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16話 晩酌(側付就任祝い)

「ねえ、サリュ」

「はい」

「一緒にお酒飲まない?」

「はい?」


 夕餉前、日が傾いて夜が近いところで誘ってみた。


「勿論ご飯後に」

「夕餉の時間に飲めばよろしいかと」


 今日もばっさり、ありがとう。鍛えられるねえ。


「うわああ違うんだよ、サリュと二人で飲みたいんだよー」

「夜分に? 二人で?」


 身持ちかたいなあ、あからさまな不快感を現して。


「貞操観念の話は置いといてね」

「……」

「大丈夫、何もしないよ!」

「そういう問題ではないでしょう」


 盛大な溜息が漏れるけど、ここで引いてはいけない。


「一緒に飲みたい」

「……」

「晩酌したい」

「……」

「お酒……お酒ええ」

「…………分かりました」

「やった!」


 粘り勝ちです、御先祖さまー!

 脳内ガッツポーズしながら、飲む場所はサンルームを提案。

 彼の貞操観念云々的なことを考え、どこかの部屋は却下、星空を眺めながらというロマンチックなシチュエーションを選択。

 これならデレもあることだろう。


* * *


「お、早いね」

「そんなに飲むのですか」

「うん、余裕でしょ」


 サンルーム手前でサリュと合流した。

 私が持ってきた数を見て、軽く驚きつつも何も言わずにほとんどを奪っていった。

 我が家の精霊の癖が移ってきたな。過保護モード的な。

 強化すればいくらでも持てるんだけど。


「いつこんなに買って」

「前にサリュと出た時に配送でね」


 あの日、気づいてなかったようだった。

 まあサリュがお店の人とああでこうでやり合ってる間にこっそりお酒発注してたからね。


「ここのワインは美味しいよ」

「無駄遣い……」

「やめてよ! お酒は必要急務の飲料だよ! ないとダメになっちゃう!」

「中毒者みたいな発言はお止めなさい」


 アル中じゃないし。

 きちんと節度を持って飲んでます、キリッ。

 しかも酔っ払ったこともない。きちんと線引き出来てるし。


「お酒美味しいじゃん?」

「嗜む程度がよろしいかと」


 違う、お小言もらうために誘ったんじゃない。

 いいですね、是非と言われる為に誘ったのに。


「で? 飲むの?」

「……頂きましょう」


 渋々感あるけど、よしとしよう。

 グラスのワインを一口飲めば、はたと目を見張った。

 どうだ、美味しいどころ用意してあるんだからな。


「美味しいでしょ?」

「ええ、驚きました」


 素直!

 お酒の力は偉大だ、ツンデレのツンが和らいだぞ。


「好きなだけ飲んでいいよー」

「程々にします」

「ぶれないね!」


 と言いつつも割といける口だな。

 ペースはそこまで速くないけど、抵抗なくがぶがぶいってる感。

 師匠は私よりも酒好きで、師匠んとこの精霊は軒並みお酒強かったし、例外なくサリュもお酒がいける口なんだろう。


「いかがしました」


 じっと見ていたことが疑問だったらしいサリュはゆっくりこちらに目線を寄越した。


「うん、側付頑張ってくれてるなーって」

「それでお酒を?」

「今回は側付就任祝いだね」

「はあ」


 うちは側付デビューしたら、私と二人でおめでとう会している。

 勿論ちびっ子達はジュースだったけどね!


「うちは割とイベント多いかも」

「いべんと?」

「あ、魔の倒した数、最初の十体超えたら、ご褒美プレゼントです」

「褒美とは?」

「好きな物一つ買ってあげたり、こうして晩酌したり、デートしたりがあったかな」


 そうですか、と小さく返された。

 あまり興味ないですか、そうですか。

 サリュにはあのチート的一撃を披露してくれた時以来、魔の対応は二回しかしていない。

 いずれもこの屋敷からの遠隔で済んでしまったけど。チートすごすぎ。


「そういえば、最近よく夢見るんだよねえ」

「夢、ですか」


 なんてことない話題に変えてみても、サリュは応えてくれる。

 お酒のおかげなのか、ただ単純に興味があるのか分からないけど、会話ばっさりいかないのは助かる話だ。


「うん、サリュは見ないの?」

「…………そういえば」


 ここに来てから、よく見るようになったかもしれないと顎に手を添える。

 睡眠の質大丈夫かな。

 深夜に庭に出ていた姿を思い出す。


「まさか眠れてない?」

「いいえ、逆です。ここ最近はよく眠れているんです」

「お、よかった」


 夢を覚えているかという話を振ってみると、意外や彼は素直に曖昧だと応える。

 なんだか今一番雑談がうまいこと成功してるぞ、すごいわ私。


「主が私に対しておかしな言動をしていた気もするのですが」

「まじか」

「けれど、私自身が女性だった気もしますし、おかしな夢が多いのです」

「サリュが女の子になったら美女すぎて失神する」

「もう少し言葉を選んで下さい」


 ごめんと軽く謝っておく。

 特段気まずさはないまま、ふと会話が落ちついた所に、ぽつりとサリュが口を開いた。


「ここに来てからですが」

「うん」

「私の根性を叩き直すと豪語したにも関わらず、特段何もないのですが」

「あ、あー、そうだねー」


 忘れていたよ。

 そもそも、あれわざと煽ってたもので、彼の本心でもないのに、何を正せばよいのか。せいぜい自殺志願を取り消してもらうしかない?


「何かしてほしいの?」

「いえ、そういうわけでは」

「それなら、日々楽しくすごせばいいよ」

「え?」

「まあしいて言うなら、生きてるって最高って思ってもらうことと、感謝できることかな」

「それだけですか?」

「大事な事だよ」

「そうですか」


 ぬるいと言うならぬるいと言えばいい。

 彼の自殺志願という根性を、生きてるって幸せに変えられるなら、それはもう叩き直したと言ってもいいはず。


「変わった事を言いますね」

「よく言われる」

「私に構っても利がありませんよ」

「利とかどうでもいいよ」

「主らしい」


 微笑むと本当イケメンだなと実感する。

 よかったデレがあって。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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