最終話 明けの明星
「終わりはあっさりしてるなあ」
「これで、終わりですか」
「全部、掌の上感半端なかったけど」
「それでも、あらゆる可能性の中から、私達は選んだのでしょう?」
「そうだね」
抉れた大地に水が染み渡った。
湖というべきか、海というべきか。
面白い地形になったな。
「ラストはどう終わらせようか」
「はい?」
これで終わりでいいでしょう、的な雰囲気だしてるサリュを尻目に考える。
この物語に相応しいエンドを迎えないと。
「そうだ」
「どうしました」
「キスして」
「は?」
あっれ、通常運行塩対応の顔してるじゃん。
なんで? もうエンドロール入ってもおかしくないパートだよ?
なんならエンド曲の前奏入り始めてもおかしくないとこだよ?
「シュリから言われたこと云々は置いといて! 少女漫画のエンドは、大体結婚式でキスして終わるんだよ! そこを私は推したい!」
「これは少女漫画というものではないでしょう」
「でも、俺達の冒険はここからだっは違うんだよ。それだと打ち切りだし。私達の話は打ち切りじゃないし」
「また訳の分からない事を」
まったくつれないサリュに逆戻りとは。
愛の告白あんどプロポーズに、赤面して床ドンまでしたのに、どうしてここに戻るの。
「ええい! もう結婚式やろう? ラウラちゃんの記憶から、何するか分かってるでしょ」
「……」
都合悪くなったのか、黙秘きたわ。
ノリが悪い。
最後くらいデレの上のデレがあってもいいと思います! そうですよね、御先祖様!
「ふーん」
「……」
「おっほん! 私、エクラ・ヴェリテは生涯サリュークレを健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いまっす! はいどうぞ」
「……」
「ノリが悪い!」
すると、私を冷えた目で見下ろした後、瞳を伏せて盛大な溜息を吐いてきた。
ここにきて、この溜息きつくない?
「ひどいよ!」
「たまに自分がおかしいと思う時があります」
「え?」
「どうして貴方が好きなんでしょう?」
「え? ディス?」
やっぱりひどい。
ちょっと抗議の声を上げようと、視線を上げて目を合わせれば、既にサリュがこちらをしっかり見ていた。
あ、金の瞳が蕩けてる。
そう思う最中、彼が屈んで、手を私の頬に添えて、少し傾かせた。
「サ、」
しっかり実感できるくらい長く。
ああキスしてるっていうのが、分かるぐらい重ね合った。
もう。なんだかんだ叶えてくれるんじゃないの、このツンデレめ。
「ん……」
「……」
これだけで言い様のない幸せ感じられるっておかしい。
なにこれ。
唇を離しても、その距離のまま、サリュが額を合わせてくる。
ここにきて、おでここつんのコンボを決めてくるとは、とはー!
「この命ある限り、エクラに心を尽くします」
「お、おお……」
離れていく。
デレだ、デレに間違いない。
そんな私から視線を逸らさず、真っ直ぐ見つめる。
その目元が赤く染まっている。
「ずっと一緒にいてくれるのでしょう?」
「うん、もちろん」
なかなかどうして吹っ切れているな。
少女漫画的エンドを要求したのは私だし、今まで至上最上のデレを披露してくれたのなら、それこそ本当に大団円というやつか。
「あ」
「どうしました」
「ほら、見て」
指をさした先は、もうすぐ夜明けが来るのか白んでいた。
そこに光る輝く星。
「明けの、明星」
「やっぱり、いいね」
浅く息を吐いたサリュが目を細める。
「ああ、これが」
「ん?」
「生きていて良かった、という気持ち、なのでしょうか」
本当は、この世界に金星なんてない。
あくまで王族側があっちの世界に則ってあてたものにすぎない。
それでも、こういうものはそのまま残していいと思う。
だってこんなにも綺麗なんだから。
「うん、そうだよ」
「エクラ」
「今感じたこと、忘れないで」
やっぱり私には、サリュがいないとだめみたいだ。
そのサリュが、今は隣にいる。
願っていた二つを超えたサリュが。
「夜明けが」
「うん」
するりと彼の手をとって指を絡めれば、びくりとしてこちらを見下ろした。
にんまり笑うと、戸惑って眉を八の字にした後、困ったように笑った。
私の願いは叶っている。
そしてこれからも、叶え続ける。
完結しましたー!最後までお付き合い頂き、ありがとうございます!




