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15話 デートみたいとか言いたかった

 精霊が主や主人と呼ぶということは、その聖女を聖女として認めてくれた事に他ならない。

 事実サリュはずっと私の事を貴方と呼んでいた。名前で呼んでくれることもなかった。

 つまり、さっきの主と言う言葉は途轍もない大きな言葉となったという事。

 私を認めてくれたという事。

 二度もそう呼んだわけだし。

 そうか、これが御先祖様が言っていた、大事な事なので二回以下略なのか。


「ふふふ」

「買い出しがそんなに楽しみだったのですか」

「サリュと一緒に出かけられるのが楽しみなんだよ」

「……軽薄ですね」

「サリュが身持ち堅すぎなんだよ」


 見上げればこちらを見下ろしていたのだろうサリュが、ふいと顔を反らした。

 おや、これはあれか、照れ隠しとかいうやつなんじゃないの?

 サリュに私と一緒はどうかときくと、仕事なのでと一蹴された。

 デレは主呼びだけなの。

 二人きりなんだから恥ずかしがらずにデレを見せていいのよ。


「サリュは買い出し来たことある?」

「数える程ですが」


 師匠のとこは勝手に食料補充されてたな。まさにお姫様よ。

 買い出し場所はエリアごとに決まっていて、聖女側が用意した市場と人員で構成されている。

 私達はどこまでも大陸の人々と係わる機会がないのはなかなか残念なことだ。


「あ」

「いかがしました?」

「待ってて」


 市場に入ってすぐのとこで適当に飲み物買って戻りサリュに渡す。

 するとサリュは成程と呟いて飲み物を手にした。


「これが、皆さんの言う無駄遣い」

「やめてよ! 自分のお金だし!」


 わざとそんな言い方したな。


「では、注視しながら買い物をしましょう」

「むむむ」


 もしや完全に二人きりになることによって、私をいびり倒す気じゃないの。

 なんてことだ、デレはどこにあるのか。


「まあいいや、早速お肉買おう、お肉」

「はあ」


 しかしここで妨害が入る。

 サリュってば、買おうとすると高いだのまけろだの、あっちの店が安いだの、それは余計な買い物だの、それはもう口出しが多い。

 私が優しさで少し残したメゾンの欲しがる物品は全部却下された。裕福な師匠のとこにいたのにお金に厳しいってどういうこと。


「お姑さん、厳しい」

「何か?」

「ナンデモアリマセン」

「……いいでしょう。思っていたより早くに終わりましたね」


 そりゃサリュの手腕にかかればね。

 他の子と行っても、ここまで業務感ないんだけどなあ。

 デートみたいとか言いたかったけど、そんな雰囲気がない。しょんぼりだよ。


「あ」

「いかがしました?」


 アクセサリーを取り扱うお店の前で足を止める。

 視線の先を追ったサリュが気づいた。


「成程、貴方も女性なのですね」

「言い方! てか違う。欲しいとかじゃなくて、これ直そうかなって」


 ずっと持ち続けてきた、翡翠を取り出して見せた。

 すっかり以前の色合いを取り戻した翡翠、切れたチェーンを元に戻そうかと思っていた。

 パラの金の剣とこの翡翠ぐらいしか、師匠の形見はないから。


「修繕ですか。よろしいのでは」

「寄っていい?」

「ええ」

「あ、自分のお金でやるからね!」


 強く主張するとサリュが飽きれて溜息をついた。


「何故そんなに必死になるのですか……」


 いや完全にサリュのせいでしょ。さっきまであんなに厳しい買い物だったのに。

 無駄遣いチェッカーと化していたサリュがあっさりオッケーを出して店に連れだってくれた。

 師匠の形見を出すのは気が引けたけど、彼はさして気にしていないようだった。そう見えるだけかもしれないけど。


「これ、直してもらえます?」

「ああ、すぐできるよ。今直しても?」

「はい」


 終わるまで店の中でも見ててくれと言われ、うろうろしながら物色する。

 アクセサリーから天然石まで様々。天然石置いてるのは自分で作る用ぽいな。

 フーちゃん連れて来たら喜びそう。


「すごいね」

「? 何度も来ているのでは?」


 さっき女性ですかとか盛大な嫌味を言ってたくせに。

 まあ女性は好きだよね。

 師匠もよくそういうの身につけていたし、なにより私に翡翠のネックレスくれたわけだし。

 とんとそういうものには縁がなかったな。

 フーちゃんは服派だったし。


「んー、こういう店は初めてだよ」

「そうでしたか」


 なんとも読めない表情のまま頷いて、そのまま適当に店内物色に戻る。

 そんな中、ふと目に付く石。


「おお、綺麗……」

「……」


 近くにいたサリュに掲げて見せる。

 じっと石を見つめて何も言わないという、なかなかのリアクションの薄さを見せてくれた。


「ね」

「ええ」


 相変わらず反応薄いなあ。

 そこはにこやかに一言添えてほしいよ、と思った矢先。


「貴方の」

「ん?」

「貴方の瞳と同じ色ですね」


 え、なにそれ。

 ちょっと待ってよ。

 確かに私の瞳は青だけど。


「う、わ」


 私を見つめる金色が滲む。少し蕩けるような滲み方。

 嘘でしょ。

 今、眼だけで笑った。

 なんて気づきにくい僅かな所作。


「? いかがしました?」

「え、あ、いや、そ、そうだ、これ買おうかな」


 サリュったら、これ確実に無自覚で言ったな。

 そんな形でデレ見せて来るとかどうなのよ。

 無自覚デレだ、これ。間違いない。

 それはもはや、天然のたらし。

 この精霊のポテンシャルすごい。

 かなりの不意打ちで、私ちょっと動揺したわ。


「お嬢さん、できたよ」

「はい」

「後、これも十一個、パーツもいくらか一緒にしてもらえます?」

「ああ、いいよ」


 ブルートパーズの石言葉は希望。

 願わくば、皆の未来に希望がありますように。

 なんてね。


「そんなに数多く買ってどうするのです」

「いいじゃんかー、自分のお金だしー」

「これが、皆さんの言う無駄遣い」


 最初に市場に来た時と同じ言葉使ってる気がする。

 折角最後の最後だけはデートぽい雰囲気になったのに。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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