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第一章 戦国時代①

登場人物紹介


霞北忠繁 ・・・二八歳会社員。ある事件がきっかけで戦国時代へ時空を超える。


明智家

明智光秀 ・・・美濃国明智の庄の若き領主。忠繁を保護する。

煕子   ・・・光秀の正室。

岸    ・・・光秀の娘。

玉    ・・・光秀の娘。後の細川ガラシャ。

明智光安 ・・・斎藤家臣。光秀の叔父。

権蔵   ・・・光秀の下男。

お風   ・・・明智家に仕える足軽の娘。光秀が保護している。

明智光忠 ・・・光秀の従兄弟。

藤田行政 ・・・光秀の側近。伝五郎と呼ばれる。

溝尾茂朝 ・・・庄兵衛。光秀の家臣。

三宅弥平次・・・光秀の家臣。


織田家

織田信長 ・・・尾張国の若き領主。

帰蝶   ・・・道三の娘で信長の正室。

木下藤吉郎・・・織田家臣。後の羽柴秀吉。

服部一忠 ・・・織田家臣。小平太と呼ばれる。

毛利良勝 ・・・織田家臣。新助と呼ばれる。


斎藤家

斎藤道三 ・・・美濃国を手にした。帰蝶の父で「蝮の道三」の異名を持つ。

斎藤義龍 ・・・道三の嫡男で帰蝶の兄。

斎藤龍興 ・・・義龍の子。

斎藤孫四郎・・・道三の子。

斎藤喜平次・・・道三の子。

深芳野  ・・・道三の側室。頼純の愛妾だった。

堀田道空 ・・・道三の側近。

日根野弘就・・・龍興の側近。


今川家

今川義元 ・・・駿遠三の太守。海道一の弓取り。

松平元康 ・・・三河の武将。後の徳川家康。

朝比奈康朝・・・桶狭間の戦いに従軍する。

松井宗信 ・・・側近として桶狭間の戦いに従軍する。

山口教房 ・・・織田家から寝返った。

山口教継 ・・・教房の子。


その他

土岐頼純 ・・・美濃の守護。

土岐頼芸 ・・・頼純の子。

毛利元就 ・・・山陰山陽の覇者。

 忠繁を掴んでいた男は、その手を離すと、屈んだまま頭を上げないように手ぶりすると、


「頭を上げてはならぬ。姿が見えれば矢を射かけられよう。」


 先ほどと同じように、静かでも力強い声で男が語りかけてきた。暗がりでよくわからなかったが、男はなぜか着物を着ているようで、スーツ姿に慣れしたしんだ忠繁には、落語家か書道の先生のように見えた。よくは見えていないが、忠繁と同じくらいか少し上の年齢に見えた。


「あの、ここはいったいどこですか?」

「ん? ここは尾張と三河の国境じゃ。あそこの陣は今川治部殿の陣じゃな。」


 尾張と三河(現在の愛知県)、今川治部。忠繁の記憶では今川治部大輔義元(いまがわよしもと)のことだと判断できた。治部というのは、義元の官位、治部大輔のことと推察された。と、いうことは、ここは戦国時代か。いやいや、そんなはずはないだろう。でも、これが世に言うタイムスリップということなのか。そんなマンガみたいなことがあり得るのだろうか。忠繁の脳内に、答えが出るはずもない考えが浮かんでは消え、消えては浮かんだ。


 頭の中がぐるぐると混乱している忠繁を見て、男は不思議そうに首をかしげると、


「いかがされた?」


 そう言って、頭を抱える忠繁を覗き込んだ。


「すみません。ちょっと、頭が混乱して。」


 忠繁は男の顔と、義元の陣の明かりを交互に見ると、どうしたものかと空を見上げた。木々の間から、かすかに見える星空はきれいなものだった。


 とにかく今は情報が必要だと判断し、目の前の男からいろいろ聞き出してみようと考えた。


「あの、あなたは?」

「わしか? わしは美濃の武士で明智十兵衛と申す。」


 明智十兵衛といえば、以前、大河ドラマの主人公にも取り上げられた武将・明智十兵衛光秀(あけちみつひで)のことだ。まさかと思ったが、自分に確認するように忠繁はつぶやいた。


「明智十兵衛? ってことは、もしや、光秀??」


 そう口にしてみてから、忠繁は思わず口をつぐんだ。しかし、時すでに遅く、光秀は訝しげに忠繁を睨み、刀に手をかけた。


「我が名を知っているとは、お主、何者ぞ?」


 明らかにこちらを警戒しだしている。まずい、何とか取り繕わなければ。そう考えて、忠繁は瞬間的に頭の中で言葉を整理すると、


「あ、いや。私は霞北忠繁と申します。南蛮商船で働いておりましたが、海賊に遭い仲間は殺され、逃げてきましたらこんなところまで。迷ってしまって、これからどうすればいいかもわからずにさまよっていました。」


 忠繁は慌てたが、何とか絞り出して出まかせを言った。


「南蛮商船? では、おぬしは堺から参ったのか?」

「地理には疎く、詳しくはわかりませんが、おそらく堺と記憶しています。南へ出港するのに海上に出たところで海賊に襲われ、漂着したのがどこだかもわかりません。」

「なぜ、わしの名を知っておる。」

「それは、美濃の明智様と言えば、十兵衛光秀様でございましょう。明智の庄のご領主で、ご人徳のある名将とうかがっております。」


 忠繁は、生まれて初めて営業職である自分を褒めた。また、初めて営業経験のスキルが役に立ったと実感した。そこまで歴史に詳しいわけではないが、戦国時代の話は好きで、ドラマや本はよく読んだ。とりあえず、歴史を教えてくれた名前も忘れた教師に感謝することにした。


 一方、褒められた光秀は気を良くしたのか、刀から手を放し、少し移動するように促すと、木々の陰から陣が見える位置に移動した。陣の中ではかがり火が焚かれ、その中央、一人の男を中心に四、五名の鎧武者が右と左に並んでいた。その真ん中、囲まれるような位置に、二人の男が後ろ手に縄で縛られ跪かされていた。


「鳴海城の山口教房(やまぐちのりふさ)、教継(やまぐちのりつぐ)親子じゃ。」


 鳴海城の山口親子と言えば、信長の家臣だったが今川の西上に合わせて織田家に不安を覚えて寝返り、しかしその後、今川には信用されずに、桶狭間の合戦前に斬られていたはずだ。


 中央に座っていた男が立ち上がった。遠目でも、小太りであることがわかるが、身なりは陣の中にいる誰よりも豪華な物だった。おそらくはそれが今川義元なのであろう。


「義元様、われら親子は決して今川を裏切りませぬ。」

「そうかのぅ。貴様達親子が寝返ったのは信長の策略だと聞く、おおかた、戦が始まったのちにわしの背後を突くつもりであったのだろう?」

「いいえ、いいえ。決してそのようなことは・・・ひ、ひぃっ!」


 なんとか弁明しようとする教房に、義元は刀を抜くと、その眼前に突きつけた。


「ほほほ、よいよい。教房、せっかくだからそなたに大役を預ける。」

「は、はいぃ!」


 義元はいったん背を向けると、二、三歩歩き、おもむろに振り返った。抜いた刀をまっすぐに教房に突き付け、


「織田の子せがれを血祭りにする前に、貴様らの血首を戦神に捧げてくれよう。信長の閻魔への案内役、そなた達にしかと申しつけたぞ! この親子を斬り、その首をさらせ!」


 声高々にそう言い放った。両脇に控えていた武将が両名を押さえつける。


「ひぃぃ! 義元様、お、お助けくださいませ!!」

「死にたくない! 死にたくない!」


 泣き叫び、喚く二人にはお構いなしに、押さえ付けていた武士の一人が刀を抜くと、躊躇うこともなく教房の首に振り下ろし、そして、振り返りざまに教継の首も斬り落とした。


 忠繁が今まで聞いたことのない肉を切り裂く嫌な音と、おそらく血液であろう液体が飛び散る生々しい音、そして、義元の高らかな笑い声。それらが聞こえると共に、二人の首が胴体を離れて地面に転がった。義元はその首を、まるでサッカーボールでも扱うかのように踏みつけ、


「元康、泰朝。丸根砦と鷲津砦を攻めよ。容赦はするな、皆殺しにせぃ!」


 刀を掲げてそう命令した。目の前で起きた余りに凄惨な光景と、微かに、しかし確かに漂ってくる血の濃い臭いに、忠繁は腰を抜かして手を突いた。そして、吐き気がして胃の中の物がこみ上げてくると、本能的にそれを必死に堪えた。


「これは、いよいよ戦が始まるな。おぬし、大丈夫か?」

「すみません。少し、気分が・・・。」

「ここにいては危険じゃ。街に戻ろう、今夜はもう遅い、わしの宿に一緒に泊まりなされ。さぁ、立てるか。」

「な、なんとか・・・。」


 忠繁は光秀に支えられ、その場を後にした。去り際に振り返ると、義元が教房の首を蹴飛ばしているのが見えた。永禄三年(一五六〇年)、まだ春というには涼しい時期であった。



 しばらく歩くと、森を抜けて街道に出た。そこには提灯を持ったみすぼらしい服装の中年男が待っていた。


「権蔵、待たせたな。宿に戻ろう。」


 光秀が声をかけると、権蔵と呼ばれた男は頭を下げた後、不思議そうに忠繁を見つめた。


「へぇ。十兵衛様、そちらの方は?」

「南蛮商船に乗っていて遭難したという。迷子になっていたので保護した。怪我もしているようだから宿で手当てをする。」


 光秀に言われて、忠繁は初めて自分があちこちに擦り傷を負っていることに気が付いた。スーツもひっかけたのか、ところどころ穴が開いてボロボロだ。


 二人に案内され、忠繁は街を目指すことになった。もう日が暮れてしばらく立つのか、うっすらと遠くの空が赤かったが、ほとんど周囲は夜のとばりに飲み込まれようとしていた。文明的な街灯などは一切なく、陽が沈めばとてもではないが身動きが取れないだろう。忠繁は本当の意味の暗さというのを感じた。


 権蔵と呼ばれた男の持つ提灯の火が、辺りを頼りなく照らしてくれた。この提灯ひとつあるとないとでは大違いだった。歩きながら忠繁は、ここがどうやら西暦で一五〇〇年台の日本であり、おそらく判断するに戦国時代であるということを、事実として考えようとしていた。


 当然、すぐに信じられることではなかった。むしろ、何も信じられなかった。夢だと思おうと努力したが、斬られた山口親子の断末魔の叫び声と、肉を斬る音、血の匂い。すべてが現実として目の前で起きていることだと自覚させた。


続く。

ここまでお読みいただきありがとうございます\(^o^)/

「面白い!」「続き読んでもいいぞ!」という方は、

ぜひ高評価お願いいたします!


また、周りの方にもおススメしてくださいね!


戦国時代にタイムスリップしてしまった忠繁、

光秀に不審がられないように営業スキルをいかんなく発揮していきます。(笑)

続きもよろしくお願いします。


水野忠

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― 新着の感想 ―
階段を転がり落ちてタイムスリップして人が切られて血が飛び散る、手元の灯りがペンライトのような灯り。仁_JINから来てませんか?
[良い点] フィクションとして事実を気にしない思い切りの良さ [気になる点] やはり史実と違う部分に違和感は感じる [一言] 光秀は出奔した後、朝倉→足利→信長みたいな感じですね
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