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黒幕

 中級悪魔たちの群れを追いながらも恭也は『キュメール』や炎魔法で中級悪魔たちに攻撃を仕掛けたのだが、中級悪魔たちは一切反撃せずにひたすら目的地を目指していた。

 結局飛びながらの攻撃が思ったより難しかったため、恭也は中級悪魔たちが目的地に着いてから決着をつけることにして二時間程中級悪魔たちの後を追った。


(ったく、最初から散らばらないでくれりゃ楽だったのによ)

(今回の悪魔たちは自然発生した悪魔ではないんですもの。動きが面倒なのはしかたありませんわ)

(まったく、ふざけたことしてくれるよね)


 思い思いに今回の悪魔たちの襲撃についての感想を口にしていた恭也たちは、中級悪魔たちを追ってデコウスから南に五キロ程離れた地点に到着した。

 その後他の二方面からも中級悪魔の群れが飛来し、恭也が中級悪魔たちが目指している地点を『魔法看破』で見るとそこには一つの魔導具が置かれていた。


 その壺型の魔導具は複数の悪魔を取り込み強力な一体の悪魔に作り替えるという魔導具らしい。

悪魔たちが目指している魔導具の能力を知った恭也は、先程中級悪魔を生み出していた上級悪魔を『魔法看破』で見た時の情報を思い出して顔をしかめた。


 先程の上級悪魔は異世界人の能力によって創られた悪魔だった。

 さすがに異世界人本人を見たわけではないので異世界人の能力までは分からないが、この世界の魔法とは異なる異能であの上級悪魔には中級悪魔召還の魔法陣が刻まれるのではなく混ぜ込まれていた。


 その上こんなおあつらえ向きの魔導具まで用意していたとなると、今回の事件を引き起こした異世界人は明確に恭也の敵だった。

 今回のふざけた行いの報いは必ず受けさせてみせる。


 そう決意した恭也の前で魔導具に次々と中級悪魔たちが取り込まれていき、すぐに前回ネース王国で恭也が見た上級悪魔と同等の巨体を持つ青い上級悪魔が姿を現した。

『魔法看破』で見るとこの上級悪魔の保有魔力は四万程で、ネース王国に現れた上級悪魔の保有魔力が八万程だったことを考えるとかなり弱い悪魔だった。


 もちろん保有魔力はあくまで魔法や能力に使えるエネルギーの量なので、保有魔力だけで目の前の悪魔の脅威は分からない。

『空間転移』や『時間停止』の様な面倒な能力を持っている可能性はあるからだ。


 しかし今回の上級悪魔にはそんな能力は無く、『魔法看破』によると水魔法を除けば周囲の水や水の精霊を取り込んで魔力を増やすという能力があるぐらいだった。

 ここは海から数キロ離れているのでこの能力を恐れる必要は無かった。


 ガーニスの盾の様に能力で強化されているならともかく、ただ保有魔力が多いだけなら五万以下の魔力の塊などウルの『アビス』で一発だ。

 これだけの騒ぎの最後の相手がこれかと拍子抜けさえした恭也は、これから忙しくなるので手っ取り早く終わらせようと上級悪魔に近づこうとした。


 その時だった。

 上級悪魔が体を震わせたかと思うと周囲から何かを取り込み始めた。

 その直後『自動防御』により『無敵化』が発動してしまったため、恭也は慌てて『魔法看破』を発動した。


ちなみに恭也が『魔法看破』を常時発動していない理由は、五秒以上続けて使うと三十秒程視力を失ってしまうからだ。

 恭也は『魔法看破』により上級悪魔が周囲半径一キロ以内にある水分と水の精霊を吸収していることを知り、『無敵化』解除後すぐに『魔神化』を行った。


 生身ではすぐに干からびてしまっただろうし、『無敵化』をそう何度も使っていては魔力が切れてしまう。

 恭也の魔力はオルルカ教国に来た時点で二十万を切っていて、その後の活動により今の魔力は十万を切っていた。


 その後十秒程かけて上級悪魔が周囲の水分と水の精霊を吸収し終えると周囲一帯の地面は砂漠となり、空中にいる恭也の横を干からびた鳥の死体がいくつか落ちていった。

 体の色が若干濃くなった様子の上級悪魔に恭也が再び『魔法看破』を使うと、上級悪魔の魔力は二十万まで上昇していた。


(まじか)


 あっという間に目の前の上級悪魔が魔神単体を超える魔力を手にしたことに恭也は絶句した。

 周囲の水を取り込むという上級悪魔の能力の真価を見誤ったことに舌打ちすると、恭也は上級悪魔に攻撃を仕掛けようとした。

 しかしそれより早く上級悪魔が魔力五万を消費し、恭也の前に津波を出現させた。


 この津波は効果範囲こそ魔神の切り札に匹敵するが、威力は比較にならない程低かった。

 言ってしまえば大量の水を出現させただけなので、恭也の『物理攻撃無効』だけで防ぐことができた。

 しかし恭也の数キロ後ろにはデコウスがあり、高さは上級悪魔の身長と同じぐらいだが幅が数十メートルのこの津波を後ろに通すのは恭也としては避けたかった。


 そこで恭也は迷うことなく『ゴゼロウカ』を発動した。

 空中で発動された『ゴゼロウカ』は津波を瞬く間に蒸発させると、そのまま上級悪魔の体も焼き払った。


津波との衝突でほとんど威力を失っていなかった『ゴゼロウカ』は、上級悪魔の全身を容赦なく焼き尽くした。

 なお津波と『ゴゼロウカ』がぶつかった際に大規模な水蒸気爆発が起こったが、恭也はそれを意にも介さずに上級悪魔に近づいた。


 恭也が『魔神化』したまま高温の水蒸気の中を突っ切って上級悪魔に近づくと、上級悪魔はまだ『ゴゼロウカ』に体を焼かれていた。

この上級悪魔は保有魔力こそ膨大だったが、それを有効に使えるだけの能力や技術が無かった。


 上級悪魔は力任せに体から水を発生させて『ゴゼロウカ』に対抗しようとし、結局周囲の火を消し終えた時には上級悪魔の保有魔力は一万を切っていた。


(今回の首謀者がまた悪魔を送り込んでくるとしたら、次はもっと強いのを送り込んでくるだろうしオルルカでのギルド建設は無理矢理にでも進めないといけないね)

(…そうですわね。あれだけの魔力を持った上級悪魔が私たちと同等の能力を手にした場合、後手に回るのは危険ですもの)

(まあ、確かにこんなの何度も相手にしてたら俺たちの魔力も持たないしな)


 恭也たちは目の前の上級悪魔をすでに脅威とは考えておらず、実際息も絶え絶えといった感じの上級悪魔はその後『アビス』であっけなく消された。

 その後恭也の姿は消え、一分もしない内にその場には高温の水蒸気が漂うだけとなった。


 恭也と上級悪魔の戦いが終わって数分後、戦いの場となった場所から二キロ程離れた場所の地面から一体の中級悪魔が姿を現した。

 中級悪魔はその手に先程恭也が戦った上級悪魔を生み出した魔導具を抱えており、そんな中級悪魔を迎える一つの影があった。


 直径五十センチ程の球体に眼しかないその異形の存在は、どうやって発しているのか楽しそうな声を出しながら中級悪魔に話しかけた。

 といっても中級悪魔は主の指示こそ受信できるが会話はできないので、ただの独り言に近かったが。


「ふふっ、参った、参った。今回は実験だったから異世界人がいるっていうティノリスは避けたってのに、全然関係無い異世界人が来ちゃうんだもんな。ま、おもしろいものは見れたからよしとするか」


 そう言って触手を伸ばして目玉の悪魔が魔導具を受け取ろうとした時、横から何者かが魔導具を奪い取った。

 突然のことに驚いた目玉の悪魔だったが、透明になっていた犯人がすぐに姿を現したため落ち着きを取り戻した。


「あれっ、よく気づいたな。それともそういう能力を持っているのか?」


 突然現れて自分の魔道具を奪い取った恭也に文句を言うでもなく、目玉の悪魔は落ち着いた様子だった。

 そんな目玉の悪魔に恭也はそっけなく返事をした。


「あなたの質問に答える義理はありません。どうしてこんなことをしたんですか?」

「そっちだけ質問するのずるくね?」


 怒りを隠そうともしていない恭也の声を聞いても、目玉の悪魔は全く動じた様子を見せなかった。

「僕が答えたら答えるんですか?」

「もちろん。異世界人と話すのは久しぶりだからな。できれば仲良くしたいと思ってる」


 白々しい悪魔の発言に怒りを覚えつつも、恭也は悪魔を操る異世界人の質問に答えた。


「確かに僕は姿を消している相手を見つける能力を持っています」


 恭也は上級悪魔を倒した後『魔法看破』で上級悪魔の核となった魔導具が壊れたかどうかを確認したのだが、その際地下を通って魔導具と共に逃げる魔力の存在に気がついた。

 そのため黒幕に会うために姿を消して空中から追って来たのだが、今回の相手にそこまで説明する義理は無かった。

 恭也は手短に説明を終えると改めて目玉の悪魔に向けて質問をした。


「次はあなたの番ですよ。どうしてこんなことをしたんですか?」

「どうして?楽しいからに決まってるじゃないか?」

「楽しい?」


 今回の様な事件を引き起こした相手からまともな返事が聞けるとは恭也も思っていなかった。

 しかしあれだけの死者を出しておいて楽しいで済ませる異世界人の考えが恭也には理解できなかった。

 そんな恭也の前で目玉の悪魔から異世界人の声が聞こえてきた。


「俺のいた世界って化け物と戦うのが当たり前の世界で、そこで俺落ちこぼれ扱いだったんだよ。それがある日別の世界に連れて来られて、周りは自分より弱い奴ばっか。この状況で雑魚いたぶるのってそんなに変か?」

「……いくつか言いたいことはありますけど、僕が一般論言っても無駄ですよね?」

「分からないぜ?熱い言葉で説得してくれれば涙を流して改心するかも」


 悪魔越しの異世界人の声からは恭也を騙そうとする気配すら感じず、恭也はこの異世界人の説得を諦めた。


「悪いですけどあなたが言葉で改心するような人間とは思えません。オルルカが落ち着いた、僕が直接あなたを殴りに行きます」

「それは怖いな。一応聞くけど俺と手を組む気無いか?魔神とも契約してるみたいだし、それにこれはまじで驚いたんだけどお前人の蘇生ができるんだろ?俺とお前が手を組めばこの世界で何でもやれると思うんだけど」

「嫌です。あなたとは価値観が違うみたいですし、そもそも別の世界に来たぐらいで生き方変える気無いので」

「そうか。残念だよ。でも俺に勝てないと思ったらいつでも降参していいぞ。俺これまでに二人異世界人殺してるし」


 何でもない事の様に告げられたこの事実に恭也は少なからず驚いたが、相手の強さで言動を変えるようではこの悪魔を使役している異世界人と同類だ。

 どんなに難しくてもこの異世界人には必ず報いを受けさせて見せる。

 そう決意した恭也は中級悪魔を羽で斬り殺し、壺の魔導具を『キュメール』で破壊した。


「うわ、人の持ち物勝手に壊すなよ。それ超便利だったのに…」


 ここで初めて悪魔越しの異世界人の声が残念そうな声色になったが、恭也にこれ以上この異世界人と話を続ける気は無かった。

 すぐに目玉の悪魔も始末しようとした恭也だったが、それより先に異世界人が口を開いた。


「何でか分からないけど嫌われちゃったみたいだし、お詫びに一ついいことを教えてやるよ。この世界には俺がいる大陸とお前がいる大陸の他にもう一つ大陸があるんだが、俺は近い内にその大陸に四体の上級悪魔を送り込もうと思ってる」


 この異世界人の発言を聞き、恭也はすぐに口を開けなかった。


「全部魔力切れで消えないようにした改良型だから、きっとおもしろいことになると思うぜ。俺との戦いとどっちを優先するかはお前の自由だけどな」

「あなたの能力で作ったんですか?」

「さあ?これ以上個人的な話がしたければ俺に直接会いに来い。そうそうついでに言っておくと、南にあるその大陸には二人の異世界人もいるから気をつけろよ。陰ながら応援してる。それじゃ」


 そう言って目玉の悪魔は姿を消し、恭也は悪魔の透明化を『魔法看破』で見破りすぐにウルの羽で真っ二つにした。

 この際に今回の異世界人の能力が『物質の破壊と再構成』であることを知った。


 この能力で下級悪魔十体に光属性と風属性の魔導具を混ぜ合わせた結果があの目玉の悪魔らしい。

 戦闘以外にも使える能力のため、搦め手でこられるとかなり面倒そうだった。

 しかも物質を破壊してそのままということもできるらしいので、殺傷力が低い能力というわけでもなかった。

 ガーニスと違い明確に悪意を持った異世界人の存在に恭也は気が重くなるのを感じた。


 一方恭也から遠く離れた地で、恭也が先程まで話していた異世界人、ディアンは嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 ディアンはこの世界に四番目に来た異世界人だ。


 ディアンは髪の色こそ薄いものの、それ以外は恭也のいた世界の人間と変わらない見た目をしていた。

 唯一目を引くとしたら、ディアンの両腕に刻まれた黒い刻印ぐらいだろう。


 ディアンは今回見た恭也の戦い振りを思い出し、久しぶりにおもしろそうな遊び相手が見つかったことを喜んでいた。

 今回の異世界人はこれまでディアンが戦った異世界人たちを比べるとかなり多彩な能力を持っている上に、少なくとも闇と火の魔神と契約しているようだった。


 しかしある理由からディアンが他の異世界人に負けることはあり得なかった。

 格上との戦いなどディアンはごめんなので、次々に送られてくる異世界人はディアンにとって理想的な遊び相手だった。


 何故かこの大陸に封印されていた魔神と戦うことができなかったこと以外はディアンはこの世界の生活に不満は無い。

 しかし最近退屈していたのも事実で、そろそろ別の大陸でも遊ぼうと思っていた矢先に今回の異世界人だ。


 上級悪魔を作るのだって楽ではなく、一体作るのに平均して一ヶ月はかかる。

 それだけの力作数体を使っての遊びなのだから、他の異世界人共々あの少年には精々楽しませてもらおう。

 そう考えたディアンはあの少年がディアンを直接叩くことを優先した場合に備え、念のため護衛用の上級悪魔を一体追加で作ることにした。

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