14話 通常運行塩対応
「というわけで、いいよね?」
「いいよー!」
朝餉時間がちょうど皆揃うので、サリュを側付にする話をしたら、それはもうあっさり了承された。
「じゃ、シュリとヴァンから少し教えてもらって、その後やってもらう感じでいい?」
「はい、構いません」
日の出の時のような柔らかさはないけど、塩というわけでもない。
なんとも言えない態度だけど、私の側付をしたいって事はいい傾向だと思うし、これを機に会話も増やそう。
御先祖様、私、御先祖様みたいな鋼メンタルになるべく修行しますよ、サリュを側付にすることによって!
* * *
結果、サリュの働きぶりは申し分なかった。
というよりも完璧と言っていい。
もとより、師匠の所で側付の仕事はしていたのだろう。
サリュは割と初期から師匠のとこにいた精霊、新人聖女が何をしていたかもよく知っていたし、スムーズに回していくこともよく理解していた。
「食糧ではそろそろ肉が尽きます」
「じゃあ買い出しだね~。そろそろ畜産に手を出すのもありだな……」
「他に必要なもののリストです」
「わ、ありがとう」
こやつ出来る。
メゾンにも確認をとっていて、そのあたりも準備がいい。
事細かに必要食品・物品が並んでいる。
でも私のコメント無視なのは通常運行塩対応。どんまい、私。
「んー、ちょっと精査する」
「ではその間に皆さんの元へ行っても?」
「あ、指導ね。いいよ、よろしく」
「失礼します」
大聖女とのやりとりもほぼ終え、オンブルの火消し的な奔走も終わったようで、私の元へ嵐のようにやってきていた書面という名の仕事は、今のところ落ち着きを見せている。
それでもサリュを定期的に魔の消滅へ駆り出せだの、残存瘴気の現状を事細かに報告しろだの面倒なものはまだ続いている。
あちらとしても、私の結界内が通常通り稼働している事と、サリュが瘴気を持っていても魔に堕ちない現状から様子見という姿勢を崩していない。
「おっと、やっぱりあった」
メゾンてば家事に力を入れてくれるのは助かるけど、たまに変な便利グッズをリストに入れてくるの止めてほしい。
さりげなくさよなら。
そもそも名前だけだと、どんなものか想像つかないのもあるしね。
今度はメゾンと一緒に物品買いに行くか。なんて座敷童は家から外に出られないけど。
どちらにしろ屋敷の中の事はメゾンに任せきりだし、今度ご褒美あげよ。
「はあ、いいなあ」
階下をこっそり覗くのが習慣になってしまった。
サリュがにこやかにしている姿を見れるから。
私の側付をするって言ったから、少しは心開いてくれたのかと思ったけど、実際は塩対応はそのままだ。
表情筋がかたまっているんじゃと思えるぐらいの無表情、そして残念なものを見る目と不機嫌な顔ぐらいしか拝んでいない。
本当デレはたまに。
これが黄金比とは……最近は欲張りになったのか、デレもっと欲しいとか思ってるあたり、訓練が足りない気がする、勿論ツンデレの。
「あれ、エクラだけ?」
「シュリ」
追加の手紙を届けてくれたシュリが入ってきた。
サリュは階下でにこやかですと告げると苦笑される。
「相変わらずエクラにだけは塩だねー」
「ツンデレのデレ欲しい」
「いいじゃん、側付するって自分から言ったわけだし」
「まあね」
「ばーさん達だって側付やらせろって言ってたんでしょ?」
「うん」
大聖女が早々にサリュを側付にしてつぶさに様子を見るよう指示を出してきたけど無視していた。
彼の意志が大事だと思ったから。
そう思っていた矢先に、彼自身から側付になりたいと言われて驚いたけど。
手紙は見られていない。
大聖女からの手紙には細工を施しているものが多く、開封したらそこから誰が開けて誰が読んだか大聖女に筒抜けになるとかいう話を聞いたことがある、たぶん事実。ガチで怖いよ、私の上司様。
「戻りました。ああ、シュリエ殿」
「はいはーい」
「お茶を出しましょう」
「いや、大丈夫。俺もう出るし」
シュリの当初目的はただのお手紙お届けだ。
後で俺も手合わせよろしくと軽く言って可愛くウインクして出て行く。
サリュにウインクしても嫌な顔されないシュリが羨ましいですねえ、わかってやったな今に見てろ。
「リストの精査は」
「終わったよ」
「では、参りますか」
「ん?」
今から行く気満々だったらしい、サリュは訝しんで僅かに首を傾ける。
行かないのですか、と。
いやまて、これはチャンスだ。
サリュと買い出し、これは間違いなく親交を深める為に必要になってくるやつ。
今ここで行かないと延々と塩対応が続き、黄金比デレすら失われる可能性もある。
「行こう! 今すぐに!」
「はあ」
急にやる気になってどうした的な顔を向けられたけど、無視して準備をし始めた。
服装は今着ているのに羽織るものあればよしとしよう。
化粧オッケー。
あ、財布どこだ、今月使っていいお金入れてる箱から取り出して入れ直さないと。
「主、何をもたもたしているのです。行きますよ」
「待ってよ、お金まだいれてない…………え?」
「いかがしました? 手が止まっていますが」
「え、あ、うん」
急いで財布をいれる。
いや、気のせいじゃない。
彼は今、私を主人と言った。
「言った?」
まごまごしながら先に出て行ったサリュを追いかけ階下に行けば、彼が先に皆に買い出しの事を説明してくれていた。
「いってらっしゃーい」
「サリュークレさん、主人をよろしくお願いします」
「結構な無駄遣い魔だからな」
「ちょっと! ひどいよ!」
フルールを小突く。
フーちゃんも混じって私の軽いディスりが交わされた。
いや私がつい買うのは決して使わないものを買うんじゃない、必要だとピンときたものを買っているんだ。
「人はそれを無駄遣いと言う」
「言わないで!」
「……分かりました。私が充分に気をつけるとしましょう」
「私悪者? ひどくない?」
「ではきちんと自制した姿を見せて下さい、主」
「うう」
私の嘆きとは裏腹に、周囲は彼の言葉に一瞬息をのんだ。
「じゃ買い出し行ってきますわー」
「行って参ります」
やっぱり気のせいじゃないんだ。
彼は初めて、私の事を主と呼んだ。
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