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 何度か『死体探査』を発動しながらノムキナを伴って恭也がたどり着いた場所は、路地裏を進んだ場所にあるいわゆる夜の店だった。

 今は午後二時頃だったので当然店はやっておらず、店の中からも物音はしなかった。


 しかし店の中に死体があると分かっている以上、ここで帰るわけにもいかない。

 そう考えた恭也が店の裏口に回ると、大柄な男がちょうど裏口から出てきたため恭也は男に事情を聞こうとした。

 しかしそれより早く男が口を開いた。


「あん?何だ兄ちゃん?ここらは女連れで来るような場所じゃねぇぞ。そもそも今は営業時間じゃねぇ。けがしない内に帰りな」


 ティノリス皇国の夜の店の従業員らしき男のこの態度、しかも店内にある死体は三体。

 この時点で店内の死体が事件性が高いと恭也は考えていたが、万が一ということがある。

 店の準備中だった従業員が何らかの事故で死んだという可能性もあったので、恭也は一応確認してみることにした。


「この店の中に死体がありますよね。事故でもありましたか?」


 恭也がこの質問をした瞬間、男の態度が一変した。


「おい、兄ちゃん。妙な言いがかりつけると容赦しねぇぞ。これで最後だ。とっとと帰れ」


 恭也の服の首元をつかんでにらみつけてきた男にノムキナが怯えるのを見て、恭也は男にいつも通り『情報伝播』を発動した。

 いきなり苦しみ始めた男を見て驚くノムキナを横目に恭也は、万が一のために預かっていたホムラの眷属二体を『格納庫』から取り出した。



「あら、何かありましたの?」

 突然『格納庫』から眷属が出されたことに戸惑うホムラに恭也は現状を説明した。


「なるほど、…間が悪いですわね」

「…まあね。すみません」


 ホムラの発言に同意した後で、恭也はノムキナに謝った。

 まさか軽い気持ちで発動した『死体探査』がこんな結果になるとは思っていなかった。

 死者を三人救えたのだから間違ったことをしたとは思っていないが、それでもノムキナとしては複雑だろう。

 そう考えていた恭也にノムキナが話しかけてきた。


「ここで待ってるので行って下さい。もちろんデートが駄目になったのは残念でしたけど、恭也さんと付き合うことになった時点でこういうことは覚悟してました。私は恭也さんの人助けも二人の時間もどっちも犠牲にしたいとは思ってません。デートはまた今度しましょう」


 そう言って恭也に笑いかけたノムキナに恭也は礼を言った。


「ありがとうございます。そんなに時間はかからないと思います。ホムラ、僕が店入ってる間ノムキナさんのことお願い」

「お任せくださいまし」


 今回恭也が連れて来たホムラの眷属は、召還時にホムラが魔力を三百注ぎ込んだ強化版だ。

 透明になることはできなくなったが、それと引き換えに中級悪魔二体までなら軽く倒せる戦闘力を持っている。


 万が一の護衛としては正直過剰戦力だったが、意思があるウルやホムラでは『格納庫』には入れない。かといって二人を伴ってのデートはさすがに恭也もノムキナも嫌だったので、しかたなくいざという時は試験も兼ねて召還するつもりでこの眷属を持参した。


 ホムラの眷属二体にノムキナを任せた恭也は、男を伴って店内へと入った。

『死体探査』はあまり近づき過ぎると場所が分からないため、恭也は男に死体のありかまで案内させるつもりだった。


 男に案内されてカウンターの奥に入り口があるという地下室に恭也が向かおうとした時、男がカウンターに隠していた魔導具で恭也に攻撃を仕掛けてきた。

 二発の風の刃が恭也を襲い、驚いた恭也が動きを止めた隙に男は表の出入口から逃げ出そうとした。

 しかし店に入った時点で恭也が『隔離空間』を発動していたため男は外に出られず、何が起こっているのか理解できずにいた男に恭也は声をかけた。


「僕闇魔法での洗脳もできるんで洗脳して欲しいって言うならそうしますよ?それともさっきの痛み一時間ぐらい味わってみますか?」


 男は『情報伝播』による得体の知れない攻撃を受けた時点で恭也の正体には気づいていた。

 そのため恭也に勝てるなどとは全く考えておらず、男は不意打ち後すぐに逃げるつもりだった。

 しかし不意打ちは失敗に終わり、攻撃を受けたはずの異世界人が無傷な上に自分に怒りすら向けていないのを見て男は抵抗を止めた。


 その後壁の中から発見された死体を恭也が蘇らせたところ、三人共ギズア族の少女だった。

 恭也が事情を聞いたところ白骨化していた二人は過労死したところを壁に埋められ、比較的きれいな死体だった少女は恭也がティノリス皇国を制圧した直後に逮捕を恐れた男により殺されて埋められたらしい。


 三人目の少女が殺された経緯を聞いた恭也はつい最近終わったと思っていたティノリス皇国全土でのギズア族救出に手抜かりがあったことを知り、怒りと疲れが入り混じったため息をついた。

 とりあえず今回捕まえた男はノリスの刑務所行きで、財産は告知していた通り恭也が全て没収した。

 その後恭也はノムキナと男、そして少女たちを連れてソパスに帰り、ホムラの眷属に男の連行と少女たちのギズア族の居住地までの護衛を命じるとウルとホムラを呼んで今後の予定を伝えた。


「今回みたいにギズア族を殺してその死体を隠してる人、さすがに多くはないだろうけどティノリス中にそれなりの数いると思うんだよね。だから死体探す能力をホムラに貸すから、悪いんだけどとりあえずハデクとその先のシウガーズでの死体探しをお願い」

「つまり南の大陸行きは延期するんですわね?」


『死体探査』はそこまで魔力消費が大きい能力ではないが、それでも何時間も使用したら眷属ではすぐに魔力がなくなってしまうだろう。

 面倒ではあったがこんな長時間の雑用を主人である恭也にさせるわけにもいかなかったので、恭也の指示自体にはホムラも文句は無かった。

 しかし続いて恭也が口にした予定は、ホムラにとって受け入れ難いものだった。


「いや、南の大陸には僕とウルだけで行くつもりだよ。さすがにこれ以上は伸ばせない。相手が上級悪魔だと一日の遅れで犠牲者の数が段違いになっちゃうから」


 恭也の発言から一瞬の間が空き、その後ホムラが声をあげた。


「お待ち下さいまし!マスターとウルさんだけでは危険ですわ!上級悪魔だけでなく、マスターやガーニス様と同格の異世界人が二人いますのよ?もしこの二人が魔神と契約していたら、マスターとウルさんだけでは万が一のことがありますわ!」


 ホムラが置いて行かれるということを差し引いても恭也の提案は危険過ぎた。

 しかし興奮するホムラとは対照的に恭也は落ち着いたものだった。


「もしその二人の異世界人がどっちも悪人だったとしても、最悪逃げるだけならワープでどうにでもなるから大丈夫だよ。それに大陸にたった二人だよ?暴れてない限りこっちから手出す気無いし、今回会うかどうかすら怪しいと思うけど」


 恭也の発言を聞き、ホムラはしばらく考え込んだ。

 確かに恭也の言う通り恭也がガーニスと出会ったのが恭也がこの世界に来てから二ヶ月以上経ってからだったことを考えると、十日程の今回の訪問で恭也が別の異世界人と会う可能性は低い。

 それに恭也なら逃げるだけならどうにでもなるということもその通りだった。


「分かりましたわ。これ以上話してもマスターは意見を変えないでしょうし、それにマスターの言うことも一理ありますもの」


 ホムラは南の大陸の異世界人が民衆を虐げるような人物だったら勝算が薄くても恭也が絶対に逃げないということも、『空間転移』による逃走の多用は相手のこちらの大陸への侵攻を誘発するので恭也が避けたがっていることも理解していた。

 しかしそれをホムラが指摘しても恭也が折れる気が無い以上結局無駄だった。

 ホムラはこれ見よがしにため息をつくと一度だけ恭也に釘を刺した。


「今マスターに何かあったら、例の異世界人が何もしなくてもこの大陸は混乱に陥りますわ。ノムキナ様も悲しみますし、危ない真似は慎んで下さいまし」

「…別に死にたいわけじゃないから大丈夫だよ。さっきも言ったけど上級悪魔はともかく、異世界人にはこっちから手を出す気無いし。新しい魔神の仲間期待してて」


 全く納得していないことを隠そうともしていないホムラの視線を受け、ひきつった笑顔を浮かべながら恭也は何とか虚勢を張った。


 そして『死体探査』をきっかけとした騒動の翌日、ノムキナに見送られた恭也は、ウルとホムラを連れてノリスに来ていた。

 ここからはホムラと別行動になるため、三人は最後の確認を行うことにした。


「じゃあ、とりあえず僕があっち行ってる間にハデクとシウガーズの方はお願いね。十日で街二つって厳しいかな?」

「人海戦術が使えないのでかなり時間はかかると思いますわ」

「まあ最悪時間はいくらかかってもいいから、取りこぼしだけは無いように気をつけてね」

「はい。マスターの指示に従わなかった愚か者共を一人残らず捕えてみせますわ」

「…程々にね」


 恭也としては犠牲者の救出が主な目的だったのだが、ホムラは死体を隠している人間への制裁を主な目的としている様子だった。

 もちろん恭也としても自分の誘拐を隠すために殺人を行った人物を許す気は無く、ホムラには捕まえた人間には殺さなければ何をしてもいいと伝えてあった。


「じゃ、死体探しがんばれよ」


 うまく面倒な仕事から逃れることができたと思い上機嫌のウルを見て、恭也はウルの勘違いを正した。


「帰って来たら今度はウルに死体探ししてもらうつもりだからね?」

「えっ、まじかよ?」

「当たり前じゃん。と言うよりティノリス全部ホムラにやらせる気だったの?」

「いや、だってめんどくせぇし…」


 完全に他人事だと思っていたところに話を振られ、ウルは露骨に面倒そうにしていた。


「大抵の仕事はホムラの眷属に任せられるけど、こればっかりは誰か一人が地道にやるしかないからしかたないよ」

「あー、めんどくせぇ。あっちの大陸で魔神仲間にしてそいつにやらせようぜ」

「もし魔神仲間にできたとしても、次はウルの番だからあきらめて」


 命じている恭也が言っても説得力が無いだろうが、入ってすぐの仕事が死体探しはその魔神も嫌だろう。

 今も渋るウルを無理矢理融合して黙らせた恭也は、ホムラの後ろに控えていたギルドの職員二人に声をかけた。


「死体たくさん見ることになりますし、相手によっては危険な目に遭うかも知れませんけどよろしくお願いします」


 今回の捜索で発見される予定の死体はさすがに一々蘇生しては魔力がいくらあっても足りないので、街ごとにまとめて蘇生する予定だった。

 彼ら二人は発見した死体を凍らせるために今回ホムラに同行することになっていた。


「じゃあ、そろそろ行くね。できればウルのために今回の作業の手順みたいなのまとめといてくれると助かる」

「かしこまりました。こちらの心配はなさらずに安心してお出かけ下さいませ」


 こうしてホムラとギルド職員二人に見送られ、恭也はノリスを出発して空路で北を目指した。


 そして数時間後、恭也はティノリス皇国最北端の街、ツィルバにいた。

 最初恭也はネース王国から南下して別の大陸に行こうと考えていたのだが、ホムラにティノリス皇国から北上しても大差無いのではと言われてそうすることにした。


 まさかこの世界が亀の背中に乗っているということはないだろうし、わざわざネース王国まで転移するのも魔力がもったいない。

 ツィルバで一泊した恭也は、朝一番でティノリス皇国を離れてひたすら北へと向かった。

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