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譲渡

「言葉を選ばないで言うなら表面的な付き合いってやつをしてます。どうも警戒されているみたいで……。でも城に行けば会ってはもらえるのでクノンの王様にみなさんの代表を会わせるところまではできると思います」

「分かりました。ではこちらの準備が出来次第、お願いしたいと思います」

「その使節団っていうんですか?は何人送る予定ですか?」

「どういう意味ですか?」


 ティノリス皇国がクノン王国に送る人間の数を恭也が気にする理由が分からなかったので、フーリンは不思議そうな顔をした。

 そんなフーリンに恭也は自分の考えを伝えた。


「五人までなら僕の能力ですぐにクノンまで送れるので一応確認をしとこうと思って」


 恭也の『救援要請』は別に恭也が危機的状況になくても使える。

 対象が一人だけなので『治癒』の様に数人まとめて対象にはできないが、恭也は往復に使う魔力十万ぐらいは必要経費と割り切るつもりだった。


 恭也から『救援要請』の能力内容を聞き、フーリンたちはしばらく言葉を失っていた。

 その後いち早く我に返ったミゼクが恭也に質問をしてきた。


「能様のその能力は相手を問答無用で移動させられるのですか?」

「いいえ、相手が拒否した場合能力は失敗します。ちょっと失礼しますね」

『救援要請』のこの仕様については実際に体験できるため、恭也は一度部屋から出てミゼクを対象に『救援要請』を発動した。

 ミゼクのものと思われる驚いた声を部屋の外で聞いた恭也は、部屋に入りミゼクに話しかけた。


「実際に体験してもらった通り、この能力は簡単に抵抗できます。多分誘拐を警戒してるのかも知れませんけど、そういう使い方はできないので安心して下さい」


 実際に『救援要請』を体験したミゼクは、立ち上がって恭也に謝罪した。


「…失礼なことを聞いて申し訳ありませんでした。どうして五人までなのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「この能力は魔力の消費が大きくて五人を往復させるのに僕の全魔力を使います。だからそれ以上の人を送る場合は悪いですけど歩いて行ってもらうしかないですね」

「なるほど、分かりました。送る人数や日時についてはまだ決まっていませんし、礼儀もありますので陸路で相手の国までは向かいたいと思います。能様には到着予定日をお知らせすればよろしいですか?」

「はい。それさえ教えてもらえれば前もって現地に転移しときます」

「分かりました。それでは陛下」


 クノン王国とオルルカ教国へ使者を送る段取りについて恭也と一通りの確認を終えたミゼクがフーリンに視線を向けると、フーリンはうなずいて近くに控えていた従者から剣と書状を受け取り、それらを恭也に差し出した。


「ソパスを治める権利を認める書状と証となる剣です。本当は正式な場で渡すべきものなのですが、失礼ながら能様はそういった場があまり好きではないようでしたのでこの様な形をとらせてもらいました」

「それは助かります。そういうところに呼ばれても恥をかくだけなんで。もうソパスのことは好きにしていいんですか?」


 聞きようによっては傲慢ともとれる恭也のこの発言にフーリンは顔色一つ変えずに答えた。


「はい。他の街への周知は明日以降になりますが、ソパスの統治については能様のご自由にどうぞ。ただ一応は我が国の領土内ですのでお気遣いいただければと思います」

「そこまで無茶なことする気は無いので安心してください」


 フーリンの発言を聞き、ようやく自分の質問が乱暴過ぎたことに気づいた恭也は慌てて暴君になる気は無いことを伝えた。


「はい。信用させていただきます。能様がお望みなら文官を十名程用意しますがどうなさいますか?」

(文官か、どうするホムラ?)


 ソパス統治の諸作業はほとんどホムラに丸投げするつもりだったので、恭也はホムラに助けが必要か尋ねた。


(いりませんわ。人間たちの常識や倫理観については少し不安ですけれど、ソパスに残っている役人たちに聞けばいいですもの。ただ私の眷属が街を歩いていても騒がないように初めにソパスの人間に説明させる必要はありますわね)


 恭也がホムラの要望を伝えたところ、ティノリス皇国側の全員が恭也がホムラにソパスの統治をさせるつもりだと聞いて驚いていた。

 恭也としては恭也がすると思われていたことの方が驚きだったのだが、ソパスの住民はもちろんティノリス皇国の上層部にもホムラの眷属には慣れてもらわなくてはいけない。

 そう考えた恭也は、フーリンたちにホムラと眷属の関係について説明した。


「ホムラの眷属が見聞きしたことは全部僕にも伝わるので、僕自身だと思ってもらって問題無いですよ。実際今もギズア族の捜索は眷属通してやってますし」


 今この時も眷属たちはティノリス皇国中でギズア族の捜索・移送を行っていた。

 国中にホムラの眷属がいることは当然フーリンたちも知っていたので、これ以上何を言ってもしかたがないと思ったのだろう。

 黙り込んだミゼクたちを代表してフーリンが口を開いた。


「分かりました。我が国の不利益にならない限りは能様のすることに口を出すつもりはありません。これからよろしくお願いします」

「はい。何かあったらいつでも呼んで下さい。大抵のことは力になれると思うので」


 そう言うと恭也は眷属を五体召還し、ティノリス皇国が用意した文官に引き合わせてから城を後にした。


 恭也が姿を消した後もフーリンたちティノリス皇国首脳陣は会議室で先程の恭也とのやりとりについて話していた。

「まずは一段落といったところですな。あの異世界人がソパス以外の街も要求して来たら面倒だと思っていましたが、とりあえずはそうはならず安心しました」


 そう言って恭也を警戒していたことを隠そうともしないミゼクの様子にフーリンは眉をひそめた。


「ミゼク様はまだ能様のことを警戒しているのですか?」

「当然です。逆らっても勝てないという陛下の考えも理解できますのでソパスの譲渡にも賛成しましたが、あの異世界人が危険であることに変わりはありません。失礼ながら陛下はあの異世界人のことを信用し過ぎでは?」


 突如として現れてティノリス皇国中に監視の目を張り巡らせた異世界人。

 それがミゼクを始めとする現ティノリス皇国首脳陣大半の恭也の評価だ。

 最後までフーリンが折れなかったため話が通ったが、ミゼクは最後の方まで恭也へのソパス譲渡には難色を示した。

 しかしミゼクたちのそういった考えがフーリンには理解できなかった。


「能様は我が国の兵を一人も殺さなかった上にもう一人との異世界人との話までつけてくれました。その上先日の軍部の暴走の際も助けていただいたので、私は勝てないからという消極的な理由ではなく能様の人柄を信じて友好的な関係を築きたいと考えています」

「その考えは楽観的過ぎるかと……」

「でも能様に領土的野心が無いというのは事実だと思います。私と初めて会った時もこの国を統治するのは誰でもいいといった口振りでしたから」


 フーリンはミゼクたちに恭也がフーリンが駄目ならオルガナたちに逆らった貴族の誰かを王として擁立しようとしていたことを告げた。

 このフーリンの発言はミゼクたちにとって衝撃的だったようで、黙り込んだミゼクたちにフーリンは自分の考えを伝えた。


「楽観的だと言われても私は能様を信じたいと思います。全面的に味方をして下さっている方を警戒するのは無駄だとは思いませんか?ソパスを能様に譲渡した理由もミゼク様がおっしゃった様な理由ではないですし」

「あの異世界人に領地を与えて他の貴族たちと同じ様な立場にして様子を見る。いい考えだと思ったのですが……」


 ミゼクのこの発言を聞き黙り込んだフーリンを見て、ミゼクはため息をついた。


「ご安心下さい。我々としてもあの異世界人と積極的に事を構えるつもりはありません。あの異世界人が友好的に振舞っている限りは我々も陛下に従います。ただあの異世界人を警戒している人間が少なくないということは忘れないで下さい」

「……はい。無理を言ってすみません」

「それについてはお互い様です。クノンとオルルカに送る人選については決まり次第お知らせします」


 こうして恭也との会談後のフーリンたちの話し合いは終わった。


(ってな感じだったぜ)


 例によってフーリンたちの話を盗み聞きしていたウルは、フーリンたちの話が終わった頃を見計らって恭也のもとに戻ると会話の内容を伝えた。


(あの男、街一つを差し出したぐらいでマスターを部下扱いとは身の程というものが分かっておりませんわね)


 ウルの報告を聞くなり激高し始めたホムラを恭也はなだめた。


(こっちは盗み聞きしてるんだからこれで怒るのはさすがに悪いよ。ホムラは眷属通してミゼクさんと顔合わせることも多いだろうけど、我慢してよ?)

(それは分かっておりますわ。でも不愉快に思うのはしかたがないじゃありませんの)

(まったくだぜ!あのガキ見習って少しはしおらしくしろってんだ!)


 ミゼクの発言を直接聞いていたウルの怒りはホムラの怒りよりさらに激しく、恭也に今後魔神を通しての盗み聞きは控えようと決めさせる程だった。


(まあまあ、二人共落ち着いて。あんまり買い被られても困るけど、フーリンさんだけでも僕のこと信じてくれてるだけクノンより大分ましだよ。こっちからけんか売ることはまずないんだからティノリスに関しては大丈夫そうだね)

(後はもらった街どうするかだけか。本当に大丈夫なのか?)

(心外ですわね。その辺りの人間がやっていることですのよ?街一つの統治ぐらい完璧にこなしてみせますわ。ウルさんの手伝いは期待してませんけれど、魔導具作りぐらいはして下さいまし)

(りょーかい)

(ごめんね。面倒事全部押し付けちゃって。ウルもだけど僕も街の運営しろって言われても無理だからさ)

(マスターが気になさることはありませんわ。雑事は私にお任せ下さい。ただ落ち着いたら住民たちへのあいさつの場を設けたいと思っていますので、その時はよろしくお願いしますわ)

(ああ、そうか。領主になるんだもんね。あいさつか…。そんなに派手にしなくていいからね?いや、ほんとに)

(私としては大々的に行いたいところですけれど、マスターがお嫌ならそれなりの式典にさせてもらいますわ)

(うん。正直名前だけの領主になると思うし、それでいいよ)


 本音を言うと式典すら嫌なのだが、全てをホムラに丸投げしている身の恭也としてはそこまでは言えなかった。


(それにしても相談役の次は領主か。どんどん役職が増えていくな)


 呆れと喜びが半々といった感じのウルの発言に恭也は正直な感想を伝えた。


(どっちも名前貸してるだけだけどね。ま、ホムラの言った通り街もらえればギルドの普及は楽になるかな。あ、でもギルドに関してはネースの件が片付いてからでいいよ。ネースの方はどんな感じ?)

(ニコズに関しては、近隣の村を襲っているギルド職員も裏で糸を引いている貴族も全て特定しましたわ。けれど一つ謝らなくてはなりませんの。この者たちはアズーバにも協力者がいるようで、そちらについてはまだ調査が済んでおりませんわ)


 今回の調査で恭也はホムラたちの眷属に普段禁じている住民たちの私的空間への侵入を許可していた。

 そのためニコズの調査自体はすぐに終わったのだが、アズーバまで調べるとなると単純に移動に時間がかかってしまう。

 そういった理由でのホムラの謝罪だったのだが、恭也はすぐにアズーバへの転移を提案した。


(すぐにアズーバに行こう。透明になっての移動じゃ時間かかり過ぎるし)

(お手間をかけてもうしわけありませんわ。……お手間ついでにもう一つ頼みがありますの)

(ん?何?)

(一度セザキアに寄って、眷属を五体程街に放ちたいと思っていますわ。少し妙な気配がありますの)

(えっ、まさかセザキアにまで広がってるの?)


 そこまで巨大な犯罪組織ができあがっていたとしたら、今まで気づかなかった恭也が言えた義理ではないが周辺の貴族や衛兵は何をしていたのだという話になる。

 まさかそこまで今回の悪事に加担していた人間が多かったのだろうか。

 そう思い目まいすらしてきた恭也だったが、幸いそれは杞憂だった。


(いえ、セザキアに関しては別件ですわ。少し不穏な話を耳にしましたので裏付けをとりたいんですの。放置すると大事になりそうですので今回も調査対象の部屋への侵入を許して下さいませ)

(えっ、セザキアでそんな大事件が起こりそうなの?だったらそっちも早く片付けないとね)


 次から次にと呆れながらもそう意気込んだ恭也だったが、そこにホムラが水を差した。


(マスターが顔を出すのはまだ早いと思いますわ。まだ証拠があるわけではありませんし、私としても現段階では半信半疑なんですの。ですからこちらについてはしばらく私に任せて欲しいですわ)


 ホムラの言う疑いとやらの内容をホムラは言いたがらず、恭也が何度か問い詰めようとしたがそこにウルが割って入った。


(後で知らせるって言ってるんだからとりあえず放っとけよ。いくつも同時にやろうとして今回のギルドの件で馬鹿共調子に乗らせたんだからよ)


 このウルの発言はもっともだったので、恭也はすぐに引き下がった。


(そうだね。とりあえずネースの件に集中しようか。オルルカにも行かないといけないわけだし、一個ずつ片づけていかないとね)


 気を取り直した恭也は、ホムラに謝るとセザキア王国に転移した。

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