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合体技

 ゾアースに転移した恭也の目に飛び込んできたのはえぐり取られた建物や地面、そして逃げ惑う住民の姿だった。

 突如として現れた上級悪魔による上空からの攻撃に対し、ゾアースの住民たちはなす術も無く逃げ回っていた。

 より厳密に言うなら彼らは、自分たちの街を破壊している存在がどこにいるかすら把握していなかった。


 今回ゾアースを襲った上級悪魔は光属性の魔導具を中心に作られており、常時姿を魔法で消しているため外からは見えないが体長十メートル、翼長に至っては二十メートルを超える鳥の姿をしていた。

 この鳥型の上級悪魔は体に浴びた太陽光を魔力に変換することができ、これによりいくら暴れても魔力を回復することができた。


「ふざけたもの作ってくれたね。……うっとうしい」


 ゾアースに転移した恭也は上空から何者かが巨大な光線を雨の様に降らしていることは見てすぐに分かったため、何も無い空中に視線を向けて『魔法看破』を発動した。

 そして五階建てのビルぐらいなら難無く飲み込めそうな太さの光線を絶え間無く降らしている上級悪魔の能力を把握した。


『魔法看破』によると目の前の上級悪魔はこの調子で光線を撃ち続けると、魔力の回復が消費に追いつかず後四十分程で攻撃できなくなるらしい。

 この上級悪魔の魔力の上限は十五万で、まともに戦えば恭也も苦戦は免れないだろう。


 しかし数秒毎に建物や地面が人ごと上級悪魔の放つ光線で消えている以上、上級悪魔の魔力切れなど待ってはいられなかった。

 恭也は上空の上級悪魔に向けて『キュメール』を撃ちながら近づいたが、鳥型の上級悪魔は恭也の攻撃を意にも介さなかった。


「面倒な。少しは自分の体にも気を配ってよ」


 恭也のこの鳥型の上級悪魔を気遣ったような発言は、ひたすら多くの人間を殺すように作られている鳥型の上級悪魔が自分に攻撃を仕掛けている恭也に全く攻撃を仕掛けてこないことからきたものだった。


 目の前の上級悪魔が相手となると一分や二分で勝利とはいかず、戦いが長引けば長引く程街への犠牲が増えてしまう。

 敵がかなりの上空にいるので『ミスリア』を使ってもいいのだが、鳥型の上級悪魔は以前『ゴゼロウカ』で倒した上級悪魔と比べて使う魔法や刻まれた刻印が洗練されていた。


 おそらく『ミスリア』を使ってもすぐには倒せず、鳥型の上級悪魔は苦しみながらも光線を振りまき続けるだろう。

 かといって『アビス』やランの『切り札』を使うには敵が地面から離れ過ぎていた。

 とりあえず街への攻撃を防ごうと思った恭也は『隔離空間』を発動したが、上級悪魔の光線は『隔離空間』の障壁をたやすく貫通した。


(こいつの属性が闇か土なら誘導できるんだよね?)

(どうだろ。野生じゃなくて人工のだからな。少しはできるかも知れねぇけど、滅茶苦茶時間かかると思うぞ)


 仮にこの場にホムラを呼び出しても、目の前の上級悪魔の属性の光の魔神がいない以上恭也の質問は無意味なものだった。

 しかしどうにかして鳥型の上級悪魔を街から離さなければ、例え恭也が勝ったとしても街は甚大な被害を受けてしまう。


 そのため恭也は現実逃避気味の質問をしてしまった。

 その直後恭也の近くを鳥型の上級悪魔が放った光線が通過したので、恭也はウルとの融合を解いてウルに『アビス』を発動させた。


 恭也がウルとの融合を解いたのは地面という支えがないため、『アビス』発動のために体を解いたウルを支える存在が必要だったからだ。

 ウルとの融合を解除してもランと融合しているため、恭也はいつもと違い『六大元素』と『精霊支配』による飛行が行えなかった。


 そのため中級悪魔を二体召還して恭也とウルを支えさせたのだが、うまくいかなかった。

 鳥型の上級悪魔が放った光線一発に含まれている魔力は千にも満たなかったので余裕で防げると恭也は考えていたのだが、元々『アビス』はウルのオリジナル技で安定性に乏しいため地上以外での使用は無理があった。

 結局恭也たちの『アビス』による防御は光線をそらすだけの結果となり、その後何度か試したが時間と魔力を無駄にしているといった感じがぬぐえなかった。


(ちっ、このまま時間稼ぎするしかないのか)


 この調子なら今も恭也の目の前で光線をまき散らしている鳥型の上級悪魔が魔力を使い果たすまでそれ程時間はかからないだろう。


(恭也、もう『ミスリア』使った方がましじゃねぇか?)

(でも『ミスリア』同時に二発撃っても意味が無いから、長期戦になっちゃう)


『ミスリア』は相手を傷つけるのではなく侵食する気体を放つ技なので、同時に二発放っても気体が充満する範囲が広がるだけだ。

 そのため強力な個人や個体が相手では連発に意味は無かった。


(そうは言っても他に方法無いだろ?)

(ちょっと待って。今考えてるから)


 ウルの提案を聞きながら恭也は、『能力強化』や『能力合成』でこの状況を打破する方法を必死に考えていた。

 どうにかして目の前の上級悪魔を街から引き離さなくてはと恭也が考えていた時、恭也は久しぶりに他者の死により能力を獲得した。


 対象を相手の意思に関係無く転移させる『強制転移』を獲得し、恭也はこの能力を使えば鳥型の上級悪魔を街から引き離せると喜んだ。

 しかし『強制転移』で対象を転移させるためには発動にかかる魔力一万に加えて転移させる対象の保有魔力分の魔力が必要と知り、恭也は歯噛みした。


 強力な光魔法を連発した結果、鳥型の上級悪魔の保有魔力は十二万程まで減っていた。

 しかし今の恭也たちの魔力は三人合わせても十二万には届かず、今回の戦闘が終わった後の事を考えてためらう以前に『強制転移』の使用自体が不可能だった。


 魔力を回復できる能力があればと恭也が思った時、恭也は死亡直後の人間の魂を吸収して魔力に変える『死霊吸収』を獲得した。

『魔法看破』によるとこの能力は吸収した魂一つにつき百の魔力を回復するらしい。


 この能力で吸収された魂の持ち主はいかなる方法でも蘇生できず、しかも吸収は効果範囲の半径五十メートル以内で無差別に行われる。犠牲者を蘇生できるという事実を支えに何とかここまで持ちこたえてきた恭也にとって、この能力の使用はあり得なかった。


 死者の魂を消費するという能力を獲得してしまい自己嫌悪におちいった恭也だったが、『死霊吸収』の獲得は無駄ではなかった。犠牲者たちの魂を使うぐらいならばと考え、使用をためらっていた手段を取る決意ができたからだ。

 その後恭也がすぐに手元にホムラを呼び寄せると、突然呼び出されたホムラは驚いた様子だった。


(何がありましたの?)

(上級悪魔と戦ってる。詳しい話は後で)


 ホムラとの会話を手短に済ませた恭也はホムラの保有していた九万近い魔力も合わせて使い、鳥型の上級悪魔をゾアースからそれ程離れていない海上へと転移させた。

 恭也としてはもっと離れた場所に鳥型の上級悪魔を転移させたかったのだが、『強制転移』で相手を転移させられる場所が恭也の視界内に限られていたのでしかたがなかった。


 突然先程までいた場所と違う場所に転移させられた鳥型の上級悪魔だったが、あくまでこの上級悪魔はディアンによって作られた存在だ。

 自分の身に起こった出来事に驚くような感情は持ち合わせておらず、ただ機械的に自らの体に仕込まれた命令に従い人間の集まっている場所を襲うだけだった。


 そのため鳥型の上級悪魔は、人間の反応が多くあるゾアースに再び向かおうとした。

 しかしゾアースへの進路上にはすでに転移済みの恭也がおり、恭也は鳥型の上級悪魔に向けてウルとホムラがそろっていないと使えない技を使用した。


 恭也の右手から球体状の黒い炎が産み出され、その炎は恭也に制御されたまま鳥型の上級悪魔の右の翼の中央に命中した。

 すでに何発か『キュメール』を食らっていたため、鳥型の上級悪魔は今度も攻撃を受けた箇所を復元するために傷口に魔力を送り込んだ。


 しかし傷口は一向にふさがらず、それどころか翼の上の炎は燃え広がる一方だった。

 闇の魔神と火の魔神両方を従えていないと使えない技、『インフェルノ』(恭也命名)によって産み出された炎は、通常の物質はもちろん土や水すら焼き尽くし、術者が消そうと思わない限り保有魔力が少ないあらゆる物を焼き尽くす。


 他の魔神でも単体では消すことはできず、異世界人でも持っている能力によっては対処できないだろう。ガーニスの盾で例えるなら、『インフェルノ』一発を相殺しようと思ったらガーニスの盾十五枚が必要になる。


 もちろんこの世界の人間にとっては抵抗のしようが無い技で、『インフェルノ』で産み出した火球を数発撃ち込めば街など一日も持たずに跡形も無く燃え尽きるだろう。

 そんな技を直接翼に撃ち込まれたのだから鳥型の上級悪魔はその対処に追われた。


 いくら魔力を送り込んでも無駄だと判断したのか、鳥型の上級悪魔はすでに半分程焼失した右の翼を根元から切り捨てた。

 その後すぐに鳥型の上級悪魔は魔力を消費して右の翼を復元したが、恭也はそれを見ても慌てることなく切り捨てられた翼にまとわりついていた黒い炎を操って上級悪魔に差し向けた。


 自分の翼を奪った黒い炎が再び迫って来るのを見て、鳥型の上級悪魔は翼を動かして黒い炎に何発も光線を撃ち込んだ。

 しかし魔神や異世界人ですら対処が難しい『インフェルノ』の前にはただ強力な魔法など何の意味も無かった。


 鳥型の上級悪魔の放った光線は『インフェルノ』を打ち消すどころか当たった先から焼き尽くされ、黒い炎が勢いを増すだけの結果になっていた。

『インフェルノ』により産み出された黒い炎の移動速度は、恭也が操ってもそこまで速くない。


 そのため鳥型の上級悪魔が逃走を選んだらまた違った結果になっただろうが、恭也が今戦っているこの上級悪魔はしょせん戦闘力だけ与えられた人工物だ。

 危険に対する判断力は自然発生の中級悪魔にも劣り、結局『インフェルノ』により産み出された黒い炎をまともに食らった鳥型の上級悪魔は二分と持たずに灰となり消滅した。


(ふー、ホムラ、それにウルも助かったよ。『インフェルノ』無しだと長期戦になっちゃって、あの悪魔転移させても意味が無かったから)

(そうですわね。あの悪魔をマスターと私だけで倒そうと思ったら、『ゴゼロウカ』二発でも足りるか分かりませんから、魔力の節約という意味でも『インフェルノ』で倒せてよかったですわ)


『インフェルノ』一回に消費する魔力はわずか五百だ。

 そのため『強制転移』で消費した魔力を考えても、あの鳥型の上級悪魔を短時間で倒せるか分からない魔神たちの切り札を連発するのではなく『インフェルノ』を使ったことで結果的には消費魔力を抑えることができただろう。


 しかし『インフェルノ』にも欠点があった。

 炎を産み出すための魔力はそれ程かからないのだが、炎を消すためには最低五千の魔力を消費するのだ。


 今回は十万以上の魔力を持つ上級悪魔が全力で抵抗したため恭也が消す必要は無かったが、中級悪魔程度に使えば炎を消すために魔力を浪費することになる。

 消費魔力を考えると強敵にしか使えない技だった。


(それにしてもまさかいきなり『インフェルノ』使わないといけない敵に会うとは思わなかったよ)


 ホムラを呼び出してからは正に一方的と言える勝利を収めたにも関わらず、恭也に喜んだ様子は無かった。


(何言ってんだ?恭也が街に気ぃ遣わなければ、俺たちだけでも勝てただろ?)

(街が全滅した場合もこっちの負けだよ。今回だって死体が完全に消えて蘇らせられない人たくさんいるし)


 今回恭也が戦った上級悪魔は、これまで恭也が戦ってきた上級悪魔とは比較にならない火力を持っていた。そのため街に甚大な被害が出ただけでなく死体すら残らずに殺された犠牲者が多数出たため、恭也の怒りはこれまでの比ではなかった。


 しかし可能な限りの蘇生は行おうと考えた恭也だったが、その前にしないといけないことがあった。

 恭也は急ぎ鳥型の上級悪魔が最初にいた場所まで飛んで行き、その後しばらく周囲を探索して以前オルルカ教国でも見た目玉の悪魔を発見した。

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