31話 蔵整理で心臓爆発
「やっば、この場所平和すぎる」
「そーだねー、仕事終わるのも早いし」
「でしょ? 魔ほぼ出ないし」
新しい任地は東の果てだ。
魔があまり出ないと聞いていた地域だったけど、その通りだった。
私が養生するには丁度よかったけど。
転移に治癒に新しい結界にと怒涛に過ごしていたら、割と身体は限界だったっていうね。
のんびりするのがぴったりでした的な。
「そしたら蔵の整理でもしようかな」
「ああ、あのよくわからない小屋?」
「そうそう。前の人の荷物もあるみたいだから、整理してオンブルに渡そうと思って」
基本的に聖女の役目を終えたら、その持ち物はサンクチュエールへ戻される。
破棄をするのかリサイクルするのかはわからないけど。
今回は使えるものは使わせてもらう方向でお願いして了承を得ている。
なにせ全部置いてきたし、追って対応した聖女が屋敷に着いた頃には全部燃えていたとか。
ある種燃えてよかったと思う。
変形ロボを目の当たりにするわけだからね。あれ見たら吃驚でしょ。わかる人ならいいんだけど。
「手伝う?」
「いや、一人でのんびりやる。ありがとね」
「オッケー」
シュリはシュリでやることがある。
畑のことはルルと、家のことはメゾンと、各部屋のことはヴァンと一緒に仕切ってもらってるから、割とハードなのは知っている。
私が寝るメインだった数日はサリュと一緒に立て直しとかしてもらってたからな。
今度ご褒美あげよ。勿論皆にも。
「じゃ、何かあったら呼んで」
「わかった」
というわけで、本日は蔵整理に決定。
「中々ありがちな蔵だねえ」
開かずのなんとかとか出てくるんじゃないの?
さておき、暗めの中はややかび臭く、割と物が詰まっている。
掃除しがいがあるわ。
この地域に居を構えるに至って、服装もそれらしいのがほしいとオンブルにお願いして用意してもらったけど、この掃除用スタイル、絶対御先祖様好きな奴。
御先祖様、私やりましたよ、萌えスタイル! 和装です!
「どれ」
さておき日が出ている内がチャンスだ。
とは言いつつも、中々の値打ち物も出てきて震えた。
前任者は地域関係なく揃えていたらしい。
使えそうな物もたくさんあって助かった。
食器で値打ちありすぎるやつ以外は使わせてもらおう。
「主?」
「ん?」
開けっ放しだった分厚い扉の向こうに一人、不思議そうにこちらを覗いたのはサリュだ。
「何を」
「蔵の整理だよー。一部はオンブル回収になるね」
「手伝いを」
相変わらず真面目なことで。
ゆっくり蔵の中へ入ってくる。
歩く度に首元のブルートパーズが揺れる。
気に入ってつけてくれるのが何気なく嬉しいけど、それを言うとこのツンデレは外しかねないから言わないでいる。
「大丈夫だよ。もうすぐ終わるし、サリュは皆と訓練タイムでしょ」
「ええ、ですが」
「訓練は大事だよ。続けてて」
というか、彼の指導があったからこそ、あの日どうにかなった節もある。日々の積み重ねは大事。
「!」
「どうしたの?」
ばっと振り返り、蔵の外を見た。
彼を挟んで外を見るけど、何もない。
「主」
「え、なに」
急に私の肩に手を置いて、ぐいぐい奥へ押しやっていく。なに、なんなの。
「今、追いかけっこをしていて」
「はい?」
追いかけっことは、あの追いかけっこでいいの?
訓練とか指導という堅苦しいものが、急にきゃっきゃうふふした可愛らしいものに変わる。
まさかサリュの事だから遊んでないとは思うけど。
そんな私の言いたい事を悟ったのか、真面目な顔をして応えてくれた。
「気配を消す事と追跡の練習です」
「あ、さいですか」
どうやら見つける役つまり鬼役のフーちゃんの気配が近いことを感じたらしく、隠れてやり過ごしたいらしい。
蔵の扉から見えない位置まで押しやられ、物をどかした隙間に詰められた。
私は収納出来る物品じゃないぞ。
「主、気配を消して下さい」
「う、うん」
いやいやいや、気配云々その前にこの状況なんなの。
私を押し込めたら、そこにサリュが覆いかぶさってきた。
近すぎ。
すごくいい匂いするし。
「ちょっと」
「主、動かないで下さい」
「いや、何もここまで」
「っ」
触りどころが悪かったらしく、サリュの身体がびくっと震えた。
うわあああすごく悪い事してるみたいじゃんか。
これは! 断じて! セクハラではない!
お巡りさん、私じゃないです、最初にやってきたのはこっちです。
「主」
「ひえ」
「気配を、消して下さい」
耳元で囁かないでよ。
近すぎる距離に恥ずかしくて、かっと顔に血が登る。
けど、そこで私にもわかる足音が聞こえた。
ええい心頭滅却すれば火もまた涼しだ、頑張れ私、心を無にするのです。
「……」
すっと気配を消す。
聖女舐めんな。気配を消すことはお手の物だ。
見習い期間にも師匠から学んだし、見習い後に大聖女の元でもやった。
抜かりはない。
「……あれ、主?」
入る光に影がさしてフーちゃんの声が聞こえた。
私がいたであろう痕跡はあるから、小首を傾けてそう。可愛いだろうな、見たい。
「……」
「……」
フーちゃんが留まってる、この僅かな時間がすごく長く感じる。
てかもう、これはいけない。
そもそも壁ドンに姫抱っこを経験したけど、ここまで近いのはなかったのに。
心臓爆発しそう。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。




