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6話 何故追放された身でありながら大陸を守ろうとするのです

「私が誰かわかる?」

「……何故、私を殺さないのです」


 開口一番ネガティブ!

 勘弁してよ。いやまあいきなり殴りかかってこないだけマシだけど。


「オール」

「なんだ」

「それ、返してあげて」


 意外だと目を丸くしてたけど、躊躇いなくサリュークレに金の剣を渡した。

 サリュークレはオールをまじまじと見て、抵抗も示さずに金の剣を受けとった。


「何故これを私に」

「師匠の精霊の物だから、貴方が持ってて」

「これで私に斬られるかもしれませんよ?」

「今してこないからいいかなと」

「……」


 さすがの熟練度。

 見えない速さで私の喉元に添えられる金の剣。

 動きだそうとする精霊達を片手をあげて制止した。


「私はいつでも貴女の首を跳ねることが出来ますが」

「でも今しないってことは、見込みありってことだよね?」


 わざわざ見せ付けるように寸止めするあたり、この精霊の優しさが窺える。見習いの頃も彼は本当に優しかった。


「ひとまず私の部屋に来て」

「は?」

「お茶でも飲もう」

「え?」


 するっと彼の前を離れて、ヴァンに替えの服をもらう。

 サリュークレは腕を下ろすことなく、その場からも動かなかった。

 ただ驚いて、私を目で追っているだけ。


「着替えてすぐに行くから待ってて。シュリお願い」

「オッケー」


 シュリに案内を任せて、私は一時離席した。

 呆然と立ち尽くすサリュークレに対し、呆れた様子で金の剣を降ろさせるシュリ。

 あれならひとまずお茶ぐらいは飲んでくれるだろう。


* * *


「何故」

「さっきからそればっかじゃん」

「納得出来ません」


 私の精霊達の了承の元、ここで過ごしてもらうことを伝えると、固くお断りされた。


「だから師匠がそう言ったんだって」

「私は消滅すべき対象です。瘴気を浄化して私を助けようなど戯言にすぎない」

「おかたいですなあ」


 まあ確かに見た目も中身も真面目な人だ。見習い期間でそれは十二分に知ったし。


「それが聖女の使命とでも?」

「私がやりたいからやるんだよ」

「……」


 ぶっすりした顔をして私を睨みつける。

 かつてお世話になった彼は整然として、物腰柔らかスマートなイケメンだった。

 勿論、今もイケメンだし、物腰柔らかなとこは変わらない。

 私へ向けられる敵意だけが違うだけで。

 イケメンに睨まられるのはやぶさかではないけど、出来れば笑顔とか柔らかい方が嬉しいよね。


「貴方は、私が貴方の師を斬ったと理解してますか?」

「うん」

「私が憎くないのですか?」

「悲しいけど、憎くはないよ」

「私が貴方の師の精霊達を全て斬っていても?」

「予想していた応えだね」

「それでも、貴方は私をここに置くと?」

「うん」


 理解できないと言わんばかりに顔を歪める。

 今の状況は私にとって世話になった師匠の仇を目の前にしている。

 祖の仇を目の前にして、私の精霊になって一緒に暮らそうと言われているわけだから、大事な人を失った人の気持ちとしてありえないのではというのが彼の思いだろう。

 いや待った。

 一緒に暮らそうとかそれもうプロポーズなんじゃないの?


「結婚しようとかそういう意味じゃないからね?」

「は?」

「エクラ、誰もそう思ってないから」

「え、そう?」

「そう」


 私と彼の二人の会話に何も言ってこなかった立会人兼ボディガードのシュリが一言。

 大丈夫って言ったのに、他の精霊達も心配だからという理由でシュリが控えている。

 まさかツッコむ為にいることになるなんて。


「このような勝手な事をして許されると思っているのですか」

「お咎めありそうだよねえ」

「分かっていながら、何故そこまで意固地になるのです」

「意固地はそっちでしょ」


 押し問答すぎる。

 この精霊、優しいし物腰柔らかだけど、結構頑固なとこあったんだった。忘れてたわ。


「……何故、よりにもよって貴方が」


 聞こえないとでも思ったのか、視線を斜め下にして囁く。

 私に見つかったのが不服なのだろう。

 ぺーぺーの新米聖女、力では圧倒的に弱い私に捕らわれ、聖女と精霊の繋がりを求められるなんて、熟練の聖女の元にいた精霊ならプライドが許さない。いっそ消滅した方がマシなんだろうな。


「少しぐらい自由にやってもよくない?」

「貴方は聖女というものが何か、根本的に理解してますか?」


 その言葉のニュアンスが、聖女として真面目に魔の消滅に尽力する事ではないと悟る。

 本来の意味でだ。


「見習いを終えた時に学んだけど」

「なら貴方達が、聖女という大層な名を冠した追放者と分かっていますか?」

「うん」


 大陸の外周に配置され、結界をしきながら、元精霊だった現魔なるものを消し去る聖女は、ここ数百年の歴史を見れば、異能の力を持つ魔女扱いというオチだ。

 御先祖様の言葉を借りるなら左遷といったところか。

 私達は生き残る為に、この左遷を受け入れているといってもいいのかもしれない。

 裁判にかけられ命を落とさない為の手段。それが聖女として生きる事だ。


「私はずっと疑問でしかなかった」

「なにを?」

「何故追放された身でありながら大陸を守ろうとするのです」

「痛いとこつくねえ」


 彼はいたく真面目に訊いているようだった。

 そんな哲学的なことを新人聖女の私に問わないでほしいんだけど。

 シリアスは私に向いてない。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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