20話 討伐遠征前のアイテムプレゼント
「じゃあ遠征は、サリュとシュリとオールとフルールでいこっかな」
「てか、あんまり範囲広くないじゃん。こんなんでいいわけ?」
きっつって思えるぐらいの業務量だと思っていたらしいシュリが、訝しんだ様子で書類を熟読している。
遠征に行ってもらう子達に指令書は見せておこうと思って呼び出したら早速のツッコミだよ。
ありがとう、私もそう思ってた。
「オンブルからの連絡はその範囲だから間違いないよ」
「これで他の聖女が納得するのか?」
「オール、そのへんは気にしなくていいよ」
大聖女様達の言う沿岸における魔討伐の内容は大したものではなかった。
範囲も小幅、討伐数も少ない。
情報は他聖女達にもいくだろうけど、詳細は分からないようにするのかな。
いや、それじゃ納得しないだろうから詳細伝わりそうなのに。
よくわからないな、謎。
「そうだ。丁度出来上がったんだ」
「どうした?」
「皆にプレゼントがあるんだよ。シュリ、皆を集めて」
「オッケー」
執務室から階下の食堂へ移動、手早く皆を集めてくれたので、早速一人ずつプレゼントを渡す事にした。
「じゃじゃーん」
「青い石?」
「わあ、やったー!」
フーちゃんはすぐに察して大喜び。
さすが今時女子、センサー過敏だね。
「全員御揃いのアクセサリーです、はーと」
反応薄いのもいるけど気にしない。
はーとじゃなくてほしの方がよかったかな。
「一人ずつ違うんだな?」
「うん。御揃いなのはブルトパーズっていう石だよ」
「綺麗なもんだな」
「目利きなら任せてドヤァ」
私のドヤ顔はスルーしつつ、皆それぞれ合わせたり見比べたりしている。ひどい。
ネックレスだったり、ピアスやイヤーカフだったり、髪留めにしたり以下略と多岐に渡って作ってみた。
忙しい中こっそり時間とって作るのは中々のハードワークだったけど正直燃えた。こういうことするの好きなんだよねえ。
「エキュ」
「フォンちゃんはブローチだよ~、つけてあげるね~」
あーもー幼女かーわーいーいー。
ちなみにトレゾールは新しい首輪なので、こちらもつけてあげる。
つけてあげたら、わふんと一吠え。絶対わかってるぞ、このわんこ。頭よすぎか。小首まで傾げおってけしからん可愛い。
「ちなみにそれ、回復アイテム及び強化アイテムとしてご利用頂けます」
「はい?」
「エクラ、わかるように説明して」
分かってるのシュリだけだった。
やっぱり言語の相違は中々解消されたものじゃない。
サリュなんて通常運行塩対応の顔つきだし。
「私の力をこめたから、その石に願えば多少の傷ならすぐ治るし、皆の力を倍増出来たりする」
へーだのすごーいだの声が飛び交う。
こうして喜ばれると素直に嬉しい。
任せて、聖女の力って応用きく優れものなもので。
ゲームにおける付属アイテム的な。あれだ、運とかあがるやつ。
「有難う御座います、主人」
「とっても嬉しいよ、主! 好き!」
私も好き!
可愛い子ちゃんたちとハグしながらきゃっきゃして、癒しチャージする。
はあもう最高かよ。私ずっとこのままでいたい。
「じゃ、とっとと遠征終わらせよっか?」
「あ、そうだったね」
「……」
「サリュ?」
じっと渡されたネックレスを掌に乗せたまま、ぼんやり見つめるだけのサリュ。
あれか、もっと見た目青年に合うアクセサリーがよかったのかな?
声をかけ覗きこめば、そこでやっと気づいたサリュは何かと短く応えた。
「そろそろ行ける?」
「はい、問題ありません」
「無理はだめだよ」
「承知しております」
移動はオンブル経由で大聖女から頂いた転送用の魔法陣が描かれた紙二枚。
一つは行き、一つは帰り。
基本的に屋敷から海岸線までの距離しか守る事のない私達が、こうしたちょっと変わった仕事の時に大聖女の力を借りるわけだ。まさに大聖女様々。
にしても私の特異能力である転移がこうも簡単に師匠や大聖女達が使っていると特別感ないよね。
それでも私の使う転移の魔法は特殊らしいのだけど。
見習い卒業する時に大聖女が言っていた。あれは確か私に緊張感がどうこう言ってた大聖女だったかな。
「ま、そのへんはさておき」
「また余計な妄想してたの」
「違うよシュリ」
これは考察だよ、たぶん。
「事前情報だけなら、一日かからないかもねー」
「夕飯までに帰ってくる希望」
「はは、それは格好良く帰ってこないといけないな」
「これがあるなら大丈夫だろう」
最後にオールが見せるブルトパーズ。
陰キャのオールがこんなにお気に召してくれるなんて聖女冥利に尽きるってもんよ。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
嫌な予感はしなかった。
大聖女様も死にはしないと言っていたから、窮地に陥る事はないだろう。
にしてもあの予言はなしだ。気になる事は気になるし。
「それは置いといて、仕事でもしますかあ」
「いい傾向です、主人。書類が少し溜まり気味ときいています」
「げえ、どこでそれ知ったの」
「サリュークレさんの引継ぎで」
「ぐう」
真面目同士が結束して私を囲おうとしている。
久しぶりに側付がサリュじゃなくなって、大聖女とのご対面もそんなハラスメントじゃなかったから、少しはまったりしてもいいかな、なんて思ってたのに。
「サリュークレさんからはくれぐれも宜しくと」
「結託しないで!」
「では遠征終了まで、主人らしくお手本のように仕事を終わらせましょう」
「鬼!」
これが死なない程度の試練なのですか、大聖女様。遠い目しちゃう。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
補足
水→サリュークレ、ペンダント
土→シュリエ、イヤカフ
鉱物→トレゾール、首輪
火→フー、髪留め
金→オール、ブレスレット
風→ヴァン、カラーピン
花→フルール、アンクレット
家→メゾン、アームバンド
光→リュミエール、ピアス
闇→フォンセ、ブローチ




