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32話 デレを否定してはいけない、これは世界の真理だ

 近いなんてものじゃないゼロ距離だ。

 身体全部引っ付いてる。

 さすがの私も恥ずかしさに心臓爆発しそう。この鼓動の速さにはじけ飛びそうだ。


「主、いないの?」


 早くどこかにいって、フーちゃん、頼むよ!

 というか、この心臓の音がサリュに聞こえてるだろうことの方がやばい。

 恥ずかしすぎて死ねる。

 本日が私エクラの命日です、墓はここに立てて下さい。

 人は恥ずかしくても心臓が止まるという学術発表しないと。


「ふ~ん」


 パタパタ足音が遠ざかっていく。

 ああ、よかった。これでこの状況とさよならできる。


「……」

「……あれ?」


 一向に動く気配がない。

 けどあまりに引っ付いてるから顔もあげられない。

 いや早くどいて胸の鼓動を確かめるのは決してこんな方法じゃないはずだ。


「……」

「サリュ?」


 私の頭上に添えられてた手がゆっくりおりて片方が私の顔の横に肘から先を着く形で添えられた。

 あれ、このゼロ距離って壁ドンの一種?

 知らなかった、壁ドンに可能性がありすぎて震える。

 御先祖様、私まだ訓練が足りないみたいです。


「……」

「あの、サリュ、そろそろ」


 そこにきて急に頭に軽さを感じた。

 落ちてはこないけど間違いなく結ってある髪が解けてしまった。何かに引っ掛かったの?


「エクラ」

「!」


 耳元は反則です!

 いやまあこの距離と態勢なら仕方ないんだけどさ。

 いや離れればいいんだけどね、そうなんだけどね。


「サ、サリュ、離れて」


 サリュがデレてる。

 名前呼びなんて、あっちにいた時にあったっきりだし、この状況なのもあって慣れなくてきっつい。

 てか、ここで?

 デレる必要ある?

 需要が今ここ?


「抱きしめて、みても、いいですか?」

「はひ?!」


 どこをどうなって、この台詞になるわけ?

 デレが色々なとこを突破してるぞ?

 というか、このゼロ距離、抱きしめているに入らないの?

 ゼロ距離で引っ付いてるのはイコール抱きしめているでいいと思うよ!


「エクラ」

「ひょ」


 何も返事してないのに器用に背中に腕回して抱きしめてきた。

 お巡りさーん、いや、この場合犯罪ではないな。

 正直、嫌ではないし。

 だってデレは尊いんだもの。

 そうですよね、御先祖様。

 デレを否定してはいけない、これは世界の真理だ。


「……」

「サ、リュ」


 さて困った。

 デレを否定できない、つまりこのまま抱きしめられてろということ。

 思ってたよりもぎゅぎゅっと力強く抱きしめてくる。

 私の心臓はとっくに限界です。さようなら、心臓。鋼の心臓は手に入らず、てね。


「サリュってば」


 イケメンは存在だけで罪である。

 たぶん今そう言っても許されるよ。

 この仕打ち、おかしくない?

 いや、御先祖様なら神よ感謝しますとか言うのだろうか。

 考えすぎたらぐるぐるして目が回り始めた。これはアウトだやばい。


「……エクラが悪い」

「はあ?!」


 緩められて拘束から解放されたと思ったら、この言葉。私が何をしたというのか。


「サリュ、今の、おお……」


 文句の一つでもくれてやろうと思って見上げて彼を捕らえたら、言葉を失った。

 イケメンが近づいてきた。

 イケメンが降ってきたぞ。

 そのまま、そう擬音でいうなら、こつん。

 こつんとおでことおでこが合わせられた。


「熱は、ないです」

「また妙な事を……」


 呆れられているのに、視界を覆う金の瞳は蕩けている。

 どういうこと?

 何が今起きてる?

 押し込められてゼロ距離体験のち壁ドンのちおでここつん。

 ご、御先祖さまあ! コンボできましたー!


「サリュ」

「はい」

「離れて?」

「……」


 フーちゃんの気配ないでしょ?

 なんでそこで押し黙るのかな?

 それにこの状態での沈黙は中々応えるんだよ。

 私はそこまで訓練されていないので、免疫的なとこで考えるとやっぱり限界値です。


「サリュ」

「そうですね」


 お、同意があった。

 よかった話通じてるじゃんと思ったのに、瞳を緩やかに閉じてそのままだ。

 ゆるーく抱きしめられたまま、おでここつんのまま。

 せめてどっちかからは解放してほしい。

 その前に、前提として自分がイケメンな事を自覚してほしい。

 そうでしょ?

 イケメンがこういうデレをコンボでかましてきたら、世界が沈むんだよ。

 少なくとも尊さに私はついぞ沈んでいる!

 こういう平和が欲しかった、確かに欲しかったけども!


「ねえ、きいてた?」

「はい、聞こえてます」


 デレが過剰すぎるのも問題!

 平和だなと実感できるのも素晴らしい事!

 しかし、こういうことは段階踏んで少しずつオープンにしていこう!

 過剰摂取で沈むから!

 ついぞ叫ぶか? 叫ぶしかない? と追い詰められた所でやっとサリュが身体を離していく。

 ほっとしたのも束の間。


「……失礼します」


 足早に去っていくサリュに何も言えなかった。

 暗がりの中、僅かに光さして照らされたサリュの顔は頬から耳にかけて真っ赤だった。

 デレといて恥ずかしかったって?

 あんな顔して?

 もうあれだよ、ヒロインはサリュなんじゃないの?


「ちょ、反則……」


 可愛い顔してなんなの。

 ただでさえ恥ずかしいのに、サリュの顔見てさらに恥ずかしくなった。

 しばらく私は蔵の奥で座り込むことになったのは言うまでもない。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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