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時霞 ~信長の軍師~ 【長編完結】(会社員が戦国時代で頑張る話)  作者: 水野忠


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第二章 織田家の発展②

 大きな広間に信長と二人残されたため、忠繁はいささか居心地が悪くなってしまっていた。


「そう固くなるな。忠繁、そなた武芸はできるのか。」

「戦に出た経験はございませぬ。十兵衛様に剣術の手ほどきは受けましたが、とても使える力量には達しておりません。」

「ではそなたには何ができる。」


 こういった直球のやり取りが、のちの信長像に繋がっているのではないかと考えられた。しかし、忠繁も営業の世界でもまれてきた実績がある。上司の矢継ぎ早の質問に答えられなければ、営業マンとしては生き残ってはいけない。


「昨日、質の良い兵士を育てるには金が必要だと申し上げました。この清州を日本で一番豊かな街に作り替えていくことが、信長様の天下取りには必要だと考えます。」

「それはわかっておる。そのための策はあるのか。」


 昨夜から考えていたことである。忠繁の予想が正しければ、この制度はまだ始まっていないはずである。


「その土地土地に移動するには、通行人は関所で通行手形か通行料を支払わなければその国には入れません。」

「そうじゃ。間者がどう紛れ込むかわからぬからな。」

「しかし、各国の間者は、関所などの監視の目をくぐって領国内に入ってきているものと考えられます。そこで、どうせ間者が紛れ込むのでしたら、いっそのこと招き入れてはいかがでしょうか。」


 さすがの信長も、この提案には目を丸くした。


「どういうことじゃ。詳しく申せ。」

「はい。まずは、尾張国内のすべての関所を廃止します。それから、商売をするにあたって徴収していた税金を免除し、一部の大型商人の特権を廃止します。」

「なんじゃと?」

「そうすることで、各地から尾張に人が集まります。人が集まればそれだけ物が動きます。物が動くということは金が動くということです。この制度を求めて、各地から優秀な人材と資材、そして金が集まります。」


 そこまで話をすると、信長は何か考え込んでいるようであったが、頭の中で考えがまとまったようである。


「よし! ではそなたの申す通りにやってみよう。」


 それから、忠繁は治水を発展させることや、軍勢が素早く移動できるように領内の主要な道路の整備を進言した。これも、歴史の本で見たこと、読んだことをそのまま伝えただけだったが、当の信長本人は、後の世でそれらを自分が発案して行ったことになっていようとは夢にも思わないであろう。


「誰かある。五郎左(長秀のこと)を呼べ。」


 信長に命じられ、しばらくすると長秀が戻ってきた。


「お呼びですか。」

「五郎左、町開発の進み具合はどうじゃ。」

「はっ。お命じ通りに開発を進めておりますので、一通りの店は設置できております。清州で買えぬ物はないでしょう。田畑の開発も順調です。」


 町開発奉行の長秀から一通りの報告を聞くと、信長は忠繁に向かって、


「忠繁、何か聞きたいことはあるか?」


 と、発言の機会を与えてくれた。


「はい。長秀様、税収入の種類は農民達からの年貢と、関所からの通行税、商人達からの商税が主な収入で間違いないですか?」

「ほかにもあるが・・・。まぁ、主な収入はそこじゃな。」

「昨年からの税収の伸びはどうでしょうか。」


 忠繁の言葉に、長秀は少し困った顔をした。清州城下の座はほぼ固定化でき、これ以上の税収は見込めない。そもそも座とは、商工業者達によって作られる組合のことで、領主に金銭を払う代わりに、営業権や販売権、仕入れ先などを独占しているものだ。そのため、座に属さない商人を排除して、自分達の収入がほかに流れないように利権を確保しているのである。


 長秀が困った顔をしたのは、この座があるため、ある程度の店が立ち並ぶと、新規参入の意味がないため、頭打ちとなるのである。したがって、税収の伸びが止まると、そこから延ばすのはなかなか難しかったようだ。


「長秀様。座を廃止してみませんか?」

「なんだと? そんなことをすれば、今の商人達からどんな突き上げを食らうのかわからんぞ。」

「突き上げさせればいいのです。座を無くせば、新しく商いをしたいという者が集まってくるでしょう。商人が増えれば、仕入れ先も増えます。つまり、仕事を求めて人が入ってくれば、その分の金が流通することになり、結果的に織田家に入る税収も増えるでしょう。また、今まで座によってあぐらをかいていた商人達も、質の良い物を適正価格で売らなければ淘汰されていきます。結果、尾張の商品は安くて質のいい品がそろうはずです。」


 その説明に、信長はわかっているのか頷いていたが、長秀は首をかしげて理解しかねているようだった。


「例えば、着物問屋があったとします。この町にあるのは、一着一〇〇〇文だったとします。長秀様は信長様に献上するために、予算一〇〇〇文で買いに来られました。当然、この問屋で購入されると思います。」

「そうじゃな。」

「しかし、長秀様の屋敷の下男下女の方に、日ごろの褒美として衣服を送るとしたら、この問屋で買われますか?」


 そう問いかけると、長秀は首を振って、


「下男達に信長様へ送る物と同じ物を送るわけにはまいらぬ。他の場所で買うであろうな。」


 そう答えた。


「そうですよね。でも、この町にもっと安い着物を売る問屋があったら、そこで買われると思います。そしたら、他の場所に流れるはずのお金が、この町で落とされるのです。つまり、税収が増えるということです。」

「そうか。つまり、よそに流れる金もこの清州で使わせようと言うのか。」

「はい。そして、同じ業種であれば、そこで競争が生まれます。高級品を取りそろえる店、安い物をそろえる店、様々な店が並びます。値段が安くても品が悪ければ客は離れますし、高くても良い品のある店には多くの人が集まります。品質の向上、商人の質の向上にも繋がるかと思います。」


 そこまで説明されると、長秀にも伝わったようだ。何度も頷きながら、今後の計画を計算しているようだった。


「私は、町割りやその仕組みなどには詳しくありません。せっかくここまで作り上げた街並みに、新しいことを取り入れるのは大変なことでございます。」

「いや。正直、これ以上どうやっていこうかと悩んでおったところじゃ。信長様、忠繁殿をお借りし、町割りを見直してもよろしいでしょうか。」


 さすが織田家の家老だからか、革新的な話にもかかわらず、長秀は意外にもあっさりと忠繁の提案を受け入れてくれた。


「そのつもりで呼んだのじゃ。やって見せよ。」

「ははっ。」


 長秀は頭を下げると、さっそく忠繁を連れて街へ繰り出した。そして、一通り町の説明を忠繁にした後に、城下にある長秀の屋敷に座の責任者達を集めた。


「座を廃止する。」


 長秀のこの言葉に、集まった商人達は一斉に拒絶の姿勢を示した。それもそうであろう、座が無くなるということは、自分達の利権が無くなるということだ。


「少し、お聞きくださいませんか?」


 忠繁はそう言うと、座の責任者の中でも、最も長老である着物問屋の彦衛門(ひこえもん)に声をかけた。長秀の説明やその間のやり取りを聞いていると、この彦衛門がこの城下町のボスだと思ったからだ。


「彦衛門様。例えば、一着一〇〇〇文の着物を売ったら、二〇〇文の儲けになったとします。次の一着を売ったら儲けは四〇〇文ですね。」

「そうじゃ。そんなの当たり前のことじゃ。」

「でも、二〇〇文の着物が欲しい方にはなかなか売れないですよね。でも、二〇〇文の着物があって、六着売れたら、一〇〇〇文の着物一着よりも儲けが出ませんか?」

「そりゃ、まあな。」

「今のように間口の狭いままでなく、広くすることで、この清州には人が集まります。結果的に、高い物も安い物も売れるようにしていけば、彦衛門様達、今いる商人の皆様の売り上げも伸び、結果的に今よりも潤うと思うのです。」


 だが、彦衛門は腕を組んだまま納得いかない顔をしていた。


「人が集まると言っても、たかが知れているだろう。流通を伸ばすには物だけじゃなくて人も流通させなければならん。」

「はい。ですので、座の廃止と共に、各地の関所も廃止します。」

「な、なんじゃって?」


 関所を無くすというのは商人であっても驚くことだ。その地域に入るにも通行税が必要で、そのために、人の流れが抑えられている。ただし、そのおかげで他国の間者や、怪しい人物を領内に入れないようにできるのだ。それを無くすというのは、およそ考え難いことだったのだろう。


「関所を無くせば人も金もこの清州に集まります。必ず、この町は今以上に栄えるはずです。」


 忠繁の説明を聞き、商人達は一応の納得をすることになった。とっかかりの礼として、現在、城下で商いをしている商人達の税金は一年間免除にすることにした。これもあらかじめ、信長から許可を取っていた内容だ。


「丹羽様。座を無くし関所を廃止することはわかりましたが、関所を無くすことで、賊などが入り込んできやしませんか?」

「安心せい。今まで関所に配置していた兵達を町の警護に回す。盗賊が出れば我ら織田家が必ず守るゆえ。そなた達は安心して商いに精を出せばよい。」


 長秀の言葉に、彦衛門達も安心したようだ。さっそく次の作業に入ろうと、会合の解散を持ちかけようとしたが、


「最後に、一つだけ皆様にご注意しておかなければいけないことがございます。」


 リスクについても話しておくべきだと思った忠繁は、もう少しだけ時間を取ってもらった。


「これから、多くの方がこの清州に来て商いを始めます。競合するお店も出ると思います。高くても品が悪ければ売れませんし、安くても品が良ければ物は売れますが、品質よりも価格が下回ると利益は減ります。適正な料金設定をしていってください。このさじ加減が上手なお店は栄え、利益ばかり追求すれば、その店は廃れていきます。」


 これは、戦国時代に限らずの話ではあるが、


「霞北様。まぁ、見ていてくださいよ。」


 彦衛門はそう言うと、腕まくりして、


「清州の商魂、なめてもらっちゃ困りますぜ。」


 すっかりやる気になった彦衛門に、他の商人達も頷いていた。


続く。

ここまでお読みいただきありがとうございます\(^o^)/


「面白い!」「続き読んでもいいぞ!」という方は、

ぜひ高評価お願いいたします!


また、周りの方にもおススメしてくださいね!


作者の励みになって、馬車馬のように(?)書きます!

では、次回もよろしくお願いいたします。


水野忠

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― 新着の感想 ―
まぁ商品が高くて品質が悪いうえに品数不足で商店にはあまり商品が並ばない!そへがロシアがソ連時代には常識、それらの商店の従業員も建前上ソ連は平等で働いても働らなくても給料が変わらんじゃやる気もなくしてた…
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