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20話 花火 夏休み後編

  01



 「うっ……」





 冬雪たちはまだプールで遊んでいるのに俺は一人で便器に向かって吐いていた。モザイクだらけの人間がいっぱいいることなんてわかってた、こうなることも。

 だけど、冬雪には一、二ヶ月前のパーティの時のような悲しい顔はさせたくなかった。俺はアイツが笑っていてくれればそれで良い。





 「一人で抱え込むなんてらしくないな、桜」

 



 「本当よ、黙って離れるなんて有り得ない」





 ビーチに設置されたトイレから出ると、アキと莉奈が俺を待っていてくれた。



 「お前ら……別に待ってくれなくても良かったのに」





 「お前がいないと寂しいやつがいるんだよ。なぁ、誰かわかるよな莉奈」





 「ええ。私の可愛い妹はいつだって柊木桜のことを大事に思っているんだから羨ましい」



 莉奈とアキはお互い目を合わせると、何故か笑っていた。そういえば冬雪の姿が見えない。





 「冬雪ちゃんなら夏油ホテルでお前を待ってるぜ、行きな」



 アキは勢いよく俺に何かを投げつけ、俺はすかさず手でキャッチをした。手のひらにあったのは三桁の数字が書かれていた鍵だった。




 「……悪い、行ってくる!」




 何もかも全て吐き出したおかげで体がとても軽くなっていた。

 冬雪にはいつも心配かけてばっかりだ、情けないボディーガードで本当に申し訳無いと感じてる。俺の症状のために部屋まで用意してくれるとは思いもしなかった。




 ――――――

 ―――――――――





 「遅いですよ、柊木くん」




 持っていた鍵で部屋のドアを開けると、中で冬雪が待っていた。既に水着から着替えており、椅子に座りながら本を読んでいた。

 日中、いっしょにプールで遊んでいたこともあってか、冬雪の肌は小麦色に日焼けしていた。

 俺は思わず冬雪のワンピースから見える小麦色の肌に目を奪われてしまった、あんなに真っ白な肌が一日で色が変わるなんて夏は恐ろしい。




 「どうやら元気そうですね、私の肌を見るぐらいですから」



 俺の視線に気がついたのか、冬雪は顔を赤くしながら両手で肌が見えている部分を隠した。



 「いや、別にそういうつもりじゃ……」




 「逆に否定されるのは傷つきますよ?」




 くっ、たった数ヶ月で俺をからかえるレベルになるとは予想も出来なかった!



 「冗談はさておき。……どうしてまた自分一人で抱え込むんですか、私やアキさん、お姉ちゃんに言ってくれれば直ぐに部屋を用意したのに」




 俺がベッドに座っていると、冬雪は俺の隣に座ってきた。俺を見ている彼女はとても辛そうな目をしていた。



 「迷惑かけたら嫌われると思って言えなかった、怖かったんだ」



 冬雪と出会ってから数ヶ月、俺は人に嫌われるのが怖くなってしまった。

 人として欠陥を抱えている俺を普通の人のように扱ってくれる冬雪たちの優しさを裏切ったらどうしよう、俺はまた''大事な人''を傷つけてしまうのではないかといつも考えてしまう。

 昔の俺は人と関わる資格はないと思っていたのに、今の俺は人と関わったらまた傷つけると思っている。時が経っても人は変わらない。





 「誰だって傷つくのは怖い、でもそれでもいつかは立ち向かわなきゃいけない時は来るんです。……昔、友達だった人が言ってました」




 冬雪は俺の肩を掴み、真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。




 「私が全部柊木くんの痛みも悲しみも引き受けます、……だから柊木くんは私の傍から絶対に離れないでください」








  02





 夜、アキ達と夕食を共にしたあとビーチで行われるホラーイベントがあるということで一旦別れることになった。

 俺と冬雪は午後九時に開催される花火大会に向けて、先に場所を確保することにした。



 「どうですか? 似合いますかね?」





 ホテルのレンタルで借りた浴衣を嬉しそうに俺に見せる冬雪はとても子供らしくて微笑ましかった。







 「うん、似合ってる。可愛い……と思う」




 女の子は男に可愛いと言われたら嬉しがる生き物だと、師匠は昔言っていた。

 ただこれは付き合っている男女限定の話だから俺たちには関係のない話かもしれない。でも、褒めなかったら男が廃る気がしてならない。

 学校では三つ編みをしている冬雪は今日に限っては髪を下ろしていた。月の光が当たっているせいか、少し色っぽく見える。





 「柊木くんも顔を赤くするんですね」




 冬雪は目を細めながら俺の顔を指でつついた。咄嗟のことで俺は後ずさってしまう。夏は人を変えてしまうと聞くけど、冬雪はいつも以上に積極的だ。

 午後九時に向けて花火が見やすいスポットを冬雪と喋りながら探していると、いつの間にか人が増えていた。まだ始まるまで時間はあるのにやっぱり考えることは同じか。





 人混みの中を歩いていると、冬雪が何かあったのか地べたにしゃがんでいた。




 「どうした、大丈夫か?」





 「すいません、どうやら足をくじいたみたいです……」



 暗闇の中で目を凝らしながら見ると、冬雪の踵が赤く腫れていた。足が腫れている以上は長距離は歩けないな……





 「お、俺の背中に乗るか?」



 女の子をおんぶしたことが無かった俺はつい早口になりながら、冬雪に聞いてしまった。




 「……良いんですか?」




 「ケガしてる冬雪を一人にしておけないからな、嫌ならいいんだよ」




 「嬉しいです、本当に……夢みたい」




 暗いせいか、冬雪の顔はよく見えなかった。

 冬雪をおんぶしながら、花火がよく見えるスポットを探していると真っ暗な夜空に鮮やかな花びらが舞い始めた。



 「あーあ、始まっちゃったか」








 「……俺さ、冬雪に俺の悩みを全部引き受けるって言われた時嬉しかったよ。こんな俺に優しくしてくれる奴が現れるなんて今まで無かったからさ」





 花火が打ち上がっている中で俺はつい独り言を零す。





 「私はずっと誰かに頼られたかったんです。だから思いきって私に甘えてもいいんですよ」



 冬雪は俺の頭をそっと撫でる。



 「そっか、じゃあ後悔するなよ。俺は人と比べて弱い人間だ、たまに人と境界線を作って逃げるかもしれない。……その時は俺を叱ってくれ」



 花火が鳴り響くにつれて、俺は冬雪の顔を見れなくなっていた。モザイクがかかったとかではない、冬雪の顔を見ていると胸が苦しくなってくる。

  夏は人を変える、それは一人だけではないことを俺は今更思い知った。

 守らなきゃいけない少女に俺は守ってもらった、今度は俺が恩を返さなきゃいけない番だ。



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