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23話 弩級のデレ、壁ドン

 終わったら用はないと言わんばかりに、サンルームに戻って屋敷の中に入っていく。

 こう、もっと余韻ほしい。デレ的な意味で。


「早く寝て、いい夢でもご覧なさい」

「夢ねえ」

「よく見るのでしょう?」

「まあね」


 まあその夢も最近クリアで、そしてある種の予感という確信にたどり着こうとしつつある。

 きっかけはサリュの瘴気をとりこんだあたり、そして大聖女と顔を合わせて加速。

 タイミングを考えれば、自ずと察することができてしまう。


「サリュはどう? いい夢見てる?」

「そうですね。割と」

「楽しい夢?」

「楽しい、でしょうか」

「え、疑問系?」


 サリュ曰く、空を飛んで楽しい思いをしたこともあれば、ひたすら痛め付けられる散々な夢もあるらしい。

 夢を明晰するに、空を飛ぶ夢も痛め付けられる夢も内容によるけど、どちらにしたって心理状況を反映している可能性がある。

 てかもしかして色々追い詰められてる? 瘴気浄化したけど心配になってきた。


「ちょ、悩み事あるなら言って? 聴くから!」

「いきなり何を仰っているのですか」

「え、違うの? 今からやっぱり飲もう? 私の部屋来る?」

「何を仰っているのです」


 眉間に皺寄った。なんでだ、純粋に心配してるのに!


「サリュの部屋でもいいよ! 悩み相談は早めにしよう!」

「結構です」

「本当? 何か悩んでるんでしょ? 話そう? ね?」

「主」


 屋敷の廊下をゆっくり進んでいたサリュが歩みを止めて、私の方に身体を向ける。

 すいっと片手が私の顔の傍を通った。たどり着くのは廊下の壁。

 やや不機嫌を呈したサリュが私を見下ろした。


「結構だと申し上げています」

「う、うん」

「それに夜分、異性の部屋に行こう等と気軽に言うものではありません」

「ご、ごめん」


 あいているもう片方の手が、私のもう片方の顔の横を通る。

 おっと、これは知っているぞ。御先祖様イチ押しのやつ。


「これが壁ドン」

「は?」

「いえ、なんでもありません」


 はあと大きく溜息をつかれる。

 イケメンが近い。

 これが壁ドゥン……癒しの一形態。

 凄いです、御先祖様。ガチで近いです。


「大聖女様が危機感がないと仰っていましたが、本当にそのようですね」

「え? ごめん、ね?」

「わかっていませんね?」


 囲っていた両腕の片手が壁から離れる。

 何かと思ったら、ぱさりと髪の毛が肩にかかる感触。

 結っている髪の毛を解かれた。挙句、私より大きな手が髪の間を通る独特の感触。

 ほどかれて梳かれていると気づく。

 他人にいじられるのが、こんなにもぞ痒いなんて。

 なにこれ。


「ん?!」


 なんだ、どうした。

 デレ?

 デレだよね、うん。

 今まで触る事すらなく、側付で近い距離にいた時だって、ある程度距離があるように感じられた、あのサリュがほぼゼロ距離で、しかも触っている?

 だってサリュは……直接聞いてはいないけど、恐らく師匠にパラの代替で恋人の役割を背負わされていたはずだ。

 それがトラウマとして残ってしまっていたからこその今までの距離感だと思っていたし、トラウマが残っていれば増々異性に触れるなんて受け付けないんじゃないの。違うの?


「ほら、こんなに無防備で」


 その言葉尻に唸るような不服さがあった。


「え、サリュ、怒ってる?」

「怒る? そうですね、主の軽薄さに怒っているのでしょう?」


 疑問系?

 指先に絡ませては外しを繰り返してる。

 なんだ、このイケメン。

 怒ってるのに壁ドンする意味がわからない。

 壁ドンって奥深いんですね、御先祖様。私、訓練がまだ足りないみたいです。


「私が異性で、夜分で、二人きり。いくら聖女と精霊とはいえ、少しは警戒して頂きたい」

「……はい」


 ひとまず肯定しておこう。

 サリュの事は信頼してるから大丈夫って言いたいけど、怒っているから一先ず頷いておくしかない。


「では」


 と、背後の壁が動いた。

 なんてことはない、気づいたら自分の部屋の前で、かつ壁だと思ってたけど、それは実際ドアの前で壁ドンされてただけだった。

 サリュがドアを開けて、私は後ろに身体が傾いたけど、するりとサリュの腕が背中に回された。

 転ばないように支えたまま、背後で完全にドアが開いたのがわかる。


「これからは気をつけるように」

「ひえ」


 耳元にイケボは反則ですね、すごい。

 背中に回されていた手が肩にかかり、とんと軽く押されれば、そのまま部屋の中に足を踏み入れる。

 後ろ歩きで数歩歩いても転ぶことない程度の力で押してくるあたり、かなり気を遣われている事が窺えた。

 そして当然のことながら、サリュが足を踏み入れる事はない。


「サリュ」

「失礼します」


 有無を言わせない強さに思わず頷く。


「う、うん。お休み?」

「はい」


 ドアノブに手をかけて、少し閉めた所で動きが止まる。

 本当に小さく最後の一言が紡がれた。


「……お休みなさい、エクラ」

「え」


 待って、と言う前にドアが閉じられる。

 月明かりで僅かに照らされた中、はっきり見えたサリュの表情ときたら。

 頬を赤く染め、目を細めながら微笑んで。

 気に入っている金の瞳は溶けていた。

 鮮烈だった。


「デレすご」


 名前まで呼んで。

 これは弩級のデレだ。すごいのきたよ、御先祖様。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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