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43話 ツンとデレが拮抗すると唸る

 片手で私の両眼が覆えるサリュの手の大きさもさながら、だーれだ的なこの所作。

 どうしよう、これは御先祖様ですら経験してないんじゃないの?

 少女漫画ではままあるけども。

 決して世界が闇に包まれる神話の話ではないけども。


「暫く動かないで下さい」

「見るなってこと?」

「……」


 唸る。

 自分からやっといて恥ずかしくなってしまったやつかな? 

 目隠しというこの不機嫌な態度の裏にはきっとデレがある。

 そう悟れるのも日々の訓練の成果に違いないよね。


「ねえ、このままだと仕事出来ない」

「……」


 覆う手に力が少し入る。

 なにせ、きちんと仕事しろと言ってきたのは私の視界を塞いでるこの人なわけで。

 力がさらに入って後ろに傾いた。

 とんとぶつかって止まったのが、彼がいたからなのだとわかる。

 ついでに胸の鼓動でも聞いていこうかな。


「……手紙?」


 机の上の手紙に気づいたらしい。

 そういえばまだ返事してなかったな。

 広げたまま放置してたやつ。


「……この筆跡」


 オンブルでもなければ、大聖女でもない。

 たぶんサリュは初めて見るだろう。


「こちらはどなたからの手紙ですか」


 すっと手が離れた。

 そして何故かその両腕が私を囲うように後ろから伸びて、机の上に置かれる。

 背中には引っ付いてる感覚。

 なんだ、二人羽織でもやりたかったの?

 いやそもそも二人羽織知ってるの?


「見たところ男性の筆跡ですね」

「うん、そうだね」


 見上げてもくっつきすぎてるせいか、サリュの顎しか見えなかった。

 声音は通常運行塩対応のそれだ。

 なんだ、恥ずかしがるデレタイムは終了ですか、残念ですね御先祖様。


「会うのですか」


 手紙には会いたいですーという内容の事が書かれている。

 そうだ、これの返事しなきゃいけなかったな。


「ああ、返事しないとね」

「止めて下さい」

「はい?」


 机に置かれた手紙を手に取り、持っていかれる。

 持つ指先に力が入ったのか、くしゃりと手紙に皺が寄った。


「会う必要はありませんね?」

「え、サリュが決めるの?」

「軽々しく異性に会う事がいかがなものかと申し上げているのです」


 貞淑のお手本みたいなこと言うんだから。


「その人、御先祖様のファンだった人が御先祖様なだけだよ」

「というのは?」

「私に会いたいと言うよりは、御先祖様感を味わいたいだけ」


 言葉にして分かったけど、それもそれでひどい話だ。

 私個人の尊厳どこ的な。

 実際、会いたいのは私ではないのに、会いたいと言ってくるのもすごい。

 まあ相当御先祖様にご執心のお嬢さんが御先祖様だったようなので、そこは仕方ないのか。


「……」


 サリュの嫌そうな雰囲気だけひしひし伝わってくる。

 どうしたの、肩ズンというデレを披露して、その後の急激な不機嫌とは。


「サリュ?」

「……」

「まあ今回は会う気なかったけど……どちらにしても、定期の集まりで顔合わせるよ?」

「その折は私を連れて下さい」

「うん?」


 個別に会うにしても、東の果てにいるから転移が難しい。

 この前の急襲でここまで転移したのが珍しい事で、普段はそうやらないし、定期集会で会えれば満足するだろう程度の仲だ。

 いやそこよりも。

 そこよりも、顎しか見えないこの精霊は何気なくデレているの?


「サリュは次の集まりも一緒に来たいの」

「え?」

「違うの?」

「側付、ですので」

「ふーん」


 自分から一緒に行きたいなんて言ったことなかったから嬉しかったんだよね。

 あれというか、そしたらこの手紙もそういうこと?


「手紙って、私と一緒にいたいから止めてってこと?」

「!」


 あからさまに震えた後、ばばっと物凄い速さで離れた。

 いい匂いさようなら。


「サ」

「動かないで下さい!」


 ええーそれってサリュと目と目を合わせて話せないってこと?

 今猛烈にサリュを見た方がいい気がする。

 萌え的な意味で。私の第六感がそう言ってる。


「見るなってこと?」


 本日二度目の同じ質問に対して、同じ返事が返された。


「ぐ……」


 唸っているなあ。最近唸りすぎじゃない?


「今のは、その、」

「ふふふ、振り向いていいかなー?」

「っ、茶をお持ちします」

「休憩?」

「はい、ですので、そのままで、お待ち下さい!」


 それでも静かに去っていくあたり、しっかりしてるよね。

 障子が開いて閉まったのをきちんと聞いてから振り返る。

 当然サリュはいない。

 障子を開けて頭だけだして見たけど、やっぱりサリュはいなかった。逃げ足速い。


「何してんだ?」

「ルル、あ、ごめん肩ズンしたかったね?」

「いや、それはかまわねえが……えらく楽しそうだな?」

「ふふふ、なかなかだったよ」


 当てっこゲームができなかったので、その場でよしよししてあげた。

 こんなふうにサリュもよしよしできたら最高なのにな。

 目の前で嬉しそうに撫でられるとか。

 なにそれ、想像しただけで尊いわ。


「はあ、いいねえ。日々幸せ」

「なによりだ」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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