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2話 さよなら男子の生活

  01



 放課後、俺とアキは駅前の喫茶店で西ノ宮についての話をすることになった。あのあと、彼女は俺にメイド服を授けて自分の連絡先が書かれていたカードを渡してきた。どうやらまだ半信半疑のようで決意が固まり次第連絡くださいと言い残し、早々と学校から立ち去っていった。

 メイド服に関しては多少は抵抗があるけど、ボディーガードのアルバイトは別に良いとは思っているのにな。大卒の新入社員と同様の給料を貰えて、尚且つ私立明智学園高等学校の学生寮に住める。あくまで女子のフリをしながら西ノ宮のボディーガードをするという前提付きだが、今の俺の現状からしたら高待遇だ。

 ……あの家にいるよりかはずっとマシだし、なにより俺が居なくなったら嬉しいだろうあの人たちは。





「まさか本当にメイドのバイトを引き受けるとはなぁ〜、今度写真撮って送れよ」



 アキはニヤニヤしながら、悪びれもなく俺の女装した姿を写真で要求をしてきた。俺を売るなと一言言いたかったが、昔の俺を知っている唯一の人間だから余計なことは言わなかった。



「普通のバイトと比べて給料は良いけど西ノ宮って何者なんだろうな」



「……強いて言うなら普通の人間とは住む世界が違うってことかな」



 何か含みを持った言い方をしたアキが気になったが、俺は西ノ宮から貰った連絡先に連絡をすることにした。



「あ、そういえば親御さんにはなんて説明するつもりなんだ」



 俺は西ノ宮の仕事を引き受けると同時に学校を辞めなきゃいけない。女装してお嬢様学校に行くということは別人としてこれから学生生活を満喫することになるんだ。



「学校辞めて貯金を崩しながら一人暮らしするって伝えてある。反応はそっけなかったけどな……」



 貴方らしく生きれるならそれでいいと母さんはため息をつきながら、俺の退学については了承してくれた。普通なら怒ってもいいのに母さんは一切怒り狂うことは無かった。出来が悪い息子がいなくなることに清々しているんだろう。



「まぁ、お前がそれでいいなら良いんだけどな……メイドの仕事っていても休みぐらいはあるんだろ? 休みの日はパーッと遊ぼうぜ」



 俺を元気づけてくれているのか、アキは俺が出した辛気臭い空気を払ってくれた。コイツには色々と感謝しきれない、誰も信じなかった俺の後遺症について唯一信じてくれた人間だ。誰もがみな嘘つきだと俺をバカにしてきたが、アキだけが真剣に悩みを聞いてくれた。だからこそアキとの友人関係を大事にしたい。




  02



 

 アキと別れてから俺はいったん家に戻り、自分の必要な荷物だけを取りに戻った。女装してボディーガードになるということは二度と男の格好は出来ない、だから俺にとって必要な荷物は数えるものしか無かった。家を出る際に弟がなにか言っていたが、所詮モザイクがかかっている人間の言うことなんか信用出来ないから無視をした。準備が整った俺は西ノ宮に電話をし、待ち合わせ場所に向かった。



 待ち合わせ場所である駅前に向かうと、何やら人だかりが出来ていた。何だろう事件かな?俺の視界から見ると黒いモザイクがかかった集団が死体を啄んでいる異様な光景にしか見えない。



「あ、柊木くん! こっちです!」



 聞きなれた声がしたから振り向くと、雪のように白いワンピースを着た西ノ宮と隣にはメイド服を着た人が待っていた。彼女の周りには何故か人だかりはできているから、恐らく美人なんだろう。まさか田舎の駅に絵画から抜け出してきたような少女たちがいるなんて誰が思うだろう。



「悪い、遅くなって」



「いえ大丈夫ですよ。それより荷物少ないですけど平気なんですか?」



「あ〜、うん大丈夫。女装する以上男物の服は持っていけないからな」



 何とか誤魔化しきれた。西ノ宮と俺はメイドさんの先導の元、近くで停めてあった車へと向かった。途中、メイドさんがモブたちにむかって「どけ! 豚供!」と言い放ったのは驚いた。

 人目につきながらも、問題なく車へと乗車をした。目的地の私立明智学園に到着するまでかなり時間がかかるらしいから、俺は西ノ宮に一つ質問をした。





「これからお前は俺の雇い主になるわけだけど、なんて呼べばいいんだ?」



 ボディーガードになる以上はやっぱりお嬢様呼びなんだろうか。何だかむず痒いな。



「柊木くん、私の女装ボディーガードになる以上は言葉遣いも直さないといけないんですよ」



 俺の隣に座っていた西ノ宮はそっと近くに寄り、俺の口元に触れた。突然のことで戸惑いながらも、俺は言葉遣いを女の子寄りに変えてみることにした。



「……し、心臓に悪いことをしないでください、お嬢様」



 夜ということもあって俺が照れていることは悟られていないみたいだ。他人に顔を触れられるのは生まれて初めてだからどう反応していいのかわからない。西ノ宮は妖艶な笑みを浮かべながら、俺の顔を見つめていた。



 地元を離れて約三十分、田舎から都会の摩天楼へ移動した俺は目を丸くした。 都会の街並みはテレビで見慣れていたが、西洋建築で出来た学校を見たのは初めてだった。

 超お嬢様学校と思っていたが、まさか建物にまで力を入れているとは。この建物だけでお金は取れる。



「学生寮と学校は別の土地にあります」



 驚いていた俺を横にメイドさんは声色を変えずに驚愕の事実を述べた。

 

「え……ここ学校じゃないんですか」



 メイドさんは学生寮とは言い難い建物の前にいた警備員さんに何かの証明書を出し、閉ざされた門をこじ開けた。男子禁制の学校の筈なのに警備員は誰も俺の性別を疑うことは無かった。



「わざわざ確認しなくても柊木くん、女の子にしか見えませんよ」



 ヘアゴムで結ばれた髪に思春期の男の子にしては綺麗な真っ白な肌、手入れがされている絹糸のようなまつ毛。どこを見ても女の子にしか見えないと自身ありげに彼女は答えた。自分の容姿をあまり気にしたことは無かったけど、他人からみたら俺女の子にしか見えないんだ……



「これから柊木さんには私とお嬢様で二日かけて女の子のマナーを教えますので覚悟しといてください」



 学生寮の前で降りた俺にメイドさんは聞きずてならないことを言った。二日で女の子のマナーを身につける??



「まさか本気じゃあないよな……ですよね?」



 西ノ宮に聞いてみると彼女は悪戯な笑みを浮かべて頑張れと俺に言った。学生寮を前にして俺は体の震えが止まらなくなっていた。三日後の学校初登校前に俺は生きているのだろうか……

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