10話 面倒見のいいお兄さんキャラだった子は実はツンデレでした
ヴァンが屋敷の中から叫び、すぐに屋敷の中へ走る。
そのまま屋敷の西側へ向かった。
屋敷は基本二階建て、その西側だけ縦に長く、ざっと五階分の高さがある。そこから大陸の端を見られるように。
「よしきた!」
見張り塔と呼んでるこの場所は最上階を屋上として開けている。
海の方を見やれば大地と木々が高く舞っていた。
「魔の数は?」
「三体です」
誰を行かせるか考える。
土と木に強さを持ってそうだけど。
「俺が行くか?」
「いつでも行けるよ?」
「そうだね、ここは」
「待ちなさい」
フルールとフーちゃんを両脇に侍らせて考えていたら、するりと斜め前にサリュが出てきた。
真っ直ぐ魔を見据えている。
「見えるなら、ここからでも」
「え?」
片手をあげて前に出した。
次の瞬間、遥か彼方に大きな水の柱があがった。
温泉とか湧いたらあんな風に出ることあるよね、でもそれにしても規模、規模違う。
「はい?」
「あの程度なら、これで消えるでしょう」
水の柱は三体の魔を喰らって、そのまま消えた。魔は当然のことながら消滅していた。
「ガチでチートやん」
「はい?」
「褒めてるんだよ」
「……」
訝しんだ顔を向けられた。いや本当チートだよ? 熟練度でここまで変わる?
遠距離で攻撃にしても、あの規模威力で、一瞬で消し去れる実力ってなんなの。
「すごーい!」
「旦那、やるな!」
フーちゃんとフルールがすごいと叫ぶ。
後からやってきた他の子達も話を聞いて、サリュに賛辞を送った。
「へえ、あんた程強くなれば、ここからでもやれんのか」
「つおい!」
「おやおや、これは僕も家を守りながら、お手伝い出来る希望が見えてきたね」
「素晴らしいです。どのような鍛錬を積んだのですか?」
「え、ええとですね……」
急に精霊達に詰め寄られすごいすごいと褒め称えられたサリュはだいぶ戸惑っている。
そこに少し照れが混じっていて、その姿に和んだ。見た目年上イケメンのくせにオロオロするとか可愛い事この上ない。
「サリュークレ」
「はい」
一番最後にやって来たオールが静かに伝える。
おっと、これは割と本気のやつだな。オールったら彼に興味があるみたい。
脱力系陰キャで何事もそこまで興味がなかったのに。
金の剣の記憶を見たことも影響してるのかな。
「手合わせを頼みたい」
「いえ、それは」
「いいね! 続きやろ~よ!」
「そしたら庭に出るか」
「え、いや」
ぐいぐい系に手をとられつつ、後ろからも押されつつ、サリュはじりじりと屋上を出て屋敷に戻っていく。
うんうん、皆サリュを気に入ってくれてよかった。
「エクラ」
「どうしたの、シュリ」
最後は私とシュリが残っていたところに声をかけられた。
「サリュのこと」
「うん、どんな?」
「ふつーって言ってもおかしいかもしれないけど、抵抗なく畑仕事してくれたよ。会話も良好」
「そっか」
「あっちではそういうことしてなかったみたいだけどさ」
「ふうん」
師匠はお姫様ですからねえ。血筋的にも親御さんその他諸々がサポートをしていたのもあって、衣食住は何もしなくても完備だったぽいし。
「瘴気は今んとこ平行線」
「増えてないから良しだよ」
私の聖女レベルでも瘴気が増えてないということは、今後減らせる見込みがある。それは素晴らしい展望だ。
「肩透かしってぐらい殺気ないんだよなー」
「ボコボコにされたのにね」
「あれはきつかった。マジで強えんだもん」
「はは。皆ともうまくいきそうだし、よくしてあげて」
「わかってる」
庭先に出れば、色々教えをするんで囲まれているサリュがいた。
沈んでいた表情が心なしか少し上気しているようにも見える。
いいねえ、可愛い子ちゃん達がきゃっきゃうふふしてる風景。写真撮りたい。
「じゃ、俺もいこっかな」
「いてら」
「うい」
刀持ちのシュリは金の剣を持つサリュに得物の扱い方をより深く学びたいようで、その特訓をし始めた。
入れ代わり立ち代わり相手をするには明らか教え側が不足してるけど、うまいことローテーションしているし、サリュも慣れているようだった。
二人一組とか三人一組になって練習し始めるプランに切り替えたサリュは、ゆっくりこちらにやって来た。
「はい」
「ああ、どうも」
さっきと同じで水分補給でお茶を出したら、思いの外自然に受け取ってくれる。
もっとも、ここはありがとうと言ってほしいとこだったけど。
あれか、感謝しない子許さないを根に持たれてる?
見た目、そんなトゲトゲ感はないんだけどなあ。
「教え上手だね」
「いいえ、大したものでは」
「そうかな? あ、はいタオル」
「はあ……」
一気に飲み干したあたり、結構きつめだったのかな。
首筋に汗が滲んでいたからタオルを渡せば、これまた素直に受け取った。
てか首筋に汗ってイケメンだと映える。すごいぞ。
「イケメンですねえ」
「貴方はずっと奇妙な言葉遣いをしますが、それは何なのです」
「御先祖様の影響ですな」
「そんな不審な言語を使う御先祖がいたというのですか」
「いるんだな、これが」
「品性を疑います。止めた方がよろしいのでは」
やっば、思いの外会話してくれてるじゃん。
嬉しくて顔が崩れる。笑い止められない。
「ふふふ」
「?」
「私に興味を持ってくれてるみたいで嬉しい」
「!」
墓穴を掘ったと言わんばかりの表情だった。不本意らしい。急激に彼の機嫌がだだ下がりするのが見えた。
「違います!」
「まあまあ。お茶もタオルも受け取ってくれたしー、会話も弾んだし?」
「べ、別に私は貴方の施しなど必要ないのです! 興味なんぞ微塵も!」
「おお、ツンデレかよ……」
「は?」
どうしよう、見習い期間で面倒見のいいお兄さんキャラだった子が実はツンデレでした、なんてオチ。
最高じゃない?
「間違いなく美味しい展開というやつね」
「はい?」
冷たい視線だけなくなれば、なおよしだなあと思いつつ、笑顔を向けると彼の眉間の皺がより深くなった。
「デレを楽しみにしてるね」
「でれ?」
説明はしないよ!
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