17話 皆さん、ご覧ください。これがデレです。
シュリが届けてくれた招集の旨が書かれた書類には通例通りの日時がある。
その中で、私にだけ要望というか命令されている事項。
「げえ」
「いつもの集まりでしょ?」
「そうなんだけどね」
そこにはサリュを連れた上で大聖女に謁見という、なかなかのハラスメントが起こりそうな内容が描かれていた。
それをそのまま読んでサリュの様子を伺うとさらっと言ってのけた。
「構いません」
「え?」
「共に参ります」
サリュの言葉に抑揚はなく、表情もなかったけど、強張りといったものはない。
本当に? これ上司に呼び出されて勝手な行動は社内の統制が乱れる云々的な事言われるやつだよ?
もう一度確認しても、サリュは行くの一点張り。
こやつ、ドMじゃないだろうな……。
* * *
招集日。
「はああああ面倒……」
「断ればよかったじゃん」
「まあそうなんだけどさあ」
年に数えるほどだけど、聖女達が集まる場がある。
そこで情報交換したり、私のように師匠に会ったり、はては手合わせして精霊の力の高めることをしてみたり、まあ色々だ。
場所の名はサンクチュエール、王都から離れ、かつどの聖女外周拠点とも離れている隠れた場所。
一定の場所までなら、大聖女側が用意した転移の魔法陣が描かれた紙を持って到達できる。そこから少しだけ徒歩だ。
「絡まれてもいいように俺らもいるわけだしな。安心してくれ」
「フルール男前だね、格好いいよー!」
「そう言われると、やる気になるな」
連れて来たのは我が家の半分、サリュは当然のことながら、シュリ、フルール、フー、ヴァンという招集に何度か連れてきてる慣れてる所と何言わなくても冷静に対処してくれるしっかり所、加えてレベルが高い子順で選んだ。
心配性な皆ともきちんと話し合ったし。屋敷もあけるわけにはいかないから、半分残ったわけなんだけど。
「ほら、そうこうしている内に着いたよ~?」
敷地境界に来てしまった。
ふむ、ここから先は逃げようがないな。
「オッケー、フーちゃん。その前に私を癒して」
「任せて!」
はい、ぎゅぎゅっとハグ。
いい匂いするなあ。デートの時にコスメ的なものも買ってるからか、この子の女子力半端ない。
「さて、行きますか」
予想通りとはこのこと。
聖女って引きこもりの如く、それぞれの屋敷に隔離されているのに、なぜか情報は早い。
聖女達がこちらを見つつ、ひそひそしている。
あー、御先祖様も何度が経験してたね。
勿論、ここでの選択肢は御先祖様と一緒。堂々と行くよ!
「……」
サリュは変わらず無表情。
まだ瘴気は消えていないから、片目が黒いとか、滲み出て見えてしまうのは端から見れば明らか。
好奇の視線を向けられ、いい思いはしない。
あまつさえ、独りでいるだけで瘴気が増えた過去もあるから、心配まではいかないけど気にはなってしまう。
「主」
「なに」
目線は進む方向を見据えたまま、なんてことない顔をして、会話を続けた。
聞こえているのは私と彼だけというぐらいの囁き。
「私は問題ありません」
「……そう」
気を遣ってもらったのか。強がりには見えない。
どちらにしろ、過度に彼を気にするなということだろう。
確かに私が彼だけを気にしていたら、周囲は敏感にそれを感じとる。
御先祖様も自然体だったし、そこは見習うことにしよう。
「よく出来た子よ」
「見てくれだけで言うなら、私は主より年上ですが」
「え、なに、敬語使え的な? 年功序列? ガタガタしちゃう」
「そこまで申しておりません。子という表現はいがなものかと」
「なにそれ、可愛い」
「……もういいです」
呆れられた。がっかりだよ!
僕はもう子供じゃない、一人の男だから的な意味だよね? え、それ告白?
年齢指定ものなら、そのままアーッな展開だよね?
「エクラ、サリュが可哀相だからやめてあげて」
「え、シュリ、私声に出てた?」
「出てないけど、顔はひどい」
「言わないでよ」
緊張感ないとはよく言われるけど。
こういう所作やら言動やらのおかげで、聖女の中でも不思議そうに見られることもよくある。
私の御先祖様の関係者がそちらの御先祖様だったって聖女とは仲良くやれてるけど。
「エクラ」
「ん?」
最初は一番大きな広場にとは言われていたけど、すぐに大聖女の側付が現れた。
なるほど、何か発表があるのか。
「皆様にご報告を申し上げます。
『見習いが一定数以上正式な聖女に上がったことに加え、昨今の魔の増加を鑑み、外周を二重にする。これはアトランティッド王陛下の勅命である。』
以上です。詳細はおって監視者より報告があがりますので、そちらで確認をお願い致します」
「へえ」
外周を二重にする。つまり外側がやられても内側で堪えればいいという考えかな。
まあ見習い卒業生が慣らしで内側に待機して、少しずつ実践を積ませるというのも含まれているのだろうけど。
最近は魔の数が増えているとはいえ、即時対処出来ているから、現状維持と言っても過言ではないし、そこまで危惧するものではなかったはず。
事実、私の本拠地周辺沿岸は数が少なくなってきていた。
「ん?」
「主、いかがしました」
「なんか引っかかる」
「王陛下の勅命がですか?」
「うん」
不思議そうに見下ろしてくるサリュの視線に少しだけ心配の色合いがあった。
何が心配なのかは分からないけど、ひとまず笑っておく。
「心配?」
「いえ、そういうわけではなく」
「大丈夫。最近魔も大人しいし、サリュはチートだし、皆訓練して強くなってるし」
「違います。私が心配なのは主です」
「え、私?」
「!」
おっと、しまったって顔した。
「いえ、私は、ただ、聖女の嫌な予感というのは、侮れないと思っただけです」
普段丁寧に流暢に話すのに、こんなにどもっちゃって。
少し目元も赤くなったあたり、照れている。
つまり、私が心配だと言うのはディスりでもなんでもなく、純粋な私の身の危険に対する気持ちだ。
皆さん、ご覧ください。これがデレです。
「エクラ」
「ん?」
癒されてる最中、声かけられ振り向くと見慣れた人物が待っていた。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。




