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密告

 コーセスに転移した恭也は、眷属から手紙を受け取るとそのままニコズへ向けて飛び立った。

 数時間かけてニコズに到着した恭也は、途中の店で遅めの昼食をとってからニコズの領主の屋敷へと向かった。


 恭也が領主の屋敷に到着した時はすでに夕暮れ間近だったので、恭也は明日会う約束だけして帰るつもりだった。

しかし屋敷から出てきた使用人から領主がすぐに会いたがっていると聞き、恭也は誘われるまま屋敷へと入った。

 恭也は屋敷の一室に案内されたのだが、領主はすぐには現れなかった。


(ちっ、前も似たようなことあったけど、恭也を待たせるなんて何様のつもりだ)


 いら立ちを隠さないウルに恭也は、今回は相手に落ち度が無いことを伝えた。


(事前に何も言わないでいきなり訪問されたんだもん。すぐ会いますとはいかないでしょ)


 まさか領主もジャージやパジャマで過ごしていたということはないだろうが、それでも客人と会うとなると着替えも必要なはずだ。

 明日顔を出して翌日に来てくれと言われたらフーリンたちとの約束とかぶってしまい、もしそうなったら非常に忙しい思いをしてしまう。


 そう考えて今日顔だけでも出そうと思ったのだが、やはり迷惑だったようだ。

 今大急ぎで恭也に会う準備をしているだろう領主に、恭也は申し訳ない気持ちを抱いた。

 その後十分程恭也が待った後、部屋の扉が開き、見たところ三十代の女と男の子、それに使用人二人が入ってきた。


「お待たせして申し訳ありません」


 部屋に入ってきて早々頭を下げてきた女に、恭也は立ち上がって気にしないように伝えた。


「いえ、こっちこそいきなり来てすいませんでした。あさってにはティノリスに行かないといけないので、できれば明日までに用事をすませておきたくて」

「なるほど、そういうことでしたか。お忙しい中ありがとうございます」


 その後お互い席に着くと、女が自分と男の子の紹介をした。


「私は現在ニコズの領主代理を務めているパナエ、この子は息子のキーフェといいます」

「初めまして。キーフェ・ハジュ・ニコズと申します。どうぞお見知りおき下さい」


 まだ十歳にもなっていないキーフェのあいさつはたどたどしいものだったが、恭也も人のことをどうこう言える程社交慣れしているわけではない。

 笑う気にはならずそのままパナエとの話を始めた。


「領主代理ってことは、領主はあなたのご主人ってことですか?」


 何気なく気になったことを聞いただけだったのだが、恭也のこの質問に室内の全員の表情が変わり、また自分が失言をしたことを恭也は悟ったが後の祭りだった。

 そんな中パナエが戸惑いながらも恭也に質問をしてきた。


「私の手紙を読んで来て下さったのではないのですか?」

「あー、すいません。僕この世界の文字ほとんど読めないので、何か相談があって手紙をもらったってことしか分かってません」

「…なるほど。そういうことでしたら初めから説明いたします」


 パナエの説明によると、ニコズの前領主、テスカ・ハジュ・ニコズは二週間前に病でこの世を去ったらしい。

 テスカの子供は九歳のキーフェと五歳の弟しかおらず、キーフェがこの世界で成人と見なされる十五歳になるまではパナエが領主代理を務めているとのことだった。


 しかしパナエが領主代行になった途端、一部の貴族や役人が勝手な行動を始めてしまい、自分一人ではニコズを管理できないと判断したパナエは、恭也に後ろ盾になってもらおうと手紙を出したらしい。


「後ろ盾って具体的にどういうことをして欲しいんですか?」


 さすがに抵抗勢力全員を武力で制圧して欲しいなどと言われても困るので、恭也はパナエに確認を取った。


「特に何かをして欲しいというわけではありません。能様が私に力を貸してくれていると思われるだけで、私に反発する者も減ると思いますので」

「なるほど。じゃあ僕からはこれを」


 そう言うと恭也はホムラの眷属を召還し、パナエたちに眷属についての説明を行った。


「眷属がいつも近くにいればあなたを馬鹿にしてる人たちへの威圧になりますし、何かあった場合すぐに僕に伝わります。すぐに僕ができることはこれぐらいですけど、どうでしょうか?」

「はい。ここまでのお力添えをいただけるとは思っておりませんでした。ありがとうございます」

「いえ、他にもして欲しいことがあれば遠慮無く言って下さい。どうせ協力するならお互い得をする関係を作りたいと思いますし」

「はい。その時はお願いします。まずは能様が考案されたギルドについて相談をしたいのですがよろしいでしょうか?」

「相談?」

「アズーバやチッスの領主とは主人が亡くなってから二度程手紙でやり取りをしました。ギルドの職員たちの士気はあまり振るっていないそうですね」


 パナエのこの指摘に恭也は黙り込むしかなかった。

 ギルドの職員の士気向上は、パナエの指摘した通りあまりうまくいっていなかった。

 言い出した恭也があまり顔を出さないのだから当然で、これまでだけですでに素行不良で二十人以上がくびになっていた。

 そのことを思い出して憂鬱になった恭也にパナエは話を続けた。


「サキナトで働いていた経験が無く信用できる人物を十二名までなら紹介できます。それにギルドの名を悪用している貴族についての情報も提供できます」

「ギルドの名を悪用?」


 今のギルドに悪用できる程の知名度は無いだろうと不思議に思った恭也だったが、パナエが口にした情報というのはとんでもない内容だった。

 キーフェを退室させた後パナエがした話によると架空の依頼を受けて現地に向かった職員たちが、悪魔の仕業に見せかけて小さな村を襲っている疑いがあるらしい。


 それを聞いた恭也は、自分の見通しが甘かったことを今さらながら思い知らされた。

他国から人をさらって売りさばいていた連中に何を期待していたのか。

 あまりの怒りに頭痛を感じ始めた恭也を見て、パナエは少なからず恐怖を覚えた様子だったが最後まで話を続けた。


「といってもきちんとした証拠があるわけではありません。近くの貴族の何人かがギルド職員を頻繁に家に招いていたり、悪魔に襲撃されたと報告があった村に略奪の形跡があったといった状況証拠ばかりでして…」

「目星をつけている貴族の名前を教えて下さい。証拠集め、というより調査はこっちでやります」

「そこまでお任せしていいんですか?」


 パナエとしては恭也の名前を借りる見返りとして情報を提供しただけで、恭也がここまで積極的に動くとは思っていなかった。

 しかし恭也はこの時点でギルド運営に本腰を入れることを決めており、その前準備として掃除はきちんと行うつもりだった。


「組織作るだけ作って放っておいた僕が悪いんですから、責任は取ります。とりあえず僕の名前は好きに使って下さい。よっぽどのことが無い限り文句は言いませんから」

「ありがとうございます。…私たちのこと以外でも能様にはご迷惑をおかけしてしまい、周辺の貴族に代わって謝罪いたします」


 そう言って深々と頭を下げてきたパナエに別れを告げた恭也は、早速ホムラの眷属三十体を召還してパナエに教えられた貴族の屋敷とギルドの支部の監視と調査、及びニコズ周辺の村の状況確認を命じた。


(さてと、あんまりおもしろいことにはなりそうにないね)

(マスターの恩情を踏みにじるとは、しっかりと教育して差し上げる必要がありますわね)

(まーた、雑魚の相手か…)


 すっかり犯罪者の巣窟と化していたギルドの職員に対する三者三様の感想を抱きながら恭也たちは、チッスへと向かった。


 ホムラの眷属たちに情報集めを命じたものの、すぐに結果が出るわけではない。

 恭也は情報収集を眷属たちに任せたまま、フーリンたちとの会談のためにティノリス皇国に転移した。

 ティノリス皇国の王城の一室に招かれた恭也は、フーリンから恭也へのソパス譲渡が正式に決定したことを伝えられた。


「ソパスを治めていた領主は親族共々能様が作った刑務所に収容され、今は国が代理で治めている状態です。能様さえよろしかったら今日にでも譲渡できるのですが、一つだけ条件があります」

「条件?」

「はい。我が国はオルルカとクノンの両国と長い間国交を絶ってきました。特にオルルカには何度も挑発じみた行為を行っていたようです。この二国とギズア族との仲介。それが能様にソパスを譲渡する条件です。いかがでしょうか?」


 さすがに街と周辺の土地をただでもらえるとは思っていなかったので、恭也としても何らかの見返りを求められることは予想していた。

 しかしクノン王国とギズア族はともかく、オルルカ教国には恭也は何の伝手も無い。

 フーリンたちに断ってから、恭也はウルとホムラとフーリンの提案について相談を始めた。


(オルルカの様子はどんな感じ?)


 恭也はその内オルルカ教国にも行くつもりだったので、いつでも転移できるようにホムラの眷属をオルルカ教国の北と南に一体ずつ派遣していて、今のところ特に異常があったという報告は受けていなかった。


(国境周辺、特にガーニス様がいる辺りはさすがに兵士が配置されて緊張状態でしたけれど、一触即発という程ではなかったですわ。現時点でもガーニス様の所では特に何も起こっていない様ですわ)


 一応連絡用にガーニスたちの所にもホムラの眷属は配置してある。

 ガーニスを怒らせた場合取り返しがつかないので本当に連絡用で、周囲の探索なども行わせていない。


この眷属はガーニスたちと取り決めた場所から微動だにせず待機しているが、それでも周辺に異常があればホムラに伝わるはずだった。

 オルルカ教国内の眷属からも特に異常は伝わっておらず、ティノリス皇国とオルルカ教国の仲介はそれ程難しくないのではと恭也は考えた。

 ただしギズア族については、恭也でも無理だった。


「オルルカについてはできるだけのことはさせてもらいます。ただギズア族に関しては、僕でも無理です。僕やガーニスさんの手前何もしないというだけで、ギズア族の人たちはティノリスを許したわけじゃないんで…」

「失礼でなければ慰謝料を用意しているのですが…」

「ギズア族の人たちあんまりお金に興味無さそうでしたし、まださらわれた人たちも全員助かったわけじゃありません。ギズア族に関してはあっちから何か言ってきたら、僕が仲介するということでどうでしょうか?」

「分かりました。ギズア族に関しては能様にお任せします」

「クノンに関しては、仲介と言っても僕もどこまでできるか分かりません。一応王様たちに会うぐらいはできますけど、あまり友好的とは言えない関係ですので…」

「そうなんですか?」


 恭也の弱気な発言を聞き、フーリンはもちろん他の者も意外そうな顔をしていた。

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