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あいさつ

 ノムキナとの食事を楽しんだ翌日の朝、恭也はノムキナに見送られてヘクステラ王国のゾアースに転移した。

 再びゾアースが別の上級悪魔に襲われている可能性も恭也は考えていた。


 しかしゾアースは住民たちが復興作業で忙しそうにこそしているもののそれ以外に変わった様子は無く、今回は到着後すぐに『惨劇察知』が発動するということもなかった。

 安心した恭也はとりあえず近くの人に自分が異世界人であることを告げ、そのまま教えてもらった領主の家に向かった。


 すぐに領主に会うことができた恭也は、領主から恭也が上級悪魔を倒してすぐに首都、へクスに早馬を出したがまだ返事が無いと告げられた。

 それなら恭也が直接へクスに行き、国王に事情を説明しても同じだろう。


 そう考えた恭也はヘクスの大体の方角を領主から聞くと急ぎゾアースを離れた。

 その日の内にヘクスに着いた恭也は、王城を探し当てていつも通り門番に自分の正体と明日の朝出直すことを告げた。

 

 そして翌日の朝、宣言通りへクスの王城を訪れた恭也は門番に玉座の間へと案内された。

 恭也が玉座の間に入ると普通の衛兵の他に目立つ装備を身に着けて玉座の近くに控える兵士が六人いた。


 おそらく彼らが恭也が昨日街で聞いたヘクステラ王国の誇る十武衆なのだろう。

 ヘクステラ王国の軍は純粋に個人の実力で選ばれた十人が総括しており、その十人というのが十武衆だ。


 恭也が『魔法看破』を使ったところ、その六人の内の一人が上級悪魔由来の魔導具を持っていたのでおそらく間違い無いだろう。

 恭也が玉座の前まで進むとヘクステラ王国女王、ミュール・ソウルア・ヘクステラが口を開いた。


「いきなり城に顔を出して明日会えとはずいぶん無礼な態度を取ってくれたわね」

「それに関しては謝ります。でも急いで知らせたいことがあって、事情を聞けば納得してもらえると思いますけど」

「ゾアースの件ならすでに聞いているわ。あなたが上級悪魔を倒したそうね」


 ゾアースへの返事が間に合わなかっただけで、恭也がソパスに帰っていた日数を考えるとヘクスに上級悪魔の一件が伝わっていること自体は恭也も予想していた。

 そのため恭也はミュールの発言に驚くことなく『情報伝播』を発動した。


 今回恭也はオルルカ教国で暴れた上級悪魔とゾアースで暴れた上級悪魔の映像を見せたのだが、今まで尊大な態度を見せていたミュールを始め、玉座の間にいた者たちは一様に驚いている様子だった。


「今僕の能力で僕と上級悪魔の戦いの様子を見せたわけですけど、後三体似た様な悪魔がこの大陸に送り込まれるそうです。だからこの大陸にある全部の国に注意を呼びかけようと思ってこの大陸に来ました。それより先にゾアースが襲われちゃいましたけど」

「ふーん。……今から来る上級悪魔をあなたが倒してくれるって言うなら、私たちとしては反対する理由は無いわ。用はそれだけ?」

「いえ、上級悪魔の件が片付いてからにしようと思ってたんですけど、もう一つ用があります」

「何かしら?謝礼ならもちろん出すわよ?」

「謝礼はいりません。多分僕が用件伝えたらそれどころじゃなくなると思うので」


 恭也の物騒な発言に室内の雰囲気が変わる中、恭也は用件を伝えた。


「この国で奴隷として扱われている種族を全て解放して下さい」


 恭也がこの発言をした途端、ヘクステラ王国の人間たちの間にどよめきが走った。


「蛇や鳥を解放しろっていうの?」


 ラミアやハーピィを動物呼ばわりするミュールの質問を恭也は肯定した。


「はい。昨日少し見て回りましたけど、この国の人ラミアやハーピィを死んでも構わないぐらいのつもりでこき使ってますよね?今すぐこの国で奴隷として扱われてる種族全てを解放して下さい。これは脅しですけど、嫌だと言うなら上級悪魔を送り込んでるディアンとかいう異世界人の相手するのと同時にこの国とも戦うつもりです」


 ここまではっきり宣戦布告されたことがおかしかったのだろう。

 ミュールは楽しそうに笑いながら恭也に視線を向けた。


「何?蛇や鳥に欲情でもしたわけ?ディアンだったかしら?その異世界人が送り込んだ上級悪魔倒すとか言っておきながら、あんたもしてること大差無いじゃない」

「そうですね。それはその通りだと思います。どんな種族も遊び道具だと思ってる異世界人とどんな種族も助けようと思ってる異世界人、どっちの侵略受けるかはそっちで決めて下さい」


 ゼキア連邦の成り立ちを聞いた時点で、周辺の国でラミアやハーピィたちが奴隷扱いされていることは恭也も予想していた。

 しかしさすがにいつどこに現れるか分からない上級悪魔三体の相手は、一国を相手にしながらできることではない。


 そのため恭也はヘクステラ王国でラミアなどが余程の扱いを受けていない限りは上級悪魔を倒すまではヘクステラ王国内の奴隷事情は放置しようと考えていた。

 そして荷車にラミア、ハーピィ、エルフ、獣人の死体が乗せられている光景、そしてその荷車の横をヘクステラ王国の住民が大人も子供も全く表情を変えずに通り過ぎるのを見てとても放置できないと考えた。


 恭也はすでに昨日見かけた異種族の死体数十体を『格納庫』にしまっており、折を見て蘇生するつもりだった。

 すでにヘクステラ王国相手に穏便に済ませる気が無かった恭也を前にミュールも鋭い視線を向けてきた。


「あなたの力なんて無くても異世界人も上級悪魔も倒せるわ!死になさい!」


 ミュールがそう言うと同時にこの場にいた十武衆六人が恭也に攻撃を仕掛けようとした。

 恭也は襲ってきた六人がそれぞれ手にしていた武器の形状をランの魔法で操り、そのまま手錠の様な形にして十武衆六人を二人一組で拘束した。


 手錠と言っても鎖部分も無い雑なものだったが、それでも六人はまともに動けなくなりそのまま手錠に引きずられる形で玉座の間から追い出された。

 いつもの様に『情報伝播』で無力化してもよかったのだが、『アルスマグナ』を使いこなすためにランの金属操作に使い慣れておく必要があったので練習がてら十武衆たちを拘束してみた。

 十武衆を玉座の間から放り出した後、恭也が『隔離空間』を発動したため十武衆たちは玉座の間に入るどころか扉にすら触ることができなかった。


「どうします?あの人たちこの国で一番強いんですよね?その人たちが見ての通りでしたけど、まだやりますか?」


 そう言って恭也が室内に残っていた衛兵たちに視線を向けると、衛兵たちは互いに視線を向けるだけで誰一人動こうとしなかった。


(前から思ってたんだけど、何でどいつもこいつも恭也が上級悪魔倒したこと知ってて襲ってくるんだ?勝てるわけねぇじゃん))

(うん。それは僕も不思議に思ってた。やけになってるとかじゃなくて、普通に僕に勝てると思って襲ってきてるっぽいしね)


 恭也たちのこの疑問にはちゃんと理由があった。

 恭也はこの世界に送り込まれた二十人目の異世界人で、現在この世界にいる異世界人は恭也を入れて六人だけだ。


 ディアンが殺した二人を除いても半数以上がこの世界の人間に殺されていた。

 もちろんこの世界の人間、今回で言えばミュールや十武衆も恭也が街の一つや二つ滅ぼす力を持っている可能性は考えていた。


 しかしウォース大陸の国だけでも数人の異世界人の殺害に成功した事例があり、異世界人は強くはあるが白兵戦なら十分勝算があるというのがこの世界の人間の共通認識だった。 

 しかもヘクステラ王国の人間は恭也の能力の詳細どころか恭也が三人の魔神と契約していることすら知らなかったため、即座に戦いを挑んだ。

 それで恭也に勝てるはずがなかった。


 もっとも今この世界にいる異世界人六人はそれぞれの方法で不意打ちに対処できるため、白兵戦なら勝てるという前提自体が間違っていたのだが。

 すでに『不朽刻印』が発動できる状態になっていたミュールに恭也が近づくと、ミュールは玉座から立ち上がり恭也に水の刃を放ってきた。


 よける必要も無かったため恭也はそのまま進み、ミュールの魔法が直撃しても何事も無かったかの様にミュールに近づき『不朽刻印』を発動した。

 恭也から『不朽刻印』の説明を受けたミュールは、やがて力なく玉座に座り込んだ。


 その後恭也が『隔離空間』を解除すると十武衆たちが慌てて玉座の間に入ってきた。

 恭也がミュールにしたことを十武衆に説明すると彼らは恭也に敵意のこもった視線を送ってきたが、相手にする気も起きなかったので恭也は即座に彼らを捕えていた手錠を刃状に変えて六人全員の手首を斬り落とした。

 しばらく彼らが痛みで苦しんだ後で恭也は彼らの傷を治した。


「さっきから僕のことにらんでますけど、怒ってるの僕の方ですからね。僕別の大陸から来たんですけど、そこにもこの国と似た様な国あったんで領土、お金、魔導具片っぱしから奪い取りました。それと」


 彼らを威圧するために恭也はウルとランとの融合を解いた。


「一人は僕の本拠地の管理を任せてるんでここにはいませんけど、僕は三人の魔神と契約してます。痛い目見ないと分からないって言うなら、二時間ぐらい死ぬのと生き返るの繰り返してみますか?」


 恭也は特に声を荒げたわけではなかったが、それでもこれだけの戦力差を見せつけられてはヘクステラ王国の面々が抵抗などできるわけがなかった。

 それを見た恭也はミュールに視線を向けた。


「二週間待ちます。それで奴隷を解放する様子が見られなかったら、この国の貴族全員さらって奴隷扱いしてあげます」


 そう言って恭也はダーファ大陸各地に作った刑務所の様子を周囲の人間に『情報伝播』で見せた。


「さっき見せた囚人たちの中にはクーデター、国の乗っ取りに失敗した王子もいます。僕、相手を殺さなければ何をしてもいいと思ってるんで、もし歯向かうなら殺してもらえるなんて思わないで下さいね?」


 とりあえず自分の伝えたいことは伝えたと判断した恭也は、その後ミュールに直筆の署名が入った命令書を用意させた。

 ヘクステラ王国とゼキア連邦の国境沿いで異種族を捕えているヘクステラ王国の兵士に今行っている異種族の捕獲を止めさせるためだ。


 ネース王国での経験からこういった指示を円滑に出せた恭也だったが、全く嬉しくなかった。

 当面はヘクステラ王国の出方を待つしかないので、恭也はミュールに用意させた命令書を手に国境沿いにあるヘクステラ王国が用意した異種族狩りのための拠点三ヶ所へと向かった。


 ヘクスを出発して二日後、国境沿いで異種族狩りをしていたヘクステラ王国の兵士たちは、最初恭也がミュールの命令書を渡しても半信半疑だった。

 しかし恭也が『情報伝播』で先日の王城でのやり取りを見せ、その後いつもの手順で兵士たちの心を折るととりあえずヘクスに確認を取るということでヘクステラ王国の兵士たちはゼキア連邦の領土内から撤退した。


 恭也が国境沿いのヘクステラ王国の三ヶ所の拠点全てを回り終えたのはヘクスを出発してから二日後のことで、今の恭也たちの魔力は三人合わせて十四万程あった。

 今の内にヘクステラ王国で回収した死体を蘇らせよう。


 そう考えた恭也は、集落を探すためにゼキア連邦へと入った。

 ゼキア連邦に入って一時間程が経ち、そろそろ日が暮れるので今日はもう終わりにしようかと恭也が思い始めた頃、恭也の視界に何やら巨大な人型の存在が入ってきた。

 まさかディアンが送り込んだ二体目の上級悪魔かと身構えた恭也だったが、恭也がさらに近づくと巨大な人型の存在が何十人もいることに気がついた。


(何あれ?巨人?)

(俺に聞くなよ。でも巨人とかいう割にはあの鎧野郎より小さくね?)

(言われてみれば……。じゃあ、何だろ?)


 とりあえずその巨人に話しかけた恭也を見て、緑色の肌に三メートル程の身長を持つ種族、オーガが驚きの声をあげた。


「な、何だあ、お前は?悪魔か?」


 そう言ってオーガは近くに置いてあったこん棒を手にしようとした。

 それを見た恭也は周囲にいるオーガ全員に自分が訪れた目的を『情報伝播』で伝えた。

 恭也の言葉を信じたというより突然自分たちの頭に直接声が伝わったことに驚き、オーガたちは動きを止めた。


 そんなオーガたちに恭也は今すぐ助け出したハーピィたちを蘇らせるので、その後のことを任せたいと伝えた。

 すぐに了承してもらえると恭也は思っていたのだが、オーガたちは恭也の提案に難色を示した。


「ここは俺たちの縄張りだから、他の連中を連れて来られても困る」

「縄張り?ここって人間以外の種族が一緒に住んでるんじゃないんですか?」


 オーガの予想外の反応に思わず恭也が口にした質問を聞き、オーガたちは気まずそうにした。

 恭也がオーガたちから聞きだした話によるとこういうことらしい。

 ゼキア連邦には現在ラミア、オーガ、ハーピィ、エルフ、アルラウネ、獣人の六つの種族が住んでいるが仲の良いエルフとアルラウネ以外は離れて暮らし、人間相手の有事の際以外では積極的に関わることはないらしい。


 この話を聞いて勝手に互助団体の様なものを思い浮かべていた恭也は驚いたが、別に種族間で殺し合いをしているというわけでもないので口を出すのを止めた。

 今まで気にもしなかったが、ダーファ大陸で獣人とエルフをクノン王国以外ではほぼ見ないことを考えるとダーファ大陸でも異種族間の共存はうまくいっているとは言えない。

 別に恭也もこの世界の全ての者が手を取り合えるとまでは思っていないので、余計な争いを起こさないようにオーガたちの縄張りを離れた。

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