二度目の邂逅
目玉の悪魔を操っている異世界人も恭也を探していたようで、あちらから話しかけてきた。
「よう、さすがだな。俺の作った上級悪魔あっさり倒すとはやるじゃねぇか。でもできればここで戦って欲しかったな。遠過ぎてお前たちの戦い全然楽しめなかった」
「だったら次からはいきなり街を襲うんじゃなくて、街から少し離れた場所に悪魔を出現させるんですね。そうしたら僕も街に気を遣う必要無いんで、その場で戦いますよ」
見世物になるのはしゃくだったが、それで街が直接襲われることがなくなるなら恭也としてもメリットはあった。
そのため恭也はこの様な発言をして相手の反応を待った。
「ああ、なるほど。ご立派、ご立派。てっきり俺に能力見られたくないのかと思ってたら、そういう理由だったのか。じゃあ次からはそうさせてもらうぜ。せっかく悪魔作ったのに戦ってるとこ見逃したんじゃもったいないからな」
「そうして下さい」
あれだけの被害をゾアースに出しておきながら、あくまでも遊びと言いた気な相手の態度に恭也は怒りを覚えた。
しかし街への襲撃より恭也と悪魔の戦いを見ることに興味が向いてくれればと考え、恭也は何とか相手への文句を飲み込んだ。
「ところで名前聞いてもいいですか?あちこちであなたの話してるんですけど、名前が分からないと説明の時不便で」
「あれ?言ってなかったっけ?ディアンだ。今後ともよろしくな」
目の前の異世界人、改めディアンへの嫌悪感を隠そうともしていない恭也を前にしても、ディアンはその軽薄な態度を全く改めなかった。
それを不快に思った恭也だったが、ディアンを怒らせて街への破壊を優先するなどと言い出されても困る。
そのため恭也も名前ぐらいは教えることにした。
「よろしくするつもりはないですけど、一応名乗っておきます。能恭也です。今すぐは無理ですけど、あなたが殺してきた人たちの受けた苦しみを必ずあなたにも与えてみせます。覚悟しといて下さい」
「ああ、楽しみしてるぜ。俺が作った残りの悪魔との戦いも精々楽しんでくれ」
ディアンがそう言い終わるのと同時に恭也は目玉の悪魔を斬り裂くためにウルの羽を動かし、それを見たディアンが慌てて恭也の攻撃を止めた。
「おいおい、これ作るのも結構手間かかってるんだぜ?こいつには攻撃能力無いんだから見逃してくれよ」
見逃してもらって当然という口調のディアンだったが、恭也はディアンの頼みを切り捨てた。
「知らないみたいだから教えときます。あなたの悪魔が壊した街や建物作るのにも手間がかかってますし、死んだ人はどれだけ手間かけても生き返らないんですよ」
「そりゃ知らなかった。……まあいいや。次にどの悪魔が戦うことになるかは分からねぇけど、まだ時間はかかるだろうからな。今の内に新しいの作っとくぜ」
「勝手にして下さい」
そう言うと恭也はウルの羽を動かして目玉の悪魔を斬り裂いた。
その後『魔法看破』でゾアース周辺に他に異常が無いことを確認した恭也は、かろうじて死体が残っている犠牲者たちを蘇生するためにゾアースへと向かった。
蘇生を行った時点で恭也たちの保有魔力は四人合わせて三万程になってしまったため、もし明日上級悪魔が現れたら抵抗できなかった。
(まいったな。これで明日オルフートに上級悪魔が出たりしたら、僕たち何もできないよ)
(今の内に死体が残らなかった連中の魂吸い取ったらどうだ?どうせ使い道無いんだし)
(……あの能力は使う気無いよ。超えちゃいけない一線ってあると思うし)
ウルは恭也がなぜ魂の吸収をためらっているのか理解できていない様子だったが、それでも恭也が自分の発言で不快な気持ちになったことは伝わってきたためそれ以上何も言わなかった。
(とりあえずホムラをティノリスに帰すよ。死体探しうまくいってる?)
(はい。すでに四体の死体を発見して犯人の身柄を取り押さえていますわ)
(四体?多くない?)
ホムラが現在死体の捜索を行っている街、ハデクは、ティノリス皇国の首都、ノリスを挟んでギズア族の居住区の反対側にある。
そのため恭也はギズア族の死体が見つからない可能性すら考えていたため、ハデクでわずか数日で四体の死体が発見されたというホムラの報告を聞いて驚いた。
しかしホムラの報告にはまだ続きがあった。
(どの死体も損傷が激しいので本当のところは分かりませんけれど、四件中三件で捕まった人間たちは死体がギズア族のものではないと主張してますの)
(ああ、そうか。その可能性があったか)
恭也も『危機察知』を獲得して以来、何度か殺人や傷害の現場を察知することがあった。
嫌な言い方になるが殺人はそれ程珍しい犯罪というわけでもないので、『死体探査』による調査でギズア族以外の死体が発見されることもあるだろう。
ホムラが捕まえた者の中には実際に家族や知人が行方不明になっている者もいるらしいが、とりあえず恭也は発見した死体全員の蘇生が終わるまでは捕まえた者の身柄はこちらで預かっておくようにホムラに伝えた。
その後恭也は、二時間程かけてゾアースにいる負傷者の治療を行った。
しかしがれきの撤去やヘクステラ王国との交渉などを考えるとまだまだ時間がかかりそうだったので、恭也は先にホムラをハデクに送ることにした。
今の状況で『空間転移』二回で二万の魔力を使うのは痛かったが、ホムラがハデクを離れている間に死体を隠していた人間に死体を処分されても困る。
そう考えて恭也はハデクに転移し、問題無くハデクに到着した。
しかしここで思わぬ問題が発生した。
一度の『空間転移』で二万の魔力を消費していたのだ。
慌てて『魔法看破』で自分の体を見た恭也は、大陸から別の大陸に転移する場合は魔力を二万消費することを知った。
道理で転移の途中で変な感覚があったわけだ。
(どうするんだ?今すぐは帰れなくなったわけだけど)
(一日待って帰っても魔力二万か…。しかたないからこっちで二泊してからあっちには戻ろうか)
それでも魔力が五万しかない状況で活動再開することになるが、すでにディアンの送り込んだ悪魔が活動を始めた以上あまりのんびりもしていられなかった。
そう考えた恭也は三人とこれからの予定を相談した。
(ソパスには帰りますの?)
(うん。せっかくだし、今回早く帰って来た分次の帰りは遅くなるかも知れないからね。ノムキナさんには会っておきたい)
(……ノムキナって誰?)
恭也がホムラと今後の予定の詳細について話していると、ランが口を挟んできた。
これまでの恭也たちの会話に何度もノムキナの名は出ていたのだが、ランは本当に恭也たちの話を聞いていなかったようだ。
特に隠すことでもなかったので、恭也はノムキナが自分の恋人だということを伝えた。
(……恋人放っておいて知らない人助けてるの?)
馬鹿にするというより不思議そうに質問してきたランに恭也は自分の考えを正直に伝えた。
(僕、人が死ぬのってほんと嫌なんだよね。前いた世界ではニュースとかもあんまり見ないようにしてたし。で、せっかくこの世界に呼ばれてこんな能力もらったんだから、たくさん人を助けたいと思ってるし、戦争するような人やディアンさんみたいな人は放っておきたくない。ノムキナさんには悪いけどね)
(……分かった。ごしゅじんさまがそうしたいならランもそうする)
ランはこれまでの境遇に関係無くあまり自主性というものがない。
そのためランは恭也の指示に従うつもりだったが、ランはこれまで聞いていた恭也のオルフート及びトーカ王国での振る舞いや先程の上級悪魔との戦いから恭也が好戦的な性格なのだと思っていた。
そのためランは恭也の考えを聞き、表には出さないものの恭也の役に立とうと決意していた。
(とりあえずホムラとランの合体技を実験してその後は死体探し手伝うよ)
今はまだ正午を少し過ぎた頃だったので、宿をとって休むには早かった。
今から飛んで行けば夜になる前にソパスに到着できなくもなかったが、今はノムキナも仕事をがんばっているはずだ。
恭也の人助けも二人での時間もどちらも犠牲にしたくないと言ってくれたノムキナに時間ができたからと突然会いに行くのは失礼だろう。
せめて後数時間ぐらいは何かしたい。
そう考えての恭也の提案だったが、死体の捜索についてはホムラの方から断ってきた。
(せっかくですけれど遠慮しますわ。マスターにその様な雑用をさせるわけにはいきませんもの。それにマスターではなく私が死体を探すことでマスターがいなくても監視の目は緩まないという宣伝になりますもの)
(ああ、なるほど。……そこまで考えてたのか。じゃあ、悪いけどお願い。後これヘーキッサさんたちに渡しといて)
恭也はホムラにオルフートで手に入れた球体型の魔導具を渡した。
その後ホムラとランの融合技を『アルスマグナ』と名付けた恭也たちはその使い道について話し合い、実験の成果数点を持ってホムラがその場を離れてから恭也たちはそれぞれ作業に入った。
ウルは魔導具作りに取り掛かり、恭也は先程の鳥型の上級悪魔との戦いを振り返っていた。
今に思えば結界を強化してから『ミスリア』を使えば、鳥型の上級悪魔の攻撃を防ぎつつ『ミスリア』でじわじわと勝負をつけることができたかも知れない。
何せ新しく手に入れた相手を転移させる能力で鳥型の上級悪魔を飛ばすだけで十三万もの魔力を使ったのだ。
恭也の能力は欲しい内容の能力が手に入ることが多いため、新しい能力を獲得するとそれにすぐ頼るくせが恭也についてしまっていた。
勝手な悩みだとは思うがこの世界には恭也が楽に勝てる相手か苦戦する相手しかいないため、恭也は戦闘経験をうまく積めずにいた。
強敵との戦いも相手の能力が千差万別なためあまり次に活かせず、結局ウルたちがいることによる魔力量での優位を活かした力押しばかりになっていた。
これではこれからの上級悪魔及びディアンとの戦いの最中ですぐに魔力切れになってしまうだろう。
それに先程の上級悪魔との戦いではもう一つ反省点があり、可能なら次の戦いではうまくやりたかった。
本当は能力を合成する能力の実験をもっと行いたいのだが、現状では戦闘以外に魔力を使うのは難しかった。
さっさとディアンを大人しくさせないと、自分の行動が制限されてしまうので早く決着をつけたい。
そう考えながら恭也は、恭也に寄りかかって幸せそうにしているランに視線を向けた。
ランの魔法を使えば金貨や銀貨を量産できるが、さすがにそれを実行する気は無かった。
かといって他にランにして欲しいことがあるわけでもなかったので、恭也はランの好きにさせていた。
恭也の腕を取り自分の腰に抱き着かせてご満悦のランを見ながら恭也はイメージトレーニングを続けた。
一方恭也との話を終えた直後、自分の作った鳥型の上級悪魔が恭也に倒されたというのにディアンは楽しそうに笑っていた。
ディアンが先程まで恭也がいた大陸に送り込んだ上級悪魔四体の内、三体はこの世界の魔法を参考に作り出した悪魔だ。
すでに恭也が倒した光属性の悪魔の他に風属性と土属性の悪魔をディアンは南の大陸に送り込んでいた。
ちなみに恭也がオルルカ教国で倒したアンモナイトの様な上級悪魔が水属性の悪魔で、闇属性の悪魔は制御に失敗したため廃棄した。
火属性の悪魔は他の三十体以上の上級悪魔と共にディアンの本拠地に配置されており、ディアンが今回送り込んだ残りの一体はディアンが攻め落とした国が所有していた上級悪魔由来の魔導具を核にして作った上級悪魔だった。
この上級悪魔と土属性の上級悪魔はかなりお気に入りだったので、ディアンとしてもこの二体とあの恭也とかいう少年との戦いは楽しみだった。
街や国を滅ぼす遊びはこの世界に来て数年で飽きていたので、恭也の様に正義の味方気取りの異世界人が現れたことをディアンは本当に喜んでいた。
ディアンを楽しませてくれるなら街への襲撃を控えるぐらいはわけもなかったが、かといってこのままあの少年の思惑通りというのもおもしろくない。
そう考えたディアンは、それぞれの上級悪魔に同行させている目玉の悪魔を通して上級悪魔の一体に追加である命令を出した。