。


 播磨で湯治を済ませると、三木城包囲中の秀吉本陣に移動した。三木城は落城寸前で、やがて城主の別所長治(べっしょながはる)が城兵の命と引き換えに切腹し、開城することになる。


「官兵衛! 官兵衛!!」


 秀吉は官兵衛の名を何度も何度も叫びながら駆け寄った。


「よくぞ、よくぞ生きていてくれた!」

「帰陣が遅くなり、申し訳ありませぬ。」

「何を言う。生きていてくれただけで大満足じゃぁ。」


 涙を流しながら喜ぶ秀吉を見て、忠繁も心が和んだ。人たらしとしても秀吉は有名だが、忠繁はいくつになってもこの人好きな秀吉が好きだった。農民の子から身を起こして出世してきた苦労人であるがゆえに、人を大事にするのだ。


「忠繁殿。同行していただきありがとうござる。」

「いえいえ。官兵衛殿にご一緒して、ちゃっかり播磨の湯治場を満喫してきましたから、返って役得ですよ。」

「ははは、相変わらず風呂好きでござるな。」

「それよりも。藤吉郎様、半兵衛殿は。」

「おぅ、会うでござるか。案内いたそう。」


 秀吉の案内で、三木城からほどなく近い山中に行くと、そこに半兵衛の墓はあった。この墓は、現在も兵庫県三木市平井の葡萄畑の片隅にひっそりと残されている。


 忠繁と官兵衛は、墓前に線香を手向けると手を合わせて生前の半兵衛を偲んだ。


「半兵衛殿。あなた様のおかげで、わしは我が子を失わずに済みました。願わくば、直接礼を述べ、そしてもっと教えを請いたかった。」


 官兵衛は手を合わせながら、半兵衛を思って涙を流した。


「かつて、墨俣に城を築いた後、拙者は忠繁殿を配下に欲しいと願い出たことがあった。上様には百年早いと怒られてのぅ。その代わりに、その時に口説き落とした半兵衛を付けることを許され、半兵衛は忠繁殿と同じように拙者に策を授け、そのおかげで農民の子であったこの藤吉郎は、筑前守を叙任して大名にまでなった。はは、今では織田家の中国方面大将じゃ。」


 秀吉は官兵衛の肩に手を置き、


「しかしな。そんな拙者にも欠点はある。半兵衛に代わり、この秀吉の軍師としてまた頑張ってほしい。半兵衛も、後を託せるのは官兵衛しかいないと言っておった。」


 官兵衛に軍師になるように願った秀吉、官兵衛はその言葉を聞き、


「この官兵衛、持てる力すべてを秀吉様のために使います。」


 そう言って、秀吉の軍師になったことを表明した。官兵衛のこれからの活躍を祈ったのか、それとも、官兵衛が無事に帰ってきたことを喜んだのか、半兵衛の墓の周りに咲く草花がキラキラ輝いた気がした。



 天正八年(一五八〇年)三月、本願寺顕如は正親町天皇の仲介により信長と講和を結ぶ。しかし、これは事実上の降伏で、顕如は石山本願寺を出ると、紀伊国(現在の和歌山県)にある鷺森別院に移った。


 本願寺は顕如の死後、子である教如(ほんがんじきょうにょ)と弟の准如(ほんがんじじゅんにょ)が対立し分裂。教如の東本願寺と准如の西本願寺に分かれていき、かつての絶大な勢力を失っていく。


 本願寺が石山から退去したことで、本願寺攻略のための総大将・佐久間信盛はいったんお役御免となった。信盛は安土城下の屋敷にて茶会を開くが、ここで事件が発生する。茶会には信長のほか、忠繁や堺の納屋衆など、各地の有力者も参列していた。その席で、信盛が持参した茶器、あの影月の存在が物議を呼んだのである。


 最初に気が付いたのは今井宗久であった。


「なんや。信盛はんのあの茶器は影月とちゃいますか?」


 話しかけられた忠繁は、


「影月、ですか?」


 と、首をひねった。


「影月は本願寺の家宝として顕如はんがお持ちだったと聞いてますが、どないして信盛はんが持ってるんでっしゃろ。」

「宗久、その話は誠か?」


 忠繁の隣にいた信長が目の色を変えて問い質してきた。驚いた宗久は額に汗をかきながら答えた。


「へぇ。影月は漆黒の中に三日月模様が入ったもので、この世に二つとありまへん。顕如はんが開いた茶会で何度か拝見してますさかい、間違いおまへん。」

「忠繁。茶会が終わったら信盛を城へ呼べ、わしは中座する。宗久、お前もあとで来い。」


 そう言って信長は立ち上がると、急用ができたと信盛に伝えて安土城に戻っていった。忠繁は茶会が終わると、信盛と宗久を伴って安土城へ登城した。信盛は信長が中座したため、茶会の最中も何が起きたのかずっと気にしていたようだ。参列した納屋衆は、信盛が影月を持参したことを不思議に思っていたようで、本願寺と信盛が裏で繋がっていたのではないかと囁かれた。


 安土城に入ると、信長が難しい顔で待っていた。


「上様、お待たせいたしました。」


 三人は腰を下ろすと、信長は難しい顔のまま口を開いた。


「信盛。そなたの持参した茶器、あれはどうした?」

「はぁ。本願寺包囲中に、納屋衆の鹿嶋小重郎殿から陣中見舞いに受け取った物にございます。」


 それを聞いて、今井宗久が驚いたように答えた。


「納屋衆に、鹿嶋小重郎なる者はおりまへんがな。」

「なんだって?」

「おりまへん。それに、影月は本願寺の顕如はんが大事にしていた茶器として有名ですわ。茶会の時も、なんでそれを信盛はんがお持ちなのか不思議に思うとりました。」


 今度は信盛が驚く番だった。


「な、では、あの鹿嶋小重郎は何者ですか?」


 信盛の狼狽ぶりを見て、忠繁は信長の顔を見た。信長も同じことを思ったのか、忠繁を見て頷いた。


「信盛様。その、鹿嶋小重郎と言うのは、立派な髭を生やした老人ではないですか?」

「そうじゃ。胸元まであろうかという立派な髭をしておった。一度見れば忘れん。」

「やっぱり。」


 忠繁は、信盛と宗久に髭の老人が各地で反乱を先導したり、反織田の行動をとっているらしいことを説明した。そのために瀬名と徳川信康は討たれることになり、荒木村重は無謀ともいえる謀反を起こした。


「ああ。では、わてに荒木様謀反の話をした桂新左衛門いうのも。」

「おそらく、同一人物でしょう。」


 驚く宗久に忠繁が答えた。


「黒幕はわからぬが、敵の策略に乗ってしまったということか。茶会でその茶器を見た以上、参加した者で顕如の影月だと気が付いた者は、信盛が本願寺と通じていたと思うかもしれんな。」


 信盛は本願寺包囲網を展開しながら積極的に攻め込もうとはしなかった。これは、信盛配下にも一向宗門徒が大勢いたことと、下手に攻めて返り討ちに遭い、織田家全体の均衡状態を壊さないように配慮したためだった。しかし、今となっては、信盛と本願寺が繋がっていたために攻めなかったと言われても仕方のない状況となってしまっている。


「も、申し訳ありません。この信盛一生の不覚!」


 信盛はそう言うと、腰刀を取り出した。


「かくなるうえは、腹切って上様にお詫びし、身の潔白を証明いたす!!」

「馬鹿者!! お前が腹を斬って何の解決になる。それこそ相手の思う壺じゃ!!」


 信長の一喝のおかげで、信盛は動きを止めた。忠繁はそっと近付くと、信盛から腰刀を取り上げた。信盛は自分の行いが織田家の結束を壊してしまうと思い、うなだれて手を付いたが、その瞬間、目の前が真っ白になり、そのまま倒れ込んだ。


「の、信盛様!?」


 忠繁が慌てて支えたが、信盛は白目をむいて喘いでいた。



 信盛が気付くと、安土城の一室で寝かされていた。


「お気付きになられましたな。ご気分はいかがか。」

「あ、あなたは・・・。」


 信盛が見回すと、部屋の中には法衣に似た服装の老人と、信長と忠繁がいた。


「信盛様。この方は曲直瀬道三様、お医者様です。」

「わしは、いったい。」

「先ほど、お倒れになられたのです。心に強い衝撃を受けたせいで精神的に参ったのでしょう。」


 忠繁が説明すると、先程のことを思い出したようだ。


「上様、面目次第もございません。」

「気にするでない。」

「不覚を取りました。まさか、あの者が敵の回し者だったとは・・・。上様、わしの願いをお聞き届けいただけないでしょうか。」


 信盛はそう言って身体を起こした。また、倒れてはいけないと、忠繁は後ろに回ってその身体を支えた。


「わしを罷免してくだされ。」

「なんじゃと?」

「遅かれ早かれ、今日の茶会参加者で気が付いた者が、影月は本願寺の物であったと話すでしょう。そうすれば、わしと本願寺が裏で繋がっていたと、邪推する者が現れます。今は、織田家が天下を取るか取らぬかの瀬戸際。上様が天下をお取りなさった時に、強い織田軍でなければ、今度は他国の侵略を受けます。上様が常々おっしゃっていた、南蛮や明に劣らぬ国造りのためには、時に厳しい処分も必要です。」


 そこまで言うと、信盛はしっかりと起き上がり、忠繁に礼を言うと信長へ身体を向けた。


「上様は、天下人であれせられるのにお優しすぎるのです。上様に逆らえば厳しい沙汰があると、諸将にも諸国にも知らしめなければなりません。織田家の家老であるわしが罷免されれば、今いる家臣達も、これから家臣になる者も、上様を畏れ、敬い、従うことでしょう。」

「信盛。おまえ、そこまで。」

「どうかこの佐久間信盛に、追放をお命じください。」


 そう言って、信盛は深々と頭を下げた。


「そして、真に強い織田家をお作りください。」


 信長は信盛の肩に手を置き、その顔を上げさせると、


「そなたの忠義、決して忘れぬ。長きにわたる余への忠節、ご苦労であった。・・・佐久間信盛、そなたを織田家から追放する。」

「ははぁっ。謹んでお受けいたしまする。」


 信盛の提案を受け、信長は追放を決めた。後に、一九ヶ条の折檻状として、本願寺を攻めなかったことや、刀根坂で追撃に遅れたことなど、一九の罪状を並べて発表することになる。これにより、信盛は畿内方面大将と家老の地位を罷免され、信盛は一族を連れて織田家を去っていった。


 この追放劇には各地の将も驚き、わが身に及ばぬようにと身を引き締めたという。また、その厳しさは各地にも伝わり、織田家は厳しいからこそ強いのだということを知らしめた。


 信盛は、表向きは追放だが、これまでの褒賞として余生を過ごすに十分な金子を与えられ、その後、高野山に籠り不自由のない余生を過ごした。しかし、この時の心労が身体に負担をかけたのか、天正一〇年に入り早々に病死している。享年五五歳。信盛嫡男の信栄(さくまのぶひで)は、信盛の死後、すぐに信長の赦免を受け、信忠の配下として武将復帰し、寛永八年(一六三二年)に七六歳で亡くなるまで、武家として過ごした。



 信盛が高野山へ旅立った日、信長は忠繁を呼んで安土城の天守から西日を眺めていた。琵琶湖に沈んでいく夕日は、いつもより物悲しい気がした。


「余の不徳とするところで、また大事な家臣を失うことになってしまった。」


 信長の背中がいつもよりも小さく見え、忠繁は声をかけることができなかった。


「天下人と言う者は、難しくつらいものじゃな。」

「上様。」

「忠繁。梶井小次郎、児島勘十郎、鹿嶋小重郎、桂新左衛門。これらの名を騙る髭の老人を捕らえなければならぬな。」

「はい。」

「やってくれるか。」


 振り返った信長の目は、何か決意に満ちたようだった。信長の天下統一には、この髭の老人が何者かを調べ上げ、捉えて黒幕を知らなければならない。


「かしこまりました。」


 忠繁も、本能寺の変を回避し、信長に天下を取らせるためにはこの男の素性を明らかにすることが重要であると考えた。信康に謀反を唆した梶井小次郎、村重に謀反をけしかけた児島勘十郎、宗久に村重謀反のうわさを流した桂新左衛門、そして、信盛に影月を渡して罠にはめた鹿嶋小重郎。何か大きな力が動いていることを感じる信長と忠繁であった。


第八章へ続く。

ここまでお読みいただきありがとうございます\(^o^)/

「面白い!」「続き読んでもいいぞ!」という方は、

ぜひ高評価お願いいたします!


本能寺の変まであと二年、

物語もいよいよ最終章に突入です。


忠繁の戦いもまだまだ続きます。

どうぞご期待ください!


水野忠

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― 新着の感想 ―
[良い点] 信長の優しさが故の追放劇、というのが良いですね。 この作品で描かれる、迷いや葛藤の多い信長、大変魅力的です。 [一言] 謎の老人の正体、読まれてる方は凡そ見当がついてると思いますが、種明か…
[一言] 主人公が動いても、歴史が既定路線に収束していく怖さと無力感を感じます。無能と言うことは無いのでしょうが、何をしても影響が無いというのは、少し寂しいですね。
感想一覧
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