58話 仕込みばっちり大聖女
「それに私だけの特別な転移の魔法が、次元が異なるとはいえ、大聖女様達が使えることってやっぱりおかしいんですよ」
「そうかい」
「御先祖様のどの記憶にも、貴方方が転移の魔法を使ったことはなかった」
「成程」
「熟練聖女が自身の結界内で転移できるのも同じです。転移は気軽な魔法じゃないはずなんですよ。逆行もですけど」
師匠は自身の結界内で転移する事が出来た。勿論それは他の熟練聖女も同じ。
そして大聖女は特殊な方法によって、他の聖女達をサンクチュエールへ転移させる事が出来る。
ギフトの転移の魔法が特別なのに、どうしてこうも身近に転移の魔法があるのかって話。
「私がこの選択をするという前提から考えれば、今まであることは全部前準備としか思えないんですよ」
劣化版とはいえ、転移は転移。
強い力の持ち主が使い、そこに数の力も加われば、劣化版転移はそこそこの転移になるはず。
つまるとこ、次元繋ぎの転移の力ぐらいにはなる。
大聖女レベルが内周の数だけいれば、それこそギフトの代わりになれるんじゃないの。
「今日この時の為に、転移の魔法をこなせるように仕上げてきましたね?」
「お前は頭が足りない割に、回答に辿り着く事が出来るのだから、不思議なものだよ」
「お褒め頂き、ありがとうございます?」
隣のサリュは絶句している。
さすが察しのいい精霊様、私の拙い説明でも、理解している。
恋愛面以外は聡いなあ。
本当、こと恋愛ものでは一話かけないと愛が伝わりませんとか、誰得なの。
手のかかる子は愛しいとか、そういうの好きな層いるけど。
「で、大聖女様。次元繋ぎ、できるんですか?」
「ああ」
「協力して頂けるんですね?」
「了承を得た者達だけだがね」
この軽々しい承諾ぶりを考えると、ギフトの妹が御先祖様の次元に転移してきた魂入れ替えの禁止魔法も、最初のギフトを超えた今この時の為のものと捉えて正解だろう。
禁止魔法にしたところで、その魔法が現実に存在する限り、誰かが知り得るものになる。
そうして少しずつ広めて、わかる者達が今日を担う流れなら、恐ろしいことこの上ない。
大聖女、仕込みばっちりすぎて。
御先祖様が使った逆行だってそうだ。
サリュが鍵の役割を拒否する未来も当初は考えていたな。
その選択がほぼないに等しいのがみえた時点で仕込みをやめたのが、今、みたいな。
「エクラ、まさか」
「ん?」
同じ事を考えていたようだ。
役割が役割なだけに、というか、情報量はほぼ同じだものね。
判断した結果が同じなのも、またしかりか。
サリュが何を思ってか、言葉を選んで、もごもごしているので、さっさと回答を出す事にした。
「この人達、私達がこうなる前から準備してたんだよ」
「そんなことが、」
「できちゃったね。まあ南の国が一番くせ者でした的なねー」
サリュが再び言葉を失った。
正直、一番痛い目にあったのはサリュだから、怒っていいと思うし、拳の一つを大聖女に繰り出しても、仕方ないことだと思う。
私にこの結末を言わないのは置いてよくても、サリュが痛い目に遭わないよう配慮してもいいよね。
サリュは確かに自殺志願者だったけど、被虐思考ではないわけだし。
「協力的だったんだよ。ギフトの友人である当時の王がね」
書物に残して、一部の人間が使えるようにして。
みえてた人間がいたんだろうなあ。
大聖女も生きてたわけだし。
まあ今はそこを言及しても仕方ない、過去の話だ。
「私は、まあ格好いいこと言うと、これだけ苦しむ人がいたなら、せめてこれを最後にしたいんですよね」
だから犠牲者なしの転移が叶えば、正直他のことは些事でしかない。
「我々を責めぬか」
「言いたいことは山程ありますよ?」
言いますか? ときけば、勘弁したいねえと笑われた。
「それでも私の選択をいかそうとしてくれたんですもんね」
「そう捉える事も出来るね」
「話をしに待ってたくせに」
「はて、そんなことを言ったかな?」
話せば選択肢が増えるとか言ってたのは、どこのどなたでしたか、なノリよ。
数話戻る? すぐだよ?
「まあ大方最初は、役割を果たすか果たさないかという極論しかなかったってことでしょう?」
「どうだかねえ」
二つしかなかった。
それが私とサリュが一緒に暮らしたりすることで、サリュが犠牲になって全部やるという選択肢が生まれた。
そして最後、ここにきて私の認識は、全部救える折衷案があるという現実を作った。
「いいですよ。よりよい選択肢が出てきた方がいいわけですし」
ラスボス戦は必要でした、的な。
結局私はサリュが側にいないと嫌という気持ちに落ち着いた。
一緒に生きたい願いを叶えるべく、一番良さそうなものを選んだにすぎない。
まあ、私がよければというのは大前提だし、そのついでに他の意見も叶えれば、一石二鳥とかいうやつになるよね。
でもそれって、ギフトも鍵もいらないじゃん、っていうツッコミいれていいとこだ。
大聖女と他熟練聖女、精霊の内周分の人数と準備してきた力で、次元繋ぎを成し遂げ、転移の際の圧力による犠牲を逃れる。
もうギフトな私という特別な存在を食いにかかってることに間違いない。
主人公、私なんですけど。
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