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時霞 ~信長の軍師~ 【長編完結】(会社員が戦国時代で頑張る話)  作者: 水野忠


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第二章 織田家の発展⑩

 その日の晩、忠繁は不思議な夢を見た。明里と楓と三人でピクニックに行く夢だ。大きな公園で、三人で明里の作ったお弁当を食べ、ようやく歩くのが上手になってきた楓と遊んだ。楓が転んだので慌てて抱き上げてやると、


「パーパ。」


 そう言ってきゃっきゃっと笑った。


「明里、楓がパパって言ったぞ! 明里、どうした?」


 それまで微笑みながらこっちを見ていた明里が立ち上がると、黙って忠繁から楓を受け取り、


「あなた。私達のことは気にせず、ご自身の人生を歩んでください。」


 神妙な面持ちでそう言うと、背を向けて歩き出した。


「おい。明里、待てよ。」


 追いかけようとしたが、足が思うように動かない。その間にも、明里は楓を連れてどんどん歩いて行ってしまった。


「明里、待ってくれ。待ってくれ!」


 そこで忠繁は飛び起きた。一瞬、何が起きたのかわからなかったが、外から聞こえてくる虫の音や、風で木々がざわめく音、そして、暗がりに聞こえるお風の寝息に、ここが四〇〇年以上昔の時間だということを思い出した。やけに心臓がどきどきしていた。時間にしてみれば、明里達には六年以上会っていないが、夢の中でもはっきりとその顔を見ることができた。


 忠繁は、隠してあった木箱から携帯電話と電子タバコを取り出すと、お風が寝ているのを確認してから庭に出た。小牧山城下での家にも用意したように、この屋敷の庭にも忠繁が自分で作ったテーブルと椅子がセッティングしてあった。天気が良い日は、よくここでお風と一緒に食事をするのだ。秀吉や可成が来ることもあるため、六人掛けできるような大きなものを作った。


 久しぶりの紫煙を燻らせ、そして、携帯電話の電源を入れた。待ち受け画面には、今でも明里と楓が笑顔で写っている。


 忠繁はメモリーから動画を取り出した。東京都北部にある大きな公園に出かけた時の動画だ。歩き始めた楓を連れてピクニックに行ったのだ。さっきの夢の舞台はここだったのだろうか。画面の中で楓は元気にはしゃいでいる。明里も笑顔だったし、忠繁が楓に頑張って歩くように激励する声も入っている。


 ふいに、携帯電話の画面がぼやけて見えづらくなった。いや、それが自分の目にあふれた涙のせいだと気が付くまでに時間はかからなかった。明里や楓に会いたいと思う気持ちが一気に募っていった。


「それは、なんですか?」


 心臓が口から飛び出すかと思うほど驚いた忠繁は、落としそうになった携帯電話をあわてて抱きかかえた。振り返ると、怪訝そうな顔をしたお風がたたずんでいた。


「先ほどの方は、どうしてそのような箱の中に閉じ込められているのでございますか? このような夜更けに、どうしてそんなに明るいのでございますか?」

「あ、いや。これは・・・。」


 言い淀む忠繁の手元を見て、


「忠繁様。そのお持ちになっている小さき棒は、何でございますか?」


 物珍し気に電子タバコを見つめた。こうなっては仕方がないと、忠繁は大きくため息をつくと、


「お風、説明するからとりあえず中に入ろう。」


 そう言って、外では寒いために、お風に屋敷に入るよう勧めた。少し安心したのは、お風に気味が悪いという様子はなく、それらが何なのだろうと好奇心でいっぱいといった笑顔を見せていたことだった。忠繁は電子タバコの残りを吸い終えると、観念して話し始めた。


「お風、今から話すことはとんでもなく突飛な話だ。にわかには信じられないだろうと思う。」

「はい。」

「そして、話を聞いて私が怖くなったのなら、信長様にお願いして、帰蝶様の侍女にしてもらうなど、何か考えるから遠慮なく言いなさい。」

「私が忠繁様を怖がるなどありえません。」


 疑いのない笑顔でお風が答えるので、忠繁はもう一度ため息をつくと、覚悟を決めて話し始めた。


「お風、実はな。私は今から四〇〇年後の時代から来たのだ。」


 そして、自分は会社員であったこと、結婚して子供もいたこと、六年前なにかのはずみでこの時代に舞い込んでしまったこと、光秀にかくまってもらったこと、これまでの経緯を話した。とんでもなく突飛な話であるはずだったが、お風はその一つ一つをしっかり心に刻み込むかのように真剣に聞き、一通りの説明が終わったところで口を開いた。


「先ほどの、明るいものは何だったのでございますか?」

「これは、携帯電話と言って、私のいた時代にはこれを使って遠くにいる人と話をしたり、手紙を送ったりすることができるんだ。それから、今起きていることを、絵のように記録したり、動いているこのままの風景を記録することもできるんだ。」


 この時代にないものをなるべくわかりやすく説明しようとしたが、なかなか難しい。改めて、言葉というものが複雑で難しいものだということを自覚した。そして、言葉での説明よりも、実際に体験してもらった方がいいと考えなおした。


「いいかい。お風、ちょっと私に寄ってみてくれ。」

「こうですか?」


 お風と二人並ぶと、忠繁はカメラ機能を切り替えて、二人の顔を映し出すと、タッチパネルを操作して写メを撮った。


「ひゃあっ!」


 突然たかれたフラッシュに、お風は驚いて声を上げ、飛び退いてしまった。


「い、今のは何でございます?」

「すまない。さぁ、見てごらん」


 忠繁は今撮影したばかりの画像を見せた。


「これは、忠繁様と・・・私? 夜なのに、まるで昼のように明るいです。」

「そうだよ。これがお風だ。きれいに映っているね。フラッシュという光を出すものを使っているから、昼のように明るく映るんだ。」


 忠繁から携帯電話を受け取ると、お風はまじまじとその中の自分を見つめた。そして、自分の頬に手を当て、何か確かめるように撫でていった。


「これが、私の顔・・・。」

「どうかしたのかい?」

「自分の顔を、初めて見ました。」


 その時、忠繁はこの時代には『鏡』というものがないことに気が付いた。現在の人が使うような、ガラスに銀などを塗布して、鏡がきれいに見えるようになるのはまだ先の話で、この時代では金属などの表面をよく磨いて自分の姿を映し出していたと言われている。しっかりした鏡が日本へ来るのは。フランシスコ・ザビエルが持ち込んだものが最初と言われているため、もしかすると、探せば少しは見つかるかもしれないが。


「では、先ほどご覧になっていたのは、忠繁様のご家族の方でございますか?」

「見てみるかい。」


 忠繁は、明里達の画像を見せた。


「これが妻の明里と、娘の楓だ。こっちは、おやじとおふくろ。弟と妹と・・・。」


 画像を見せながら、忠繁は思わず声を詰まらせた。久しく会っていない家族の画像を見ていて、胸が詰まったのだ。帰りたい。元の時代に帰りたいという気持ちが一気に強くなった。


「忠繁様、泣きたい時は泣いてよろしいのです。」


 お風は忠繁を抱きしめた。にわかには信じがたい話ではあったかもしれない。しかし、忠繁の人となりをよくわかっているお風には、そのすべてが真実なのだと理解できた。かつて家族が会えないほど遠くにいると言っていた意味も分かった。そして、二度と会えないかもしれない家族を持つ孤独な忠繁を愛おしく思ったのだ。


「なんの気休めにもなりませぬが、お風はずっと忠繁様の傍におります。」

「怖くはないか?」

「何も怖くなどございません。忠繁様は忠繁様です。私の、大切な家族にございます。」

「お風、ありがとう。いつしか、私が家族には会えないと言った時に、君は自分と一緒だと言ってくれたね。もう、覚えてないかもしれないが。」

「覚えております。初めて散歩に連れてってくれた時のことでございましょう。父上も母上も亡くなって、寂しく思っていたところに忠繁様がいらっしゃったのです。」


 月明かりに照らされて、笑顔のお風は一層美しかった。いつの間にか大きくなったものだと、忠繁は見とれた。


「あれからずっと、お風は忠繁様をお慕い申しておりました。どうか、これからも傍に置いてくださいまし。」

「ありがとう、お風。」


 夜風が二人の間を通り抜けていった。見守るように鈴虫が泣いていた。月明かりが部屋に差し込む中、二人はいつまでも一緒に過ごすのだった。


第三章へ続く。

ここまでお読みいただきありがとうございます\(^o^)/

「面白い!」「続き読んでもいいぞ!」という方は、

ぜひ高評価お願いいたします!


また、周りの方にもおススメしてくださいね!


忠繁の秘密を知ったお風、

それでも受け入れてくれるのは、

忠繁の救いでしょう。


次回からはいよいよ第三章です。

引き続きよろしくお願いします。


水野忠

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