27話 おかえり
「じゃあラスト気張ってみますか」
転移の魔法陣、光る輪の中、大地に両手をついた。こうなれば全大陸探るしかない。
サリュはまだ繋がってる。消えてはいない。
「……」
しばらくすれば僅かな繋がりが感じられた。
これを辿ればいい。
「!」
おっと、途中何かに遮断された。
これが原因でさっきは見つからなかったの。
ここだ、ここをさらに深く探す。
私の精霊皆との繋がり、私との繋がり、そして私の力が入ったブルートパーズ。
「いた」
ああ、そう。見つからないわけだ。
「エクラ?」
「サリュはまだ屋敷にいる」
その言葉に驚きの声が周囲からあがる。
それもそうだ、連れていったはずなのに、一人結界内に留まっていたなんて。
簡単に見つからなかったのは、大聖女があの区画を封鎖したから。
あっちの結界を消さなかった事と皆の力に加え、この場所から探したのが功を奏した。
この地域は引退する聖女が余生を過ごす事が多い。
それはこの地が存在だけで結界にいるかのような力を持った土地だからだ。
まさか土地の恩恵まで受けることになるなんてね。
めっちゃ運いいじゃん、私。
「やっぱり」
「シュリ?」
シュリが知っていたかのように頷いている。
最後に少し見えたとシュリは言った。
「あの時、後ろに下がった気がしたんだよね」
「それ、って」
意図的に残ったってこと?
残る意味ある?
「エクラの事が嫌になってとかはまずないけどさ、残った意味がわからないよねー」
「……」
そうだ、あの時サリュは私に感謝の言葉をくれた。
私が嫌なら無言で残ればいい。
わざわざ声をかけて、感謝の言葉まであったという事は、少なくとも嫌いという感情はないはず。
いくら彼が律儀で真面目でも、嫌いな相手の為に別れ際感謝する必要なんてないのだから。
それに彼が私を嫌っているとは思えなかった。
シュリが言うからじゃない。
今までの時間と瘴気を浄化する為に彼に触れた時、そういった感情は感じなかったから。
「エクラ?」
「……」
まさか、死に場所でも選んだ?
そんなんだったら許さない。
自殺志願は卒業したと勝手に思っているけど、そうじゃなかったらもう一発殴るぞ。
それこそ根性叩き直しが必要。
「どうする?」
「……」
より深く見れば、その姿と状況に、悲鳴をあげそうになった。
出血多量で立てない挙句、傷だらけ。いや、傷どころじゃない。
左腕なんて使い物になっていないし、片足も折れて潰されているし。
このままだと他の聖女が周囲を浄化して結界内に到達するより先に、サリュが消えてしまう可能性の方が高い。
端的に言うなら危険な状況。
「エクラ」
彼が自分で決めて残ったというのは、おそらく真実だろう。
なら本人の意志を尊重すべき?
「連れ帰る」
やっぱりだめ。このまま彼の意志を尊重とか格好いいこと言ってられない。
気持ちなんて、サリュにしか分からないし。
今の私の堂々巡りは推測してるだけ。
それなら、私のしたい方を選ぼう。その方が私らしい。
そう、選択肢は一つ。
「サリュを助ける」
「サリュが嫌がっても?」
「うん。理由は戻ったらきく。納得出来れば好きにさせるし、場合によっては自由にしてあげればいい」
私の精霊という立場から解放して。
その別れに耐えられるか分からないけど、今やる事は彼を取り戻すことだ。
このままサリュを放っておけば後悔する。それは感覚で分かる。
初志貫徹、有言実行しよう。
私はあの屋敷を離れると決めた時、皆一緒にと言ったんだ。
「あの時も連れていくと決めた。今回も同じ」
「そう」
「他は後で考えるよ」
迷うのはガラじゃない。
やると決めたら貫き通す。
文句言われたってかまいはしない。
「サリュ」
繋がりからサリュを見つけ、ここまで見えていれば、後は簡単だ。
私の呼びかけは彼に届く。
それに応えてもらえば、そのまま引っ張って、こちら側に連れて来る事が出来る。
サリュさえ拒まなければ。
「サリュ、手を」
見えているのかいないのか、霞んだ瞳のままぼんやりしていたサリュが、ゆっくりと手をあげた。
転移の魔法陣の中、ずぶりと大地に手が沈む。
お願いだからこのまま手をとってと切に願った。
「!」
手をとった。
そのまま引きずり上げるようなイメージでこちらに連れてくる。
よかった、払われる事がなかった。
ゆっくりと彼が現れる。
光と共に、湖面から跳ねるように。
「う……」
現れたサリュに周囲が腰を上げるも、シュリが腕を上げて制した。
サリュは立とうとするも、両膝をつく。
そのままぐらりと身体を傾かせた。
「サリュ」
膝で立って倒れてくる彼の両脇に腕を通し、そのまま背中に回して抱き留めた。
そこで彼はやっと、自分が連れて来られた事を知ったらしい。
嘘だ、という掠れた声が耳元で囁かれた。
思わず抱く手に力をこめた。
びくりと彼の肩が鳴る。
言うべき台詞は一つだけだ。
「おかえり」
「……!」
声にならないものが聞こえた。
迷いを見せた末、彼は動く片腕を震わせながら、私の肩にそれを回して肩口に額を押し付けた。
「只今……戻りました……」
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