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新たな予定

「じゃあ、恭也さんの世界ではみんな学校に通っているんですか?」


 牧場の工事を行っていた場所から水路の工事現場までの道中、恭也とノムキナは恭也がいた世界の学校について話していた。


「通ってるっていうか、通わないと怒られるというか…。最低九年間は通うってことになってましたけど、実際のところは十二年間通う人が多かったですね。もっと勉強した人はさらに通うこともできましたし」

「…そんなに何勉強するんですか?」

「そうですね。…この世界と違う事っていったら科学とかかな」

「科学?」

「大雑把に言うと誰でも六属性全部の魔法が使えるようになる魔導具です」

「そんなのがあるんですか?」


 恭也の発言に驚いたノムキナに恭也は『情報伝播』を使って恭也の世界の様々な技術を見せた。

 五分にも満たない時間だったが、それでもノムキナには衝撃的だった様でしばらく声を失っていた。


「すごいですね。特にいんたーねっとというのは、連絡も買い物もその場でできるなんてほんとにすごいです!あれを恭也さんの世界の人はみんな作れるんですか?」

「いや、みんなってわけじゃありません。例えばさっき見せた飛行機を作れる人はパソコンが壊れても修理できませんし、僕もそうですけど機械の修理なんて全然できない人もたくさんいました」

「…それって十二年間の勉強の意味無くないですか?」


 学生が一度は抱く疑問を口にしたノムキナに恭也はどう説明するべきか悩んだ。

 受験という概念を説明してもぴんとこないだろうし、そもそも翻訳や通訳、観光といったこの世界には無い職業もたくさんあるためノムキナに恭也のいた世界のことを一つ説明する度に別の疑問が出てくるだけできりがない。

 そう判断した恭也はやや乱暴ではあったが話をまとめることにした。


「そうですね。学校で勉強したことなんて大人になったら半分も使いませんし、実際学校に真面目に通ってる人ばっかじゃなかったです。少なくとも僕のいた国は子供が働かなくても別に困らない程度には平和で裕福だったので…」

「…恭也さんは元いた世界に帰りたいですか?」


 しばらく考え込んだ後ノムキナが突然話題を変えたことに若干驚いた恭也だったが、真面目なノムキナの顔を見てすぐに口を開いた。


「帰りたいとは思ってます。でも僕をこの世界に送り込んだ人によると、帰っても家族や友達は僕のこと覚えてないみたいなんで長居はするつもりないです。あっちの物持って来れたら便利だと思うので行き来できればいいんですけど、こっちの世界でかなりやりたい放題しちゃったんで今さら元いた世界に帰る気は無いです」

「そうですか」

「どうかしましたか?」


 恭也の返事を聞き黙り込んでしまったノムキナを見て、恭也は不思議に思った。

 こうして案内役を買って出てくれたぐらいなのだから、少なくともノムキナから嫌われてはいないはずだと恭也は考えていた。


 しかし恭也が元いた世界に帰る気は無いと言った直後に黙り込んだノムキナを見て、恭也はどう声をかければいいか分からなかった。

 その後しばらく経ってからノムキナは口を開いた。


「…いきなり黙り込んですみません。恭也さんが元いた世界に帰る気は無いと聞いて安心してしまって」

「えっ?」

 予想だにしていなかったノムキナの発言に戸惑った恭也を見て、ノムキナは慌てた様子で謝ってきた。

「ごめんなさい!恭也さんは無理矢理この世界に連れて来られたのにこんなこと言って…」


 そのまま黙り込んでしまったノムキナに恭也は自分の気持ちを素直に伝えた。


「ノムキナさんが気にすることじゃないですよ。それに僕元いた世界では平凡な高校生でしたからね。それがこうして別の世界に来て色々珍しい物も見れてとっても満足してます。もちろん嫌なこともありますけどそんなの元いた世界でも同じでしたからね」


 恭也のこの発言を聞き、完全に吹っ切れたわけではないだろうがノムキナは何とか笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます。恭也さんみたいな人がこの世界に来てくれて嬉しいです。さあ、行きましょう」


 そのままノムキナは恭也を先導する形で工事現場まで向かった。


 恭也たちが水路を開発中の現場に着くと、そこでは五十人近い人間が魔導具を使いひたすら水路を作っていた。

 ユーダムで水路を作っていると報告書で読んだ時、農業用の水なんて魔法で出せるのだからわざわざ手間と時間をかけてまで水路を作る必要は無いのではと恭也は思った。

 しかしこの水路は大量の荷物の運搬にも使うため、将来的にはかなり重要になるという話だった。


「いやー、それにしても魔導具ありとはいえ、この人数でこれだけの土木工事ができるなんてすごいですね」

「さっき恭也さんが見せてくれた重機っていうのは効率が悪いですからね」


 先人たちの英知の結晶を否定されて複雑な気分の恭也だったが、大量の水や土に直接干渉できる魔法が相手では分が悪かった。

 今も目の前で地形が瞬く間に変わっていくのを見た恭也は、これには勝てないと素直に思った。


 もっとも魔法と科学どちらにも向き不向きがあるのだから優劣を決めるようなことではないのかも知れないが。

 完成予定は三ヶ月後というノムキナの話を聞き、自分なら数日で終わらせることができると恭也は思った。


 しかし彼らの仕事を奪うわけにもいかないので、結局恭也は彼らと少し話をするだけでその場を後にした。

 その時ちょうどいい時間だったので、恭也とノムキナは工事現場から少し離れた所で昼食をとることにした。


『格納庫』からノムキナから預かっていた荷物を取り出す時、野宿用の家を取り出そうと恭也は思ったのだが、せっかく静かな郊外に来て外で食事をしようというのにそれも野暮かと思い直して結局止めた。

 その後地面に布を敷いてから恭也たちは食事を始めた。


「おっ、いつもとは違う料理ですね」

「はい。今日は冷めても大丈夫な料理にしたので。セザキアの料理なので口に合うか分かりませんけど…」

「いえ、おいしいですよ。それにしてもノムキナさんたちにはいつもごちそうになってばかりですね。僕明日からオルルカに行くんです。そこでの用事が終わってからになりますけど、今度は僕から誘っていいですか?」

「えっ?」


 ノムキナは最初自分が何を言われたのか分からなかった。あまりに自分に都合がいい内容だったからだ。

 しかし続く恭也の発言はノムキナを冷静にさせるには十分だった。


「前からノムキナさんとゼシアさんには何かお礼をしないといけないと思ってたんです。多分かなり後になりますけど、ってあれ?ノムキナさん?」


 いきなり黙り込んだノムキナに戸惑った恭也が声をかけると、ノムキナは慌てて返事をした。


「すいません!いきなりだったんでぼーっとしちゃいました。私はもちろん、ゼシアちゃんもすごく喜ぶと思います」

「せっかくですしクノンに行こうと思ってるんですけどいいですか?」

「えっ、泊まりってことですか?」


 ゼシアと一緒ということが少し残念だったが、ノムキナは初めての恭也からの誘いに喜んでいた。しかしさすがに泊りがけで遊びに行くのはまだ早い気がする。

 色々想像して顔が熱くなったノムキナに恭也は『救援要請』のことを説明した。


 恭也の説明を聞いたノムキナは突然聞かされたとんでもない能力に言葉を失った。

 恭也からの誘いに浮かれた直後にすっかり慣れたつもりだった恭也の能力に驚かされ、ノムキナはもう何を言えばいいのか分からなかった。


「とりあえず予定が決まったらまた二、三日前に知らせますね」

「はい。楽しみにしてます」


 その後二人は会話と食事を楽しんでからユーダムに帰った。


 恭也とノムキナがユーダムに帰ると、ちょうど学校から帰る途中だったゼシアと会った。

 学校に急に行かなくてはならなくなったというのは嘘だったが、かといって家にいてはその嘘がばれてしまうかもしれない。

 そのためゼシアは実際学校に行き、教師役をしている者たちの手伝いを行っていた。

 恭也が去った後、ノムキナはさっそく先程の恭也からの提案をゼシアに伝えた。


「へー、恭也さんの能力でクノンまで…」


 ノムキナから恭也の提案を聞き、ゼシアはしばらく放心状態だったがすぐに気を取り直した。


「旅行先がいきなりクノンっていうのはさすがに想定外だったけど、でもこんなに早く恭也さんから誘ってもらえるなんてよかったね」

「うん。…でもどうしよう?行き先がクノンだとどうすればいいか分からないよ」

「うーん。こればっかりは行ってから決めるしかないね。最初少し手伝ってから二人きりになれるようにするから、後はその場の雰囲気でがんばって」

「えっ?」


 想像以上に大雑把な指示を受けてノムキナは驚いてしまった。


「その場の雰囲気…」

「ごめん。でも私もクノン行ったこと無いし…」

「ゼシアちゃんが謝ることないよ。…何とか一人でがんばってみる」


 そう言って今までにない強いまなざしを見せたノムキナを見て、ゼシアは嬉しそうに笑った。

 

 ウルとホムラを手元に呼び戻して合流した恭也は、すぐにオルルカ教国の南部にいるホムラの眷属のもとに転移しようとした。

 しかしその前にアズーバのギルドに配置していた眷属からある知らせがあったとホムラが恭也に告げてきた。


(報告自体は昨日でしたけれどアズーバでけが人が出たそうですの。右腕に大きな傷を負ったらしく物も持てない状態らしいですわ)

(分かった。じゃあ、オルルカ行く前に治しに行こう)

(ただ一つ問題がありますの)

(ん、何?)

(その男は一般市民でとても治療費を払えそうにないんですの)

(だからって放っとけないよ。今すぐ治しに行こう)


 お金が無いからという理由で重傷を負った人間を見捨てる気は無い。

 ホムラの判断に少なからず怒りを覚えた恭也だったが、ホムラの話はまだ終わりではなかった。


(マスターならそうおっしゃると思いましたわ。でもそうすると今後他の場所で治療を行う際も治療費を取れなくなりますわよ?)


 ホムラのこの指摘には恭也もすぐに反論できなかった。

 これまで恭也は『治癒』による治療で銀貨二十枚を治療費として請求してきた。

 これはこの世界の一般人にとってはかなりの大金だ。

 おそらく今回けがを負ったという人物には払えないだろう。

 どうするべきかしばらく考えた恭也だったが、優先順位を間違ってはいけないとすぐに結論を出した。


(うーん。とりあえず治して、治療費はある時払いってことにしよう。僕が役に立つっていう宣伝も兼ねてるわけだし)

(ある時払い?そんなの踏み倒されるに決まってるじゃねぇか)

(それならそれで別に構わないよ。あるところからはもらおうってだけで別にお金が目的じゃないし)

(…甘過ぎると思いますけれどこれ以上話しても時間の無駄ですわね。眷属からけが人の住所は聞いていますわ。すぐに向かいますわよね?)

(うん。ついでに僕の治療をギルドで正式に受け付けるようにしよう。料金は今まで通りである時払いってことで)

(かしこまりましたわ)


 治療費の取り方についてホムラは不満がありそうだったが結局は何も言わなかったため、恭也はアズーバへと転移した。

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