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王暗殺

 評価・ブックマークありがとうございます。

 読んでもらえてるのか不安だったので、励みになりました。

 恭也たちがオルルカ教国でゲルドンスたちと初めての会談を行った翌日、オルルカ教国に異世界人が上級悪魔を送り込んだ件に恭也が手を取られていると聞き、セザキア王国第一王子、オーガスはかねてから計画していた父ザウゼンの暗殺を決行することにした。


 オルルカ教国での出来事をオーガスに知らせてくれたキスア伯爵もいつ顔を出すか分からない異世界人が他国に気を取られている今が絶好の機会だと言ってくれた。

 心待ちにしていたミーシアの帰還からわずか数日でおあつらえ向きの機会が来たことを受け、オーガスは天が自分に味方しているとさえ思った。


 短剣を懐に忍ばせたオーガスは、はやる気持ちを抑えて普段通りの態度を心がけてザウゼンの部屋へと向かった。

 今ならザウゼンが部屋に一人でいることは確認済みで、今日ザウゼンの部屋の前に立っている兵士はすでに買収済みだった。


 ここ最近は一週間の内少なくとも三日はオーガス側の兵士が見張りに立っている日だったので、ザウゼンを暗殺する日はオーガスたちがかなり自由に選べた。

 緊張した面持ちでザウゼンの部屋に前まで来たオーガスは、兵士と一度目配せをすると部屋に入った。


「何事だ、オーガス?いきなり部屋に入って来るとは」


 扉を叩くこともせずにいきなり部屋に入って来た息子を見て、ザウゼンは怒るというより戸惑っている様だった。

 オーガスはそんなザウゼンに入室の口実に用意した書類を見せながら近づいた。


「父上、これを見ていただきたいのですが」

「うん?何だそれは、がっ、」


 全く警戒せずに机の上に広げられた書類を見ようとしたザウゼンは、オーガスの持っていた短刀で首を斬り裂かれた。


「なっ、なぜ…」


 そう言いながら床に倒れたザウゼンを見ながらオーガスは、わずかに震えながらも口を開いた。


「父上が悪いのです。得体の知れない異世界人共に心を許すなど、王族として恥ずべき行いです。我が国はオルルカの様にはさせません。どうか私のすることを見守っていて下さい」


 それだけ言うとオーガスは、ザウゼンの首を斬り裂いた短刀を袋にしまった。

 恭也の『危機察知』はセザキア王国の王族や一部の貴族には知れ渡っていた。

 そのためオーガスは『危機察知』で恭也がこの場に現れることを警戒していたのだが、そうならなかったことに安堵しながら大声をあげた。


「大変だ!医者を呼べ!父上が、父上が!」


 オーガスの叫びを聞き、周囲にいた使用人や城を訪れていた貴族たちが一斉にザウゼンの部屋に集まった。

 その後部屋の中で倒れるザウゼンを見た人々で周囲は騒然となり、オーガスはその騒ぎの中協力者の兵士に短刀が入った袋を渡した。


 それから十分も経たない内にザウゼンの部屋の前に立っていた兵士の『オーガスが部屋を訪れる直前にザウゼンがミーシアに会っていた』という証言からミーシアの身柄が拘束された。


「お待ち下さい!これは何かの間違いです!私は部屋で一人で仕事を、」


 突然ザウゼンが殺されたと聞かされ、その上自分がザウゼン殺害の犯人とされたミーシアは身の潔白を主張したがオーガスは取り合わなかった。


「黙れ!貴様の部屋から父上殺害に使われたと思われる凶器が発見された!それに私が父上の部屋を訪れる直前に貴様が父上の部屋から出て来たところを見た者が何人もいる!言い逃れはできぬぞ!」


 騎士団の幹部数人の協力を受け、オーガスはミーシアがここ数日の間午前中は自分の部屋で仕事をする様に仕向けていた。

 そのためミーシアの無実を証明できる人間は一人もいなかった。


「これまで父上から多大な恩を受けながら、それをこんな形で返すとは!オルルカの件と言い、あの異世界人と何やらたくらみでもしたか?この女を牢に連れて行け!」

「そんな…」


 突然のことに顔を青ざめながら兵士たちに連行されようとしているミーシアの様子を見て、オーガスは笑いをこらえるのに必死だった。

 証人、物証共にミーシアに不利な物しか無く、その上ミーシアがかけられるであろう裁判を担当する裁判官はすでオーガスの協力者だ。


 もはや大勢は決しており、後はあの異世界人の少年がこの騒ぎを聞きつける前にザウゼンの死体を焼くだけだった。

 恭也が死者を蘇らせることができるというのはすでに周辺各国に知れ渡っており、オーガスたちにとってこれが一番の問題だった。


 ザウゼンが蘇ったら今回のオーガスたちの計画など一気に瓦解してしまう。

 オーガスたちは死体の損傷が激しいという理由ですぐにザウゼンの死体を火葬するつもりだった。もちろん後で恭也の手でザウゼンを蘇生させればよかったと言い出す者もいるだろうが、オーガスが国王にさえなればどうにかなる。


 すでに国内の貴族の四分の一がオーガスに協力しているのだから、オルルカ教国で起こったという事件と今回のミーシアによるザウゼン殺害を関連付けてあの異世界人の介入をはねのけることだってそう難しくはないはずだ。


 とにかく今は、一刻も早くザウゼンの死体を処分しなくては。

 オーガスの頭にはそれしかなかった。

 そんな時、オーガスの耳にある人物の声が届いた。



「もういい。そこまでだ」



 突如として聞こえてきた声にオーガスが慌てて振り向くと、そこにはザウゼンが立っていた。

 さらにザウゼンの後ろには例の異世界人の少年もおり、オーガスの顔は一気に青ざめた。


「父上、な、なぜ…?」


 ザウゼンが恭也に蘇生させられることをオーガスは何より恐れており、そのためザウゼンの死体は魔導具で装備した兵士数十人に守らせていた。

 仮にザウゼンの死体が奪われたとしても、その場合はすぐにオーガスに連絡が入る手はずになっていた。


 それなのにオーガスは何の知らせも受けていない。

 何が起こっているのか全く理解できずに棒立ちになっていたオーガスの前でザウゼンが周囲の兵士や貴族たちに説明を始めた。


「まずは今回オーガスがこの様な騒ぎを引き起こしたことを謝らなくてはな。先程私を殺したのはミーシアではない。オーガスだ」


 このザウゼンの発言を受け、周囲の人々は騒然となった。

 その様子を見たザウゼンは何人かの貴族たちに視線を向けると、不快そうにため息をついた。


「パクス侯爵、ハイズ子爵、白々しい演技は止めよ。貴公たちがオーガスの企てに協力していたことは調べがついている」


 さもオーガスの凶行に驚いているといった表情を浮かべていた貴族たちは、ザウゼンに名指しでオーガスとの関連を指摘されて内心動揺した。

 しかしそこは海千山千の貴族たちだ。

 そんな動揺は全く表情に出さず、心外だという表情でザウゼンに反論した。


「陛下が何をおっしゃっているのか分かりません。オーガス様がこの様なことをされたのは驚きましたが、我々は無関係です」

「そうか。ではこれがどういうことなのか説明してくれるか」


 そう言ってザウゼンは、貴族二人に一枚の書類を渡した。

 冷静な表情を取り繕っていた貴族たちだったが、その書類を見た瞬間顔をこわばらせた。

 その書類には今回の計画のために二人が出資した金の額と渡した相手、日時までが細かく記載されていたからだ。


「どうしてこんなものが…」


 パクス侯爵もハイズ子爵もザウゼンの追及に対し、ある程度は切り抜ける自信があった。

 買収等にかかる諸費用についてはオーガスに賛同した貴族たちが分担して出したが、金のやり取りはいかなる機関も通さずに貴族同士の手渡しで行っていたからだ。


 もちろん実際運んだのは貴族の部下たちだが、部下たちは運んだ物が何かも知らされていなかった。外部から彼らの金の流れを知るなど不可能なはずだ。

 それにも関わらず彼らが今見ている書類には、さすがに全てではないが彼らのしたことが事細かに記載されていた。


 さらに書類の最後に今回オーガスに協力した貴族全ての名前が記載されているとあっては、彼らもこれ以上反論はできなかった。

 その後ザウゼンの指示により兵士数十人が入って来て、突然のことに戸惑っているミーシアを残して貴族や兵士数十人を連行した。


 確実に信頼できる兵士があまりいなかったため、今回の連行にはホムラの眷属も協力した。

 この後すぐに開始される予定のオーガスの協力者の逮捕は、容疑者に軍や騎士団の者が多く含まれていた。


 そのためセザキア王国の人員だけの容疑者の逮捕が困難なため、今回のためだけにホムラの眷属百五十体が動員され、ここでの話が終わったら恭也も参加する予定だった。

 恭也までクーデターへの賛同者の逮捕に参加することにホムラは難色を示したが、こんなことに眷属の大多数をいつまでも使いたくないという恭也の意見を聞き渋々承諾した。


「今回は驚かしてしまいすまなかったな。お前は態度に出やすいので、こちらの動きがオーガスたちに知られないように黙っていたのだ」

「いえ、陛下がご無事ならそれで…」


 周囲の会話からようやく現状を悟ったらしいミーシアはまだ動揺しながらも恭也に礼を言い、そのままザウゼンの背後へと移動した。

 その後自分の協力者全員が連行され、残っていた人々も去った室内でもはや蒼白と言ってもいい程の青ざめていたオーガスにザウゼンが声をかけた。


「愚か者が。これから恭也殿だけでなく周辺の国々とも協力して異世界人との侵略に対抗しなくてはいけない時にこんな馬鹿なことをしでかしおって」


 怒っていると言うより残念に思っているといった感じのザウゼンの言葉を受け、オーガスは口を開いた。


「どうして我々の計画がばれたのですか?今回の計画で裏切り者など出るはずが…」


 実際今回の計画にあたってオーガスは、万が一にも裏切り者が出ないように協力を申し出た貴族にはかなり気を遣った。

 態度も極力横柄にならないように気を配り、自分が王位についた際の報酬もかなり奮発した。


 協力者全員が得をするように計画したというのになぜばれたのか。

 先程からオーガスの頭の中はその疑問でいっぱいだった。

 そんなオーガスの質問を受け、ザウゼンは恭也に視線を向けた。


「私も恭也殿から話を聞いただけで、その辺りのことはよく分かっていないのだ。恭也殿、説明を頼めるか?」

「はい。じゃあ、ホムラ、説明お願い」


 そう言われて恭也に融合を解かれたホムラは、説明を始める前に一人の人物を部屋へと招いた。

 ホムラの眷属に連れて来られる形で現れたその人物は、キスア伯爵だった。

 まず間違いなく今回の件で逮捕されるはずのキスア伯爵がこの場に現れたことで、オーガスは裏切り者が誰なのか悟った。

 しかしそれでも信じられなかったのか、オーガスはキスア伯爵に質問をした。


「まさか貴公が裏切ったのか?」


 オーガスに問い詰められたキスア伯爵にホムラを含むその場の全員が視線を向ける中、キスア伯爵が口を開いた。


「申し訳ありません。最初から裏切るつもりでオーガス様に近づきました。できれば計画そのものを止めたかったのですが、…残念です」

「私がこの国で妙な動きがあると気づいて調べている時、こちらの方から声をかけて下さいましたの。この方のおかげであなた方の動きは手に取る様に分かりましたわ」


 オーガスにだけ見える角度で嗜虐的な笑みを浮かべたホムラを見て、オーガスは怒りに体を震わせた。

 自分が一番信頼していたキスア伯爵の裏切りを知り、オーガスはこれまでの怒りを全てキスア伯爵にぶつけた。


「ふざけるな!貴公を信頼して全て打ち明けた私の期待を裏切りおって!この裏切り者が!」


 自分を信頼していた父親を殺そうとした人間が何を勝手なことをと恭也が思っていた中、オーガスは更なる行動に出た。

 怒りに我を忘れたオーガスは、そのままキスア伯爵に火球を撃ち出したのだ。


 オーガスが暴れること自体は想定していた恭也は、いつでも『キドヌサ』を発動できるようにしていた。しかしオーガスが魔法まで使うとは思っておらず、恭也は慌ててキスア伯爵の前に『魔法障壁』を発動した。

 その後恭也は『キドヌサ』で床に縛りつけられたオーガスとキスア伯爵の間に立ち、オーガスに落ち着くように言った。


「とりあえず落ち着いて下さい。もうあなたの計画は失敗したんですから、これ以上暴れても意味無いですよ」


 この状況で恭也にこう言われても煽っているようにしか聞こえないだろうと言った恭也ですら思った。そして実際恭也の発言を受け、オーガスは激高した。


「私が父上を殺すのを隠れて見ていたわけか?さぞ愉快だっただろうな?」

「いえ、それに関してはいざとなったらためらってくれるかなと期待してたんですけど…」


 オーガスに怒りの視線を向けられた恭也は、ばつが悪そうに視線をオーガスからそらした。

 そもそも今回、ザウゼンはオーガスに殺されていない。

 オーガスがザウゼンの部屋に入った時点で恭也は『幻影空間』を発動していた。


 部屋に入って以降のオーガスが室内で見ていたザウゼンは、『幻影空間』でザウゼンの姿を映されたウルだった。

『幻影空間』は視覚しかごまかせないので、実際オーガスに殺される役を誰かがする必要があった。


 ホムラの眷属では発する高温でばれてしまうため、恭也は自分がするつもりだったのだがホムラはもちろんウルすらこれに難色を示した。

 その後恭也の発案でじゃんけんで決めることになり、じゃんけんに負けたウルが『ザウゼン役』をすることになった。


 ウルの演技力には不安が残ったが、とりあえず一言もしゃべらずに攻撃をされたら倒れるという大雑把な演技方針に従ってウルはなんとか『ザウゼン役』を演じ切った。

 なおその際のオーガスのザウゼンへの全くためらいの無い攻撃を見て、恭也はザウゼンを同席させたことを後悔した。


 恭也としてはオーガスがザウゼン殺害をためらったら、ザウゼンを説得してオーガスを恭也が管理している刑務所に入れようと考えていた。

 しかしさすがにあそこまで容赦なくやられると恭也としても擁護しようがない。

 残念だが後はセザキア王国に裁きをゆだねるしかないだろう。

 そんなことを考えていた恭也にオーガスが食って掛かってきた。


「ためらうだと?私がどれだけの覚悟で今回の件を決意したと思っている?貴様ら異世界人は我々の世界を食い散らかす害虫だ!私は失敗したがいずれ必ず天罰が下るぞ!」


 このオーガスの発言を聞き、しばらく考え込んだ後で恭也は口を開いた。


「異世界人って一括りにされても困るんですよねー。他の国の王族のみなさんだってあなたみたいな短絡的な人と一緒に王族なんて一括りにされるの嫌でしょうし」

「なんだと!」

「あなたの言葉を借りるなら、害虫同士で潰し合おうとしてるんだから放っておけばよかったんです。それなのに僕に危害を加えるならまだしも、実の父親を殺そうとするなんて。あ、その様子だと気にしてるか怪しいですけど、さっきあなたが殺した王様は僕が作った幻です。だからあなたは実の親を殺したわけじゃないんで、そこは安心して下さい」


 自分なりに覚悟を決めて実行した親殺しすら邪魔されていたと聞き、オーガスはついに怒りで自分を奮い立たせることすらできなくなった。


「あなたは僕と境遇が似てる人の一人だと思ってたんで僕への暴言ぐらいなら我慢しようと思ってましたし、今回もできるだけ穏便に済ませたかったんですけど、こんな形になって残念です」

「私とお前が同じだと?」


 上ずった声で恭也の発言に反応したオーガスに恭也は自分の考えを伝えた。


「はい。僕は今の能力、あなたは王子としての地位。僕たちはどっちも何の苦労もしないで大きな力獲得しましたよね?だから最初に会った時、僕も気をつけないとこうなるかもと思って、あなたのことは見てました。あなたと比べたらティノリスの十歳の女王の方がまだきちんと振る舞ってましたよ」


 自分が十歳の子以下だと言われて怒りに口を開こうとしたオーガスだったが、それより先に恭也が口を開いた。


「僕やその女王と違ってあなたには特にしたいことも無かったんで、力に振り回されちゃいましたね。お気の毒でした」


 そう言うと恭也はオーガスから視線を外してザウゼンに話しかけた。

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