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7話 消滅ダメ、絶対

「精霊の成れの果てである魔を消滅しているが為に、パラは命を落としました。それは御存知でしょう」

「知ってるよ」


 師匠の金の精霊、パラ。

 師匠が聖女になって最初に現れた精霊がパラだ。だからか信頼も厚くて、互いに想い合ってて、見習いの時に二人の仲睦まじい姿を見ては、いいなあなんて思っていた。御先祖様的な言葉を借りるなら、尊い、あたりかな。


「パラを失って、あの人がおかしくなったのも」

「……」


 知っている。

 年に何回かある聖女の集まりの度に師匠には会っていた。

 その時、いつも連れてるパラがいなくて、どうしたと訊けば、眉を寄せて微笑みながら亡くなったと短く告げられた。


「あの人の認識がいつの間にか、パラが死んだではなくなっていたのも」


 その後、師匠は会う度に痩せていくばかりで、最後に会った時は、大丈夫パラはいるからと掠れる声で言っていた。

 何度か手紙を書いてはいた。

 私達の連絡手段は聖女の集まりか、手紙かがメインになる。

 私の転移の魔法みたく力のある聖女はテレパシー的なものでやり取り出来ることもあるけど、私にも師匠にもそういった特殊能力はなかった。

 この世界に通信機器があれば気軽に連絡とれるんだけどね。この世界にそんな便利品はない。


「手紙、読んでもらってなかったのかなあ」


 手紙の返事は一切なかった。

 師匠が強がりで周りに助けを求めないタイプというのは見習いの時に知っていた。

 そこが可愛いとパレも言っていたけど。

 雰囲気ぶっ壊すけど、あれだツンデレだ。師匠はツンデレだった。今気づいた。


「パラを失ったあの人がおかしくなって、私をパラだと言い始めたのを貴方は知らないでしょう」

「え?」


 曰く、ただ背格好が似ていただけで、パラと呼ばれるようになってしまったらしい。

 いくら訴えても聞かない師匠、挙句あの二人は恋仲だった。はっきりとは言わなかったけど、サリュークレはその立ち位置を求められたようだった。


「なら増々サリュークレは悪くないんじゃ?」

「何度言いましたか? 私があの人を斬った事実に変わりはないと」

「真面目すぎだよ」


 話を聴く限り、サリュークレがあの惨事を起こした風に言っているけど、違和感がある。

 彼が師匠を斬った事、他の精霊の事、大事な部分を隠している。

 もしかして、と思った。この精霊、本当は何もしていないんじゃないかって。

 でもそれは今は分からない。話してくれるのを待つしかなかった。

 だからこそ、私は今できる事をしようと思う。


「余計な事を話しました。それで? 貴方はどうなのです?」

「ああ……なんで大陸守ってるかって?」


 問答が続いてた。なかったことに出来ないのかあ。

 大人の男性ならスマートに受け流してもいいのに。見た目と中身こんなに違う人だったっけ?


「はあ……そうだね、私は、」

「……」

「聖女の役割とかどうでもいい。皆とここで楽しく過ごせればそれでいい」

「それが応え?」

「うん。貴方の希望はきけない。殺さないよ」


 消滅ダメ、絶対。そういうことだ。


「貴方、昔から思ってましたけど」

「ん?」

「馬鹿ですか」

「ひどい!」


 サリュークレみたく哲学に頭を悩ませて深くナイーブになる奴等ばかりだと思うなよ。

 楽しい事追求して、それを優先して何が悪いって言うの。


「あー、じゃあもうこれでこの話終わり」

「納得出来ていないと」

「うっさい! ここに来た時点で拒否権はない!」

「無理矢理連れてきた癖に」

「うっさい! 全力で抵抗すればよかったじゃん!」


 そもそも、あれだけこっちを下に見ておいて、あっさり翡翠の中におさまるなんてありえない。

 調子乗ってた言動は恐らく私を煽る為だ。

 私がキレればいくら力の弱い聖女でも無抵抗の魔は消滅させる事が出来るだろう。

 そう、初めから考えれば分かる事だった。

 彼は度々殺してくれと言っている。

 事実、今の私の言葉に反論の言葉はないのだから、当たりだ。アイス一本もらえちゃうレベルのやつ。


「御先祖様は自殺志願者が嫌いだったけど、それに激しく同意するわ」

「は?」

「こっちの話ですう」


 決めた。

 師匠の遺言でもある、サリュークレを助ける、これを実行する。


「サリュークレから瘴気が消えて、精霊として立ち直るまで、ここにいさせる」

「それは嫌だと」

「もう決めちゃったんでー、無ー理-でーすねー!」


 態度が態度なのか盛大に舌打ちされた。

 見た目品行方正なのに、そんなお行儀の悪いことするの。意外な発見。


「というわけで」

「……」


 努めて明るく笑う。

 どうにもシリアスは駄目だ。楽しく明るくがいいに決まってる。


「これからもよろしくね、サリュ」

「……今、なんて?」

「え、サリュークレって長いから、サリュでいいでしょ。師匠もそう呼んでたし」


 もっとも、見習い期間は愛称で呼んだことなんて一度もなかったけどね。

 立場的に呼べなかったというべきか。今この時ぐらいはサリュと呼んでも許されるはず。彼が立ち直るその時までの期間限定だから。


「ちなみに明日畑仕事をシュリと一緒にやってもらうから、よろしく」

「は?」


 タイミングよろしく、ヴァンがサリュの部屋の用意が出来たと言って、部屋の扉を叩いた。

 本当うちの子たち空気読めるし、仕事も早いし有能なのことこの上ない。

 好き。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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