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13話 お願いがあります

「師匠を殺したのはサリュじゃないね?」

「っ……」


 言葉を詰まらせた。

 逡巡を見せて、何故、と小さく問われた。


「言い方と雰囲気かな……後は勘」


 彼は何度か師匠の死について言及しているけど、斬った事実に変わりないという言葉の選び方をしている。

 憎かったから殺しましたといった推理ものさながらの怨恨さえ覗かせず、斬った事だけを認めているだけだった。


「聖女はこれだから察しがいい」

「当たりってこと?」

「半分は」


 日の出と同じようにゆっくりと話し始めた。


「私はあの日、トプラクとアテシと共に外に出ていました」


 帰って来たら師匠の城は瘴気に満たされていて、急いで中を探ると中庭の惨状に辿り着いた。

 魔になってはいないものの、すでに手遅れでしかなかった。

 その中で、手分けして師匠を探している所にさらなる惨事が彼らを襲ったわけで。


「手分けしていたのが仇になりました。最初にアテシが、次にトプラクがあの人によって刺されました」


 金の剣。

 それに聖女としての力を纏わせ、聖女の言葉で動けなくして、そのまま刺したと。

 サリュークレが気づき、トプラクが崩れ落ちると同時に師匠に接近し、刀を動かそうとする手を止めた。

 けど師匠はそこで姿を一度消す。

 結界内、転移の魔法程度なら師匠クラスともなれば使えるだろう。

 彼が急いで探して見つけた時、師匠は自室で自分の首に金の剣を添えて自刃しようとしていた。

 それを急いで止めようとして、揉み合いになり、結果的に肩口から腹にかけて斬りつけることになる。

 師匠が私を斬れと言った言葉の拘束力によって。

 聖女の言葉は時として、力を兼ね備え、精霊達を意のままに操る事も出来る。けどそれは師匠程の熟練者以上になるのだけど。


「師匠が生きてる限り、その言葉に縛られるから、その場を離れたのね」

「ええ、その通りです」


 斬りつけた結果、その段階では一命を取りとめていた。

 だから再度師匠を斬ってしまうと判断したサリュークレはその部屋から離れた。

 同時に結界内に充満している瘴気を吸収して。瘴気を取り込み魔になることで、師匠の言葉の拘束力から解放されようとした。それは賭けだ。師匠の精霊でなくなり、魔になることは、サリュがサリュでなくなるのと同義なのだから。

 そうして言葉の拘束力を相殺して戻った時には、私とシュリが駆けつけていた。


「やっぱりサリュはやってない」

「いいえ、私が斬ったのです。私が殺したのです」

「自分のせいにするのはもう止めなよ」


 だから彼は私に殺されるよう煽ったり、そういった発言を繰り返していたのか。

 ああ、なんか御先祖様の記憶でそういうキャラいたわ。

 その子は乗り越えたけど、どういう経緯で越えたかは分からないし参考にならないな、おしい。

 もう一人参考になる子がいるけど、そっちは粘り強く言い続けたって感じか。

 どっちの子も美人だったな、うん。


「……何を考えているのですか」

「え?」

「ひどい顔をしています」


 塩対応復活ですか?

 折角話してくれたのに。

 真相暴露というデレで終わりだというの。

 それはあまりのも少なすぎる。


「女性を前にして、ひどい顔ってどうなの」


 ねめつけて抗議すると、彼は一瞬きょとんとした後、ふわりと目元を緩めた。


「ええ、そうですね」

「え、あ……」


 嘘でしょ。

 この流れで、まさかの事が起きた。

 サリュは、あのサリュが微笑んだ。

 どこか懐かしさを感じる柔らかさは間違いなく見習い期間で見てきたサリュそのもの。

 私の知っているサリュだ。


「それで、何を考えていたのです」

「あ、それまだ有効な質問ですか」

「ええ」


 折角のデレを堪能させてくれない。

 すっと温度下がるとかなしだ、雰囲気が台無しだよ。

 にしても仕方ない、話すとしよう。

 御先祖様の記憶継承は精霊達の知るところでもあるし、私の感想を端折ってうまく伝えるしかない。


「御先祖様の友達と家族で、責任感が強すぎる子たちがいたんだよ。その子達がどうやって乗り越えたんだっけと思って」

「友達と家族」

「ガチで天使だったよ。美人すぎて震えるレベル。その二人を見ただけで涎でる」

「その御二人も、何かが自分のせいだと思っていたのですか」


 わあ、察しがいいな。私の敢えてのボケはスルーだけど!

 結局、私がこんなに悩んで、サリュに健全な思考に戻ってもらいたいって試行錯誤しても、彼の知る所だなんて。それ私、伝える必要どこにもないんじゃ?


「家族の子は御先祖様が何度かアプローチして、友達の子は二度目会った時には解消してた」

「そうですか」

「サリュ、私の言いたい事全部分かってるんじゃん」

「そうとも限りません」


 それは敢えて分からないフリをしているんじゃなくて?

 ちょっと前の自分の言動振り返って見なよ。全部分かってる感じだったよと言いたくなったけど、我慢だ。塩対応から抜け出すためにも、今は関係構築が最優先だ。


「そしたら今度お酒でも飲みながらトークタイムといきますか」

「え?」

「ゆっくり話す時間設けるよ」

「必要ありません」

「そこは喜んでって言って」


 傷つくよ、秒でお断りなんて。


「ふふ、御先祖様みたく鋼メンタルでやっていくには訓練が必要と見た」

「鋼?」

「こっちの話」


 ひとまず屋敷に戻ろう。そして朝ごはんにしようと彼を誘った。

 完全に日の出を超えた。

 メゾンが起きて、ご飯作ってくれて、程なくして皆が集まるだろう。


「あの」

「ん?」

「お願いがあります」

「なに?」


 珍しい。

 ここにきて望む事は自身の死ぐらいなもので、それも最初に言ったきりの中で、久しぶりに出てきた彼の気持ちだ。


「私を貴方の側付にして頂けませんか?」

「え?」


 予想してなかったお願いに、私はひどく間抜けな顔をしていた自信がある。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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