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お茶会

 ノリスの王城へと転移した恭也はその後王城の一室に案内され、その部屋ではミゼクと軍服を着た男数人が待っていた。

 恭也は席に着くとさっそく例の異世界人とその対抗策について話すべく、まずは先日のオルルカ教国での一連の事件の光景をミゼクたちに見せた。


 数百体の中級悪魔の群れに加えて一日に二体の上級悪魔が現れたと知らされ、ミゼクたちは顔を青ざめていた。

 その後目玉の悪魔を通しての異世界人との会話も聞かせた上で恭也はティノリス皇国の協力を要請した。


「見てもらった悪魔は全て僕が話した異世界人が能力で作ったものです。しかも聞いてもらった通りこの異世界人はそれを遊び感覚で色んな国に送り込んで暴れさせる様な人です。この国が襲われた際にはできるだけのことはするつもりですけど、それにはティノリスの協力も必要です。そう思って今日はこの場を用意してもらいました」

「協力というのは具体的に何をすればいいのでしょうか?恭也様に見せてもらった限りでは我々があの悪魔相手に何かできるとは思えないのですが…」


 不安気な表情でミゼクがこう言ってきたが、恭也もティノリス皇国側がこの様な不安を持つことは予想していたのであらかじめ用意していた要求をした。


「もちろんと言うと失礼かも知れませんけど、みなさんに戦ってもらうつもりはありません。でもこうして知らせておけばちょっとした異常でも警戒してもらえると思いますし、それに二つ許可をもらいたいと思って今日は来ました」

「許可ですか?」

「はい。ガーニスさんの協力を取り付けたので、ナーベンダ、ピッカ、トキクシにガーニスさんの鎧を置く許可を下さい」

「あの巨大な鎧をですか?」

 

 この会議でガーニスの鎧が話題に出てくるとは思っていなかったらしく、ティノリス皇国の軍の幹部は驚いた様子だった。


「はい。ただの上級悪魔ならガーニスさんの鎧が二体もいれば勝てるでしょうし、もし複数の場所が同時に襲われた場合のことも考えると僕一人じゃ守り切れないので」

「分かりました。その三ヶ所にはすぐにこちらから手配をします」

「しかしその三ヶ所では海沿いの街が襲われた場合対処できないのでは?」


 恭也とミゼクが話していた横から軍服を着た幹部らしき男が話しかけてきたので、恭也はティノリス皇国の西側の海岸沿いの守りについて自分の考えを伝えた。


「はい。それに関しては不安ではあるんですけど、ガーニスさんに自分たちの近く以外も守って欲しいとは言えなくて……。ガーニスさんとはいい関係を作れてるとは思いますけど、それでもギズア族とみなさんの関係を考えたらこの辺りが限界だと思います」


 恭也のこの発言を受けてティノリス皇国側の面々はしばらく黙り込んでしまったが、やがて軍服の男が口を開いた。


「分かりました。失礼な質問をしてしまい申し訳ありません」

「いえ、ティノリスの人たちにとっては大事なことでしょうから。とりあえずもし上級悪魔が現れたら、すぐに逃げるということを徹底してもらえますか?この国の海岸沿いの街には火の魔神の眷属を配置しておいたので、僕なら異変が現れてから一分以内に駆け付けることができると思うので」

「分かりました。全ての街の軍や騎士団で避難の手順を確認させます」

「はい。お願いします。それと話は変わるんですけど、今でもティノリスでは悪魔召還に関する実験は行っているんですか?」

「いえ、フーリン様が女王になられてからは軍では一切悪魔に関する研究はしていません」


 恭也の質問に即答した軍服の男の様子を見て、恭也は別に人を犠牲にしなければ悪魔に関する実験自体を止める気は無いのだがと複雑な気持ちになった。

 しかも男のこの発言により恭也が言おうとしていたことが言いにくくなった。


 しかし言わないわけにもいかないので、恭也はソパスでヘーキッサたちに悪魔に関する研究をさせる予定だと伝えた。

 それを聞いたミゼクたちの反応は恭也の予想通りのものだった。


「あなたが悪魔の研究をするというのですか?」

「はい。人を犠牲にしないなら便利な技術だと思いますし、それにその辺ちゃんと言わなかった僕がいけませんでしたけど僕悪魔の研究自体は禁止したつもり無かったですから」

「……そうですか」


 何やら含みのある返事をしてきた軍服の男を無視して恭也は話を続けた。


「上級悪魔四体を気軽に操れるような異世界人を相手にしないといけないんですから、こっちも手段を選んでる場合じゃないと思います。やれることは何でもやるつもりです」


 その後しばらく恭也と軍服の男の視線がぶつかったが、そこにミゼクが横から声をかけた。


「恭也様の意気込みは理解できました。今回の件は我が国だけでなく周辺国家全体の危機だと認識しています。我が国としましては恭也様とはもちろん他の国とも協力体制を取っていきたいと思っております。その際はお力添えの程よろしくお願いします」

「……はい。できる限りのことはさせてもらいます」


 現時点でオルルカ教国との交渉がうまくいっていなかったので、恭也はミゼクの頼みに即答できなかったがまさか嫌とも言えなかった。

 このやりとりで少なからず気落ちした恭也だったが、何とか自分を奮い立たせると二つ目の提案をした。


「全部の街で兵士十人ずつに火の魔神の加護を与えたいと思っているんですけど、どうでしょうか?」

「はい。そうしていただけるならこちらとしては頼もしい限りです」


 恭也の二つ目の提案には特に難色を示さなかったミゼクを見て、恭也は事前に考えていた注意事項を伝えた。


「加護を与える人選についてはそちらに任せますけど、悪用した場合は僕の刑務所に連れて行くってことだけは伝えておいて下さい」

「はい。分かりました」


 恭也の念押しで気を引き締めた様子のミゼクを見て恭也は安心した。

 その後他の国の現状などの細かい点をいくつか話し合い、この場で決まらなかったことはホムラと相談して欲しいとミゼクたちに伝えて恭也は帰ろうとした。

 しかしここでミゼクから思わぬ提案をされた。


「陛下が恭也様と話をしたいとおっしゃっているのですが、よろしいでしょうか?」

「話?何についてですか?」

「特に何ということはなく雑談をされたい様でした。いかがでしょうか?」

「はあ、じゃあ、せっかくなんで……」


 周辺の五ヶ国の首脳部とほとんどうまくやれていない現状を考えると、周囲の反対を押し切ってまで恭也に領地をくれたフーリンとは仲良くやっていきたい。

 完全に想像だがまるで得意先回りの最中に相手にお茶に誘われてしまった様な状況に戸惑いながらも、恭也はフーリンの待つ部屋に向かった。


 恭也が部屋に入ると部屋にはフーリンの他に以前恭也に火球を叩き込んだ女性、シアがいた。

 シアはお茶の用意を済ませると恭也とフーリンに一礼して部屋から出て行った。

 恭也が言うのも何だが一国の女王と男を二人きりにしていいのだろうか。

 もちろん何もする気は無いが恭也の方が心配してしまう程の警戒心の無さだった。

 フーリンに勧められて恭也が席に着くと、フーリンが小さく頭を下げてきた。


「今日はお忙しい中お招きしてすみませんでした。一度恭也様とはゆっくり話をしたくて」

「いえ、それは大丈夫ですけど、でも僕おもしろい話とかできませんよ?」

「いえ、他の国の話などを聞けるだけでも嬉しいです」

「そうですか……」


 ノムキナよりさらに年下の女子とどんな話をすればいいのだろうかと悩んでいた恭也だったが、幸いフーリンの方から話を振ってきた。


「ミゼクさんから少し話を聞きましたけど、オルルカでは大変だったみたいですね」

「はい。最初に会った異世界人がガーニスさんだったんで油断してましたけど、ああいう異世界人もいるんですよね。よく考えたら僕もこっちの世界に来たばっかりの時はセザキアでも大変でしたし」

「セザキアの内情はかなり落ち着いていると聞いていますけど何かあったんですか?」

「ミーシアさんって分かりますか?」

「異世界人の血を引いてる方ですよね?」


 フーリンの返事を聞き、直接国境を挟んでいるわけではないティノリス皇国にまで名前が知れ渡っているミーシアの知名度を恭也は改めて思い知らされた。


「はい。色々あってその人と戦うことになって、その時の僕は今より全然弱かったんですごく苦労しました」

「確かクノンの精霊魔法を使える方とも戦ったんですよね?」

「はい。まあ、あの人に関しては実際に倒したのウル、闇の魔神ですけど」

「私が言うのも何ですけど、どこに行っても戦っているんですね」

「そうですね。正直言うと僕が来るまでよくこの大陸無事だったなとは思います」


 恭也のこの率直そっちょくな発言を聞き、フーリンは少し考え込んでから口を開いた。


「私は恭也様に教えてもらうまでこの国のことすら知らなかったですけど、最近ではミゼク様に色々教えていただいています。クノンでもエルフは国と距離を取っているらしいですし、オルルカでも生まれつき闇属性しか使えないラミアという種族は肩身の狭い思いをしていると聞きました」

「へー、クノンには何度か行きましたけどそれは知らなかったです」


 恭也がクノン王国に行く際はほとんど王城にしか行かない。

 ティノリス皇国やネース王国の様な形で自由に振る舞えるわけでもなければ、セザキア王国の様に大きな貸しがあるわけでもないからだ。


 オルルカ教国に関しては今のままだと前者寄りの関係になってしまいそうで、恭也としても頭が痛かった。

 オルルカ教国のラミアに関しては恭也も知っていたが、フーリンの知識は少し間違っていた。


 確かに国中にいるというわけではないが、恭也が聞いた話ではオルルカ教国の北西部に集中して住んでおりその辺りでは街中で普通に見かけるらしい。

 ラミアがオルルカ教国の一部にしかいない理由は、生まれつき闇属性しか使えないからだけではない。


 ラミアは下半身が蛇の人型の種族で女性しか生まれず、そのため子供は他の種族との間に作るしかない。

 しかし他の種族と家庭を持つという習慣が無いため、人間からすればかなり貞操観念の低い種族だった。


 そのためラミアに嫌悪感を持つ人間は多く、その結果としてラミアはオルルカ教国の北西部に追いやられたらしい。

 幸いと言うと語弊があるがそういった種族には一定の需要があり、ラミアも本気で人間たちを怒らすわけにもいかないので闇魔法で無理矢理関係を持つということはしない。


 そのためラミアを皆殺しにしようという動きまでは出ていないらしかった。

 この話を聞いた時はラミアを野放しはさすがにまずいのではと恭也は思ったのだが、人間の女性たちが嫌悪感を覚える程度で実害も無いため放置されているらしい。


 ラミアに会う目的で街を訪れる男も多いらしく、宗教国家と言っても国民自体はそんなものかと恭也は思ったものだ。

 もっとも恭也が直接話した司祭たちも全員が高潔な人物というわけではなかったので、これに関しては恭也が宗教というものを過剰に美化していただけだろう。


 とはいえラミア関係の事情はまだ幼いフーリンとの話題にはふさわしくなかったので、恭也は話題を変えることにした。

 その後はフーリンの女王としての苦労話を聞いたり恭也が自分の能力で今後やりたいと思っていることを話すなどして一時間程の会話を二人は楽しんだ。

 そしてきりがいいところでホムラがオルルカ教国からもう一度話し合いを行いたいという連絡があったことを知らせてきたので、恭也はフーリンにそのことを伝えて会話を終えた。


「今日は本当に楽しかったです。また機会があったらぜひ誘って下さい」

「はい。その時はぜひ」


 笑顔のフーリンに見送られながら恭也はオルルカ教国へと転移した。

 その際のフーリンがノムキナと同じ様な表情をしていると恭也は感じたが、すぐに自分の勘違いだろうと思い直した。

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