47話 もう格好つけるのは止めましょう
「自分で決めなよ」
仕様がないから応えておこう。
とんちは無理だから、面白みのない個人的見解の話になる。
「自分で決めればいいよ。感じるでも掴むでもなんでもいい、自分の中でこれってのを決めてれば揺るがないでしょ」
「……エクラらしい」
眉根を寄せて笑う。
そんな難しく返したつもりはないのに。
勝手にしろと言っているのだから。
「ここでの日々がありきたりであればある程、それを求める気持ちが強くなりました」
「じゃあ、それを満喫すればいいじゃん」
「私達の役割には気づいているでしょう?」
「げえ……」
触れてほしくない話題をぶっこむあたり、この真面目は役割に則る気でいる。
私が何気なく避けてきたものだ。
「エクラ、貴方の名は?」
「それもきく?」
「本当の名です」
わかっている癖にわざときくなんて、結構いじわるだよ。
私の名前は事実しかない。
名前の認識は役割の達成を招くというのに。
「エクラ・テオドラプワゾン・ヴェリテ」
神の贈り物と称されたテオドーラと同じ。
そしてプワゾンは毒だ。ギフトという名の毒と同じ。
そんな悪役っぽい名前が入ってるのもなんだから、敢えていつもエクラ・ヴェリテで通していたのに。
大聖女だってその名で呼んでいたのに。
「私は鍵、エクラはギフトですね」
「うん」
「私達の名が示している通り、今回は成功している」
「うん」
御先祖様には毒という名が入ってなかった。
サリュの方に至っては、時間操作の魔法だけが発現して、名前には欠片も鍵がなかった。
あの時は、ギフトとして鍵として、機能する事はなかったし、役割も本人達は知らない。
そこから随分時が経って、今私と彼の間で現れた。
最初の聖女達が時限式でかけた魔法、それがギフトと鍵だ。
「私は私。サリュはサリュでしょ」
「……ええ」
だからこそ、役割を果たす必要はない。
私達は私達の意志で決めることができる。
「どうしたいの?」
ききたくはなかったけど、サリュがこれから何をするかをきかないといけない流れになった。
彼が決めてしまった事だから、揺るがないんだろうけど。
「役割を果たします」
「私はやらないと言っても?」
「エクラの転移と私の時間操作がないと成し得ないのは承知しています」
ならなんでと問えば、やっと全て思い出せたとサリュは応えた。
「エクラの存在が次元を繋げ、エクラの力で転移をさせる」
「サリュの時間操作で、一番最初の時間に戻した上でね」
「かつて空を割って降ってきた者達を元々いた時間と場所にかえすために」
サリュの瘴気に触れたあたりから、本来の役割については、徐々に思い出していた。
ずっと夢見が悪かったのは、そういった思い出す作業が、寝ている時に行われていてから。
それはサリュも同じ。サリュにとって決定的だったのは、魔に飲まれて見えたあたりだろう。
その頃に、私は全てを知り得ていたわけなのだけど。
「今の王族が悪いわけではないでしょ」
「我々が生まれたという事は、直近多くの聖女が死んだ事を示しています。もう知っているでしょう」
「それでも私が了承して、かえってもらう転移をしたら沢山死ぬ」
「ええ、八割は転移の際の圧力で死ぬでしょうな」
現存する王族達は転移に対する抵抗力がない。
次元から次元へ転移するには、それこそ巨大戦艦みたいなのに乗らないと駄目だ。
私達聖女や精霊は元来、そういった魔法に耐性がある。だからこそ魔法が使える。
大陸に生きる王族と血を薄くした一族の人々が多く死んでもかまわない。それがかつての聖女達が決めた事、長年かけて魔法をかけてまでしてやり遂げようとしてる事。
「それ、復讐だよ?」
「結果的にはそうなりましょう。私は……エクラが望む世界を保ちたい」
「私?」
「皆と楽しく暮らしたいのでしょう」
それは最初にきかれた事に対する応えだ。
よく覚えているな。
「あー、確かにそう言ったけどさあ……」
「阻みますか?」
「行ってほしくないもの」
「好きにして下さい。貴方を敵に回す事に躊躇いはありません」
敵になるとか、ヒーローものなら割と王道だし熱いんだけど、そこは避けたい。
むしろ、成すべき使命を阻んでいる私が、サリュにとっての敵というか。
いや待て、んん? 敵?
「あー、そういうこと」
「はい?」
「確かに"まだ"ラスボスでもなんでもなかったって言ったけど、ええ? まさかそうなの?」
そしたら私はあの段階で、こうなると分かっていたということ?
私、なんであの時気付かなかった。
ラスボスは私の精霊でした、なんて、御先祖様すごく喜びそう。
「また訳の分からない事を」
「四話参照」
「はい?」
ついでに六話もご覧下さい、なんてね。
私達聖女が、異能の力を持つ魔女である事は何も最近のことじゃない。
この大陸における王族と呼ばれる一族が、空を割って転移でこの世界に降り立ってから、ずっと私達先住の一族に対してされてきたこと。
所謂、魔女狩り、または虐殺、果ては追放。
「それが全てじゃないのに」
「エクラ」
「サリュは私の考えてること、甘いって言うの?」
「いえ……いいえ」
サリュは分かっている。
なのに離れて行こうとするなんて、やっぱりひどい。
「私の精霊でいてくれないの?」
「それ、は……」
ここにきて卑怯な事を訊いているなとは思った。
それでも訊かずにはいられない。
するとサリュが浅く溜息をついた。
最後だからな、と囁いたのが聞こえた。
「もう格好つけるのは止めましょう」
「え?」
ちらりと月を仰いで、こちらに向き直る瞳に水気が混じった。
それなのに意志の揺らぎはなかった。
「好きです」
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