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新大陸

(しっかし新しい大陸全然見えてこねぇな)


 すでに三時間程は飛んだ頃、全く変わらない光景に飽きたのかウルがぼやき始めた。

 恭也がこれまで活動していた大陸の最南端にある国はネース王国だが、ネース王国は南の大陸との交流は行っていない。


 昔はそうでもなかったらしいが、奴隷をさらうだけならセザキア王国やクノン王国で事足りるため徐々に交流が途絶えたらしい。

 そして南の大陸の住民たちもわざわざ奴隷商人がいる場所までは来ず、今は完全に交流が途絶えているらしい。


(まっすぐ進んでるんだからその内何か見えてくるでしょ)

(だといいけどな)


 魔神の主と魔神は、離れていてもお互いの位置をある程度把握できる。

 それを利用して恭也はホムラの現在位置を参考にして進んでおり、文字通りまっすぐ進んでいるはずだった。

 その後も恭也はひたすら飛び続け、そして日も傾き始めた頃に恭也の目に大陸の影らしきものが映った。


(やれやれ、こんなにかかるとは思わなかったよ)

(ま、一度来れば次からはあっと言う間なんだからいいじゃねぇか)

(…そうだね。何も起きてなかったら眷属をばらまいて、その後で街に行こうか)


 今回恭也が大陸を訪れた一番の目的は、もちろんあの異世界人が送り込んだ上級悪魔への対処だ。

しかし他にも転移するための拠点を用意したいし、情報収集のためにホムラの眷属五体をばらまくつもりだった。

 大陸に着くなり『惨劇察知』が四ヶ所で発動などということにならないことを祈りつつ、恭也は大陸へと入った。

 残念ながら恭也が大陸に入った途端『惨劇察知』が二ヶ所を対象に発動した。


(ちっ、やっぱもう暴れてたか)


 魔力の全快を待っていたのだからしかたないのだが、自分の到着が遅れたことに恭也は思わず舌打ちをしてしまった。

 上級悪魔四体の内、まだ二体しかこの大陸に到着していないのがせめてもの救いだった。


 数時間に及ぶ飛行で疲れていたので、本格的な活動は明日からにするつもりだったがしかたがない。

 一度死んで疲労を取り除いた恭也は急いで『格納庫』から眷属五体を取り出すと、眷属たちを通してホムラに適当に散らばって情報を集めるように命じてから『惨劇察知』が発動した場所へと転移した。


 恭也が転移した先ではそれぞれ数千を超える兵士同士が戦っており、すでに多くの死体が地面に転がっていた。

 上級悪魔による大量殺戮を想像していた恭也は、変な言い方になるが普通の戦争を目撃して一瞬戸惑ってしまった。


しかしそれでも死者が出ていることには変わりなかったので、即座にウルの魔法でこの場の兵士全員を洗脳してそれぞれの国に帰るように命じた。

 対象が大勢のため洗脳自体は数分で解けてしまうだろうが、それぞれの国に帰ろうとして両軍が別れたところに恭也が割って入るつもりだったので問題無かった。


 しかし一万近い魔力を使って広範囲に洗脳魔法を使った直後、恭也にとって予想外のことが起こった。

 片方の軍隊の前線にいる一部の兵士たちの洗脳がすぐに解け、洗脳された影響で無防備に背中を見せて逃げ出していた敵軍に攻撃を加えたのだ。


 しかも攻撃を加えた軍の前列には悪魔らしき存在の姿も見えた。

 悪魔の召還は技術自体は確立しているが効率が悪く、戦争で使われることはまずないと恭也は聞いていたため大変驚いた。


 目の前の異常の原因を探るために恭也は『魔法看破』を発動した。

 その結果恭也の洗脳の影響下からすぐに逃れた兵士たち全員の左わき腹に魔導具らしきものが埋め込まれていることが分かった。

 この魔導具は異世界人の能力を受信するもので、『魔法看破』によると遠く離れた場所にいる異世界人の治癒能力を兵士たちが受けられるようにしているらしい。


「…いきなり異世界人が敵か」


 戦争を行っている国の兵士に能力を与えている時点で目の前の兵士たちに加担している異世界人は恭也の敵だった。

 後で必ず報いは受けさせてみせると怒りを燃やしつつ、とりあえず恭也は目の前の戦闘を終わらせることにした。

 異世界人の支援を受けた兵士と悪魔の混合部隊を『隔離空間』で覆った恭也は、火属性の魔導具で敵を焼き払っていた軍の司令官らしき男に話しかけた。



「あなたがこの軍の司令官ってことでいいですか?」


 黒い羽を広げながら男の前に降り立った恭也を見て、男が口を開いた。


「その黒い羽に俺たちを覆うこの壁。貴様がティノリスで暴れたという死を食らう異世界人か」


 仰々しい呼び方はともかく自分のことがすでに知られていたことに恭也は驚いた。

 しかしそれなら話が早いと思い直し、恭也は男に軍を引くように言った。


「僕のこと知ってるなら話は早いです。異世界人の力借りてるみたいですけど、本人ならともかく力借りてるだけのあなたたちじゃ僕には勝てませんよ?大人しく帰ってくれませんか?」


 羽を動かして恭也なりに威嚇しながら男に軍を退けるように頼んだのだが、男は恭也の発言を鼻で笑った。


「ふん。異世界人がどうしたというのだ。我らオルフートにとっては異世界人も魔神も道具に過ぎん。貴様の魔力も無限というわけではあるまい?こいつらを相手にどこまで持つかな?」


 そう言うと神聖国オルフートの将軍の一人、ガオルは周囲の悪魔たちに恭也を襲わせた。

 恭也だけならともかく異世界人そのものを道具呼ばわりしたガオルの発言を聞き、疑問を抱いた恭也だったがさすがに今は悪魔への対処が先だった。


 先程『魔法看破』で見たところ、この悪魔たちは保有魔力千というこの世界の存在としては破格の魔力量を持っていた。

 衝撃波を飛ばす程度だが魔法も行使でき、五メートル程の巨体も相まってこの世界の兵士たちでは相手にならないだろう。

 そんな悪魔が同時に五十体も襲ってきたため、恭也は思わずため息をついた。


(ウル、『アビス』使えば一発だけど、あの人たち巻き込みたくないし別れて相手しようか?)

(りょーかい。どっちがたくさん倒せるか競争な)

(うん。まだ兵士には攻撃当てないでね)


 ウルと簡単な打ち合わせをした恭也は、ウルと分離すると自分に襲い掛かる悪魔たちに風の精霊魔法を発動した。

 恭也によってオルフート製の悪魔を軽く飲み込む大きさの竜巻が作り出され、悪魔たちの体を次々に削っていった。


「ば、馬鹿な!どうして異世界人があれ程の魔法を……」


 恭也の魔法を見て驚愕するガオルの声が聞こえてきたが、今の恭也にガオルを相手にしている暇など無かった。

 次々に竜巻やミーシアの『サイアード』の風の刃に匹敵する攻撃を繰り出し、恭也はオルフート製の悪魔たちを次々に倒していった。


 恭也が悪魔を十体程倒した時点でオルフートの兵士たちが恭也目掛けて魔法を放ってきたが、魔神が使う魔法でもない限り今の恭也に魔法は通用しない。

 それどころか流れ弾で悪魔たちが傷を負っていた。

 恭也が危な気無く悪魔たちを倒していた一方、ウルも悪魔たちを相手に思う存分遊んでいた。


「ほらほら、どうした、どうした!俺魔法も使わないでやってるんだぞ?ちったぁ楽しませてくれよ!」


 そう言うとウルは正面にいた悪魔の腹部に拳を叩き込んだ。

 ウルたち魔神が怪力といっても精々片手で百キログラムの物を持ち上げるのが限界だ。

 そのためウルの拳をまともに食らっても悪魔が吹き飛ぶということはなかった。

 ウルとしても攻撃というより久々に自分が殴っても死なない存在を相手に遊んでいるという感覚だった。


「あれ、でも流石に十体ぐらいは倒しといた方がいいか?」


 悪魔をサンドバックにする傍らで恭也が次々に悪魔を倒していくところを見て、ウルはとりあえず悪魔十五体を羽で斬り刻んで消滅させてから再び悪魔を殴り始めた。

 ただの中級悪魔ですら打撃のみで倒すのは時間がかかる。


 その数倍の魔力を持つオルフート製の悪魔の耐久力は、通常の中級悪魔とは比較にならない程高かった。

 しかしウルの腕力も並ではなく、それに縦横無尽に飛び回っての加速が加わるのだ。

 結局五分もかからずにウルに殴られ続けた悪魔は消滅した。


「少しは満足した?」


 自分から言い出した競争も忘れ、無駄な手間をかけて悪魔を倒したウルを後ろから見ていた恭也は呆れていることを隠そうともしていない顔でそう尋ねた。

 そんな恭也の態度を見てもウルに悪びれた様子は無かった。


「殴り応えはまあまあだったな。後はもう少し反撃してくれれば言う事無かったんだけど、異世界人の前座としては悪くなかったかな」

「あっそ、悪いけどウルが言うとこの前座まだ終わってないから、後は手っ取り早く終わらせるよ」


 そもそもこの大陸に来た直後に発動した『惨劇察知』によるとこの場所と同じ様な戦場がもう一ヶ所あるのだ。

 これ以上時間をかけてはいられなかった。


 ウルと融合した恭也はガオルの前に立ち、投降を呼びかけた。

 魔神とたった二人で自分たちの切り札の悪魔たちを倒した恭也を前にし、ガオルは自分が恐怖していることに気づいた。


 しかしガオルの後ろには国から預けられた兵五千人がおり、彼らの前で自分が醜態を晒すなどできるはずがなかった。

 それに今もう一つの戦場ではオルフート最強の将軍が隣国、トーカ王国の軍を相手に活躍しているはずだ。


 自分たちの連れてきた悪魔相手にあれだけの大立ち回りをしたのだから、目の前の異世界人はかなり魔力を消耗しているはずだ。

 勝機は今しかない。


 そう考えたガオルは手にしていた火属性の大砲型魔導具、『パーマオス』を恭也目掛けて撃ち出した。

 他国の魔導具と比較して倍以上の威力を誇る『パーマオス』を食らえば、異世界人といえどもただではすまないはずだ。


 オルフートは規模や数はそれ程ではないが、年に何度かティノリス皇国の北部の街で情報集を行っていた。

 そして一ヶ月前に持ち帰られた情報を聞いていたガオルは、目の前の異世界人が殺されても蘇るということを知っていた。


 それならば蘇ったそばから殺し続けるだけだとガオルは考え、『パーマオス』の引き金を引き続けた。

 もっとも恭也がその気になれば復活の間を一時間あけられるため、絶え間なく殺し続けるというガオルの策は最初から成立していなかった。


 そしてそもそもガオルは今回恭也を一度も殺せてはいなかった。

 ガオルが『パーマオス』を恭也目掛けて撃ち出してから数秒後、『パーマオス』から放たれていた炎が突如逆流してガオルに襲い掛かった。


「おい!何をしている!水だ!早く水をかけろ!」


 突然の事態に驚き体を焼かれる痛みにもがきながらも、ガオルは周囲の部下に水で火を消すように命じた。

 ガオルの命令を受けた部下たちが慌てて魔法で生み出した水で消火を行おうとしたが、それはガオルにまとわりつく炎から火球が撃ち出されたことで妨害された。


「僕がいなくなったことに気がついてなかったんですか?」


 ガオルにまとわりついている炎から声が聞こえたことでガオルはもちろん周囲の兵士たちも驚きに動きを止めた。


「ま、もう一ヶ所にも行かないといけないんでこれぐらいにしておきましょうか」


 そう言うと恭也は『炎化』を解除してガオルから離れた。

『炎化』を発動していた恭也がガオルから離れると、異世界人の能力によりガオルの体はすぐに回復した。

 しかし衣服までは復元されず、恭也の前には全裸のガオルが立っていた。


(うわ、悪いことしたな)


 恭也が死者を蘇生する場合は衣服も復元されるためこの状況は想定していなかった。

 慌てて恭也は『格納庫』から衣服を取り出してガオルに渡した。

 筋骨隆々のガオルに恭也の服はきついようだったが、さすがにそこまで面倒は見ていられない。


 恭也はガオルが服を着終わると、すぐにウルの羽でガオルのわき腹をえぐり異世界人の能力を受信している魔導具を取り出した。

 その後すぐにガオルの傷を治した恭也は、ガオルから取り出した魔導具を手に取った。


 異世界人の能力を受信する魔導具は恭也にとって大変興味深い物だったからだ。

 しかしガオルから取り出した魔導具は当然ながら血まみれで、わずかながら肉片もついていた。

 魔導具を手に取ったことを後悔した恭也は、すぐに『格納庫』から水と布を取り出して手をぬぐった。


 この場にいた兵士の内、異世界人の能力を受信する魔導具を体内に埋め込まれていた兵士はガオルを含めて五十人だけだったので、彼ら全員からその魔導具を摘出すると恭也はそれらを全て『キュメール』で消した。


 恭也はもう一つの戦場も収めたらオルフート本国にも乗り込むつもりだったので、この魔導具はそこでも手に入るだろう。

 そう考えた恭也はガオルを洗脳してもう一つの戦場にいるオルフートの兵士の情報、それにオルフートの持つ上級悪魔由来の魔導具の能力やオルフートにいる異世界人について聞き出した。


 ガオルから聞き出した情報には恭也を不快にさせる情報も含まれていたが、オルフートの面々に制裁を加えるのは状況が落ち着いてからだ。

 その後恭也は時間をかけてオルフートの兵士全員を『埋葬』で埋め、その後ガオルを含む数人に『不朽刻印』を刻んだ。


 その後恭也はトーカ王国側の犠牲者を蘇生させると、トーカ王国の軍の指揮官にこの場は引き下がるように頼んだ。

 埋められているオルフートの兵士たちに近づいたら容赦はしないとトーカ王国側に伝えた恭也は、新大陸に来て早々八万近い魔力を消費させられたことを嘆きながらもう一つの戦場へ転移した。

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